生命とは何か?「アセンブリ理論」が解き明かす複雑な世界の設計図
「生命とは何か?」この根源的な問いに、科学者たちは様々な角度から挑み続けてきました。遺伝情報を持つDNA、細胞という構造、自己複製能力…。しかし、明確な境界線を引くのは難しいのが現状です。
そんな中、「アセンブリ理論(Assembly Theory)」という新しい考え方が、生命と非生命、そして複雑なものがどのようにして生まれるのかについて、革新的な視点を与えようとしています。
今回は、このアセンブリ理論について、最新の研究を交えながら、できるだけ分かりやすくご紹介します。
アセンブリ理論とは?
アセンブリ理論を一言で表すなら、「複雑なものが、どれだけ多くの部品を、特定の順序で組み立てて作られたか」を数値化しようとする理論です。
提唱者の一人であるイギリス・グラスゴー大学のリー・クローニン教授は、分子の複雑さを測る新しい指標として「アセンブリ数(Molecular Assembly Index, MA)」を提案しました。
手元にたくさんのレゴブロックがあるとします。
単純なもの: 同じブロックを2つ繋げただけなら、アセンブリ数は小さいです。作るのに手間がかかりません。
複雑なもの: たくさんの種類のブロックを、設計図通りに何十ステップもかけて組み上げて作った精巧な宇宙船は、アセンブリ数が大きくなります。完成させるまでに多くの「組み立てステップ」が必要です。
アセンブリ理論では、この「組み立てステップの数」に着目します。ある分子が、より単純な構成要素から何段階の結合ステップを経て生成されたか、その最小ステップ数をアセンブリ数(MA)と定義します。MAが大きいほど、その分子は「複雑」で「偶然できにくい」と考えられるわけです。
最新研究が示す「生命らしさ」の新たなものさし
アセンブリ理論の面白いところは、実験的に分子のアセンブリ数を測定できる点です。研究チームは、質量分析という手法を使って分子をバラバラにし、その断片化のパターンからアセンブリ数を推定する方法を開発しました。
最近発表された研究では、このアセンブリ数を使って、地球上のさまざまなサンプル(生命由来のもの、非生命由来のもの、実験室で作られた複雑な有機分子など)を分析しました。その結果、驚くべき傾向が見えてきたのです。
生命由来の分子はアセンブリ数が高い傾向がある: 例えば、タンパク質やDNAといった生命活動に不可欠な分子は、明らかに高いアセンブリ数を示しました。これらは、進化の過程で洗練された「組み立てライン」によって作られるため、構造的にも生成的にも複雑なのです。
非生命由来の分子はアセンブリ数が低い傾向がある: 一方で、隕石に含まれる有機物や、単純な化学反応で作られる分子は、アセンブリ数が比較的低い値にとどまりました。
つまり、アセンブリ数が一定の閾値を超えるかどうかで、その物質が生命活動の結果として生じたものなのか、それとも偶然の産物なのかを区別できる可能性が示唆されたのです。これは、地球外生命探査においても非常に強力なツールになるかもしれません。火星の土壌や土星の衛星エンケラドゥスの噴出物などを分析し、高いアセンブリ数を持つ分子が見つかれば、それは生命存在の有力な証拠となる可能性があります。
アセンブリ理論のこれから:生命の起源から創薬まで
アセンブリ理論はまだ発展途上の理論ですが、その可能性は無限大です。
生命の起源の解明: 原始地球で、どのようにして単純な分子から複雑な生命システムが「組み立てられた」のか。アセンブリ理論は、そのプロセスを理解する上で新しい手がかりを与えるかもしれません。
新しい物質や薬剤の開発: 望みの機能を持つ複雑な分子を効率的に「組み立てる」ための設計図として、アセンブリ理論が応用できるかもしれません。創薬や材料科学の分野での貢献も期待されます。
人工知能(AI)との融合: 複雑な分子構造や生成経路を探索する上で、AI技術との組み合わせは非常に有効でしょう。
もちろん、課題もあります。アセンブリ数を正確に、かつ迅速に測定する技術のさらなる向上が必要ですし、生命現象の全てをアセンブリ数だけで説明できるわけではありません。しかし、この理論が持つ「組み立ての歴史」という視点は、これまでの科学が見過ごしてきた何かを明らかにしてくれるかもしれません。
複雑さの謎に挑む新たな視点
アセンブリ理論は、生命とは何か、複雑なものはどうやって生まれるのか、という壮大な謎に対して、「組み立てのステップ数」というユニークな切り口で迫るものです。レゴブロックのように、世界は様々な部品が組み合わさってできています。その組み立ての設計図や歴史を読み解こうとするアセンブリ理論の今後の展開から目が離せませんね。
この理論が、いつか地球外生命を発見する手がかりになったり、新しい薬や便利な素材を生み出したりする未来を想像すると、ワクワクします。
まだ発展途上ですが、ぜひ今後の研究に注目していきたいと思います。
参考情報
アセンブリ理論に関するリー・クローニン教授のTEDトーク(英語ですが日本語字幕あり):
https://www.ted.com/talks/lee_cronin_making_matter_come_alive?language=jaNature誌に掲載された主要論文の一つ (アブストラクトと本文の一部は無料で閲覧可能):
Marshall, S.M., Mathis, C., Carrick, E. et al. Identifying molecules as biosignatures with assembly theory and mass spectrometry. Nat Commun 12, 3033 (2021).
Abrams, M.C., Spicer, V., Kua, J. et al. Assembly theory explains and quantifies selection and evolution. Nature 622, 334–340 (2023).
