新規事業を「楽」にしない生成AI、というプロダクトをつくった理由
株式会社NEWhの小池です。大企業の新規事業開発を支援するコンサルティング会社で、取締役をしています。アサヒビール、デジタルマーケティング会社を経てこの仕事に就き、150社以上の現場に伴走してきました。先日、CI-OS(Corporate Innovation OS)というプロダクトを発表しました。
この記事は、CI-OSのプロダクト説明ではありません。僕がプロダクトをつくろうと思ったきっかけ、プロダクトで実現したいと考えていることについて伝えたいと思い言葉を紡いでいます。
さて、本題です。
起案者は、いつも孤独だった
150社。業界もテーマも企業文化もばらばらです。それでも、どのプロジェクトにも共通する光景がありました。
起案者の孤独です。
熱い想いから手を挙げた人が、社内に相談相手を見つけられない。「なぜ自社がやるのか」「どの前提が弱いのか」を問われ続けるも、一緒に考える人がいないまま、検討をひとりで抱え込んでいく。チームで検討していても、メンバーによって熱量が異なり、結果としてそれぞれの孤独感がうまれていく。
最初のころは、本人のスキルや社内調整の問題だと思っていました。経験を積むことで解決していく、と。でも、違いました。10社を見ても、100社を超えても、同じ光景が続くのです。ここまで再現性があると、個人の問題ではありません。構造です。
NEWhは、目の前のプロジェクトを前に進めることはできます。私たちも起案者と同じ熱量で考え、当事者としてプロジェクトに参加したいと考えています。しかし、私たちが離れた後も起案者の孤独は続きます。また、大企業の担当者は数年で異動することが多い。新規事業の専任は少なく、評価する側も本業で忙しい。起案者が異動するとプロジェクトが終わり、検討の過程はきれいに消えてしまうことも多い。そのような経験をするたびに、コンサルティングという立場を非常に歯がゆく感じていました。ずっと一緒に進めたいし、自分が続けていきたいと思えるプロジェクトもたくさんありました。
生成AIは追い風だと思っていた
2023年、NEWhの伴走支援で生成AIの活用をはじめました。新規事業のコンサルティングとしては、いち早く取り入れた会社であると自負しています。まずは僕個人から、次第に積極的に活用するメンバーも増えていき、2024年にはAI Innovation Nodeという専門チームを立ち上げ、現在に至ります。
最初は、起案者にとって非常に有用なツールだと思っていました。検討のスピードは確実に速くなる。壁打ち相手はいつでもそこにいる。孤独が、少しは軽減されるかもしれない。実際、クライアントでの導入は一気に進んでいきました。
ところが、だんだんと想定と違う声が聞こえてきました。
・学習コストが思った以上にかかる。使いこなしているようで、実は振り回されている
・もっともらしい回答に、つい「それでいい感じ」になってしまう。誰も心から納得していない
・生成AIから出てくるのは一般論ばかりで、自社ならではの事業仮説まで深掘りできない。机上の空論が増えていく
・AIとの1対1の検討が深まるほど、プロジェクトメンバーとの思考のズレが広がっていく
特に4点目は、予想していませんでした。生成AIという壁打ち相手を得た本人だけが先に進んでしまって、チームが置いていかれる。孤独が軽くなるどころか、むしろ深くなっていました。
コンサルティングモデルに対する危機感
クライアントの話ばかり書いてきましたが、いちばん生成AIの影響があると感じていたのは、NEWhのビジネス=生業です。
コンサルティングは、シンプルにいうと「答えを出すこと」に対価をいただく仕事です。調査を設計し、市場を分析し、整理して、示唆を出す。生成AIは、そのそれっぽい版を数秒で出します。NEWhは、一般的なコンサルティング会社とは異なり共創を大切にしています。つまり、私たちが答えを提供するのではなく、クライアントが自ら考え「答えを出せる」ようになるやり方で支援しています。
そのため、「NEWhの仕事はなくならない。私たちにしかできないことがある」——社内でも、そういう言葉をよく聞きました。 ただ、生成AIの出力を毎日見ている僕は、そうは思えませんでした。共創といっても、その実務を分解すれば、調査、分析、情報の整理といった「答えに向かう作業」も多く存在しています。そこは、確実に置き換わっていく。私たちの仕事のかなりの部分は、生成AIに代替されると覚悟するべき。それは、時間の問題である、と。
もうひとつ、以前から感じていた「限界」があります。コンサルティングは、人の時間を売るモデルだということです。どれだけ型化しても、伴走できる社数には物理的な上限がある。150社と書きましたが、裏を返せば、5年かけて150社です。日本で新規事業に挑んでいる企業の数を思えば、届いていない場所のほうが圧倒的に広い。また、業務を生成AIで効率化すればするほどもらえる対価は少なくなる、というモデルであり、生成AIの取り入れ方を間違うと事業そのものが縮小されかねません。
CI-OSの検討は、美しい想いからだけではなく、危機感からはじまりました。僕らは変わらなければならない。
それでも、代替されないものはある
危機感を抱えながら、自分たちの仕事を分解してみました。生成AIに置き換わる部分と、置き換わらない部分はどこか。
置き換わるのは、「答えを出す」部分だと思います。
では、残るものは何か。評価会議を通過する企画と通過しない企画を分けてきたものを思い返すと、それは分析の精度ではありませんでした。事業の洗練さでもありません。「この人は本気だ」と評価者に伝わるか。「なぜ自社がやるのか」に、本人が自分の言葉で答えられるか。
起案者の熱量と納得感。会社の戦略とリソースへの理解。ひとことで言えば起案者と企業の「意志」です。
意志は、楽をした先には生まれません。自分で問い、材料を読み、採用と除外を自分で決める。その面倒くささの中でしか育たない。そして、生成AIが代わりにつくれるものでもない。
これまで、NEWhがもっとも大切に磨いてきたのは、答えではなく、意志が育つ検討のプロセスと型です。これが大きな武器になることに気がつきました。もちろん、生成AIは脅威です。同時に、このプロセスと型を、私たちがいない時間、さらには現在支援できていない方々にも届けられるツールでもある。ただし、その使い方さえ間違えなければ、です。
だから、「面倒くさい」プロダクトをつくった
CI-OSは、「意志」に賭けたプロダクトです。
起案者の問いと判断を起点に生成AIが動く。社内の知見や資産を使って、一般論ではない固有解をつくる手助けをします。
ただ、CI-OSは、生成AIが人に問い返してくるプロダクトです。検討を進めようとするたびに、「あなたはどう考えるか」「その前提は弱くないか」と聞かれる。調査結果は渡されて終わりではなく、材料を読んで、採用と除外を自分で決めることを求められる。なぜそう判断したのかも、残すことを求められる。ボタンひとつで企画書が出てくる体験を期待すると、裏切られると思います。でも、起案者を孤独にはしません。起案者の「意志」、プロジェクトの情報、会社の戦略や資産を理解したうえで一緒に進んでいく、そんなプロダクトを目指しています。
そうして積み重なった問い、判断、手戻り、評価コメントといった試行錯誤を、プロジェクトの中で終わらせずに組織へ残す。語弊を恐れずに言えば、あえて「面倒くさい」使い方を推奨することで、「意志」を育むプロダクトです。
これは、NEWhの生存戦略でもあります。人の時間を売る会社から、検討の型と仕組みを届ける会社へ。クライアントの成果にコミットできる会社へ。そして、コンサルティングとプロダクトのハイブリッドへ。将来的な事業モデルを見据えた第一歩です。
NEWhのことだけを考えるならば、こんな面倒くさいプロダクトにはしません。答えを自動で出すツールのほうが、よほどつくりやすいし、売りやすいと思います。それでも僕がこの難しい挑戦をしているのは、起案者たち、そしてクライアントの意志の実現に貢献したい、という僕の「意志」です。そして、生成AIによって、それを新しいやり方で実現できると信じているからです。
いま、僕もCI-OSというプロダクトを開発して、「起案者の孤独」を経験しています。役員という立場なので、社内の情報にアクセスはできるし、相談できる仲間もいます。ただ、当たり前ですが、同じ熱量、情報量で応えてくれる人は世の中に存在しません。「なぜ我々がやるべきか」「このプロダクトを求める人、会社などいるのだろうか」など、繰り返し自問自答し恐怖すら感じます。そんな僕のためのプロダクトでもあります。
新規事業を、ひとりの挑戦で終わらせない
CI-OSのメインコピーです。起案者が孤独に抱え込まない。プロジェクトの検討過程が消えてしまわずに組織の資産になる。次に手を挙げる人が、前の人の試行錯誤から始められる。そういう状態を、日本の大企業の中に当たり前につくりたい。
CI-OSはまだ開発中のプロダクトです。完成したSaaSではありません。だからこそ、実際のテーマで一緒に価値を検証してくださるPoCパートナー企業を募集しています。少しでも共感してくれたり、興味をもっていただけた方は、上記のページからお気軽にご連絡ください。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。新規事業に挑んでいる方、それを支える立場の方に、何かひとつでも引っかかるものがあればうれしいです。次回は、「生成AIを導入しても、新規事業の検討は深まらない理由」を、現場で見てきた4つの症