Space Foundationレポートが映し出す、6,860億ドル宇宙経済の実像

米シンクタンク「Space Foundation」が発表した最新の年次報告書「The State of the Global Space Economy」。この分厚いレポートを開いて最初に目に留まったのは、世界の宇宙経済が2025年に6,860億ドルへ到達したという数字でした。前年比+12%という伸び率は、2021年のコロナ後回復期に次いで過去10年で2番目の高さだそうです。今回は、このレポートに詰まった膨大なデータを、できるだけ漏れなく整理してみたいと思います。
商業部門が支える宇宙経済の79%
まず全体像から。6,860億ドルのうち、商業部門が5,443億ドル(前年比+13%)で全体の79%を占めています。政府予算は1,410億ドル(+7.4%)。つまり宇宙経済は、もはや「国家プロジェクト」ではなく「民間ビジネス」が主戦場になっているということです。

商業部門の内訳を見ると、最大セクターは測位・航法・時刻(PNT)サービスで2,799億ドル(+18.3%)。スマートフォンの地図アプリや自動車のナビ、物流の追跡システムなど、私たちが日常的に使っているサービスの多くがここに含まれます。次いで地上局・機器が1,398億ドル(+12.7%)で、GNSS対応デバイスの販売だけで1,036億ドルに達しています。
一方で伸び率という点では、衛星製造が+67.2%、打上げ産業が+49.4%と、インフラ側の成長が突出しています。2025年には4,492機の衛星が打ち上げられ、前年から62%増加しました。このうち9割近い4,040機が商業衛星です。SpaceXのStarlinkだけで3,174機を占めており、同社の存在感の大きさが改めて浮き彫りになっています。
新興セクターの急成長ぶり

今回のレポートで印象的だったのは、まだ小さいながらも急拡大している新興分野の数字です。
月面活動(今回新設されたカテゴリ):3.6億ドル(+23.2%)
軌道上サービス・組立・製造(ISAM):3.04億ドル(+42.9%)
宇宙状況把握(SSA):1.96億ドル(+42.9%)
宇宙保険:6.86億ドル(+22.4%、ただし保険金請求も5.08億ドルに急増)
月面関連では、Firefly Aerospaceの「Blue Ghost」ミッションが2025年3月に民間初の完全成功を収めた着陸を果たし、NASA科学ペイロードを届けています。同社の月面事業収益は1.312億ドル、Intuitive Machinesが2.101億ドル、日本のispaceも2026年3月期に2,290万ドルの純売上を計上したとのことです。この3社を合わせた商業月面活動の収益がおよそ3.64億ドルという計算になります。
宇宙経済の成長パターンについては、下記も参考になりました。
「基盤整備から大量応用フェーズへ」という見立ては、今回のレポートの数字とも重なる部分が多く、宇宙インフラが実際にビジネスの土台として機能し始めていることを裏付けているように感じます。
打上げ市場、まさに"1日1回"のペース

打上げの話に戻ると、2025年通年では324回の軌道打上げが行われ(前年比+28%)、そのうち315回が成功。米国が193回(うちSpaceX単独で141回)、中国が92回でこれに続きました。
さらに興味深いのは2026年に入ってからの勢いです。上半期だけで153回に達し、これは2025年同期の149回を上回るペース。このままいけば2026年通年でも記録更新となりそうです。打上げコストも劇的に下がっていて、NASAスペースシャトル時代の1kgあたり54,000ドルから、SpaceXのFalcon 9では3,000ドル以下にまで下落しています。
ただし、この急拡大には副作用もあるようです。Commercial Spaceflight Federationは2026年5月の報告書で、既存の打上げ施設の調整と新設投資が追いつかなければ、今後10年の需要を米国が満たせなくなる可能性を指摘しています。SpaceXのパートナー企業からは、Transporterミッションの予約が2028年末〜2029年初頭まで埋まっているという声も出ているそうです。
政府予算ランキングと各国の温度差

