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桜はもう散っているけれど|ミニカキングダム

「ばいばい、また明日ね!」

学校が終わると、部活動に入っていない私は、まっすぐ自分の家に帰る。ただし玄関へと向かう前に、必ず見る場所があった。

マンション、アパート、一軒家、どんな家に住んでいた時も変わらない。小学校の高学年に上がった頃から、かかさず毎日チェックしていた。

それが自宅の郵便ポストだ。

大抵は何も入っておらず、空っぽだった。けれど月に何度か、ぽつんと封筒が入っていることがある。そんな日は、重かったはずの鞄が一気に存在感を失って、荷物を置くことも忘れてしまう。

幼い頃から転校が多かったため、私には全国各地に友達がいる。だから以前の学校の友達と、ずっと文通をしているのだ。

まず誰から来たのか確かめて、読む前に一度、どんなことが書いてあるのか想像する。各々に癖のある文字から、本人の顔を思い浮かべて懐かしく思う。封筒の厚みの分だけ、私の心は跳ね上がる。

レターセットが今の季節にぴったりだと、意識して選んでくれたんだなあと口元がにやける。封筒にかわいいシールが貼ってあるとますます嬉しい。

前回私が送った質問には、どんな答えが返ってきたんだろう。前シーズンの連休には、どこかへ行ったりしたのだろうか。おなじみのペットの近状報告、今回は書かれているかしら。

封を切る手がもどかしく、毎回のように「いつかお洒落なペーパーナイフが欲しい」と思うのに、文房具屋さんに行くとそのことを忘れてしまうのはどうしてだろう。いまだにいつか欲しいと思い続けている。

手紙を開けた私は、勢いのまま書かれている内容に目を通す。思い出したように、肩にかけた荷物を放ると、改めてもう一度ゆっくり読み返す。読みながら、なんて返事を書こうか考える。

あんまりすぐに返事を書くと、相手に気を遣わせてしまうかもしれないから、最低一週間は間隔をあけると決めている。しかし一週間も経つと、私は生活に没頭し、手紙を書かなければならないことを忘れてしまう。

そうこうしているうちに時は流れて、使いたかったレターセットにふさわしい季節がやってくる。再び手紙のことを思い出すのは、いい感じに相手にも気を遣わせないであろう頃合いだ。

私は返事を書くために、また相手から来た手紙を読み返す。

先日、とある人から受け取った手紙には、『桜が満開です』と書かれていた。手紙が届いてからゆうに二週間は経過した。現実的に考えれば、その人が住む地域では今頃、もう桜は散っているだろう。

だけど私は返事を書きながら、満開の桜を想像する。たった今その話を聞いたみたいに。その瞬間、相手の「過去」が、私の「今」と地続きになる。

手紙はメールやLINEのように、リアルタイムで言葉を届けることはできない。けれどその分、圧縮された密度の高い「今」を形作ってくれる。返信するまで言葉が「過去」になるのを待っていてくれる。

だから私は文通が好きだ。その時の気分に沿ったレターセットを選び、万年筆にインクを入れて、たっぷり時間をかけて言葉を探す。

遠い宇宙の星の光が、何年も遅れて届くみたいに。離れた地に住む友達と、ちょっぴりずれた「今」を、気長に共有しながら生きていくんだ。

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小石ゆうべ 犬のおやつと健やかな生活の足しにさせていただきます。