政府の宇宙予算(2025年)は以下の通りです。
米国:783億ドル(+1.4%)
中国:190億ドル(+10.3%、GDP比0.25%)
欧州(EU・ESA・EUMETSAT合算):157億ドル
日本:55億ドル(+13.5%)
ロシア:39億ドル(+24.0%)
上位5カ国・地域だけで全体の87%を占めているというのも、この産業の集中度の高さを物語っています。
一方で伸び率でみると、面白い動きをしている国もあります。カナダは予算を2倍以上に増やし6.12億ドルに。パキスタンの宇宙機関(SUPARCO)は前年比+289%という驚異的な伸びで1.29億ドルに達しています。イスラエルも+105%で1,780万ドル。逆に、フィリピン宇宙庁は緊縮財政のあおりで-47%という大幅減となりました。
日本については、JAXAが運営する「宇宙戦略基金」(1兆円規模、10年計画)を通じて2025年に3,000億円(約12億ドル)が民間企業・大学・研究機関に配分されたとのこと。ロケット製造の高頻度化、光通信、軌道上製造技術の開発などに重点配分されています。
軍事宇宙予算、2027年に1,500億ドル超えへ

今回のレポートでもっとも紙幅が割かれていたのが、実は軍事分野でした。世界の軍事宇宙支出は2027年に1,500億ドルを突破する見通しだそうです。
米国防総省の宇宙関連予算は、2026会計年度で630億ドル(前年比+130億ドル)、2027年提案では1,262億ドルまで拡大するとされています。宇宙軍(Space Force)単体の予算も710億ドルに達し、うち400億ドルが研究開発、170億ドルが機密プログラムに配分される計画です。
背景にあるのは、ウクライナや中東での戦闘が示した「宇宙が戦場を変えた」という現実だとレポートは指摘しています。ドローン、ミサイル防衛、通信・測位・目標捕捉など、あらゆる軍事機能が衛星インフラに依存するようになったということです。
トランプ政権が推進する「ゴールデンドーム」構想(1980年代の「スターウォーズ計画」を彷彿とさせるミサイル防衛網)は、総額1,750億ドル以上と見積もられており、史上最大規模の軍事宇宙プログラムになるとのこと。日本の防衛省も宇宙関連予算を年々積み増していますが、このあたりは下記記事とも重なります。
欧州各国も軒並み予算を拡大していて、フランスは2030年までに110億ドル、ドイツは410億ドル、イスラエルは1,110億ドル規模の10年計画をそれぞれ掲げています。ドイツ国防相の「衛星が沈黙すれば、国家は盲目になる」という発言は、各国の危機感を象徴していると感じました。
新興技術への投資、AIとデータセンターが主戦場に

最後に、テクノロジー投資の動向です。2025年の宇宙分野への民間投資は120億ドルを突破しました。特に目立つのが以下の5分野です。
再使用型ロケット:市場規模84億ドル(年平均成長率13%)。SpaceXは6月のIPOで評価額約2兆ドルに達し、Rocket Labも500億ドル超、Relativity Spaceも40億ドル規模と評価されています。
軌道上製造:カリフォルニアのVarda Spaceが1.87億ドルのシリーズC調達。医薬品の宇宙製造で「地上の患者に届く治療効果」を目指すとしています。
AI活用:1万機規模の衛星コンステレーションの運用にAIが不可欠になっており、Loft Orbitalが1.7億ドル、K2 Spaceが2.5億ドルのシリーズC調達など、資金流入が続いています。
月面インフラ:NASAのCLPSプログラムの上限額が2.6億ドルから4.2億ドルへ拡大予定。Zeno Powerは月の夜を乗り切るための核電池開発で5,000万ドルを調達しています。
軌道上データセンター(ODC):2026年に入ってから急速に注目を集めている最新分野で、Cowboy Space(旧Aetherflux)が2.75億ドル、Starcloudが1.7億ドルを調達。電力・冷却・土地という地上データセンターの3大課題を、宇宙空間で解決しようという発想です。SpaceXやGoogleといった大手も参入の動きを見せています。
まとめ

数字を並べてみると、宇宙産業がもはや「夢の産業」ではなく、測位サービスから軍事インフラ、データセンターまで、地上の経済活動と分かちがたく結びついた基盤産業になりつつあることがよくわかります。特に、打上げコストの低下がすべての新興分野(製造、AI、月面開発、データセンター)の成長を後押しするという構造は、今後も注視していきたいポイントです。
一方で、打上げ施設のキャパシティ不足や、軍事支出の急拡大がもたらす地政学的な緊張など、成長の裏側にある課題も見えてきました。次回以降も、この分野の動きを継続的に追っていきたいと思います。

参考記事一覧
〇The State of the Global Space Economy: 2026 Analysis of Commercial and Government Space(2026年7月) Space Foundation
https://www.spacefoundation.org/events/global-space-economy/
〇3兆ドルへの道:拡大する宇宙経済を読み解く(2025年7月23日)
〇防衛省の新指針から読み解く、民間企業への期待と市場機会(2025年8月1日)
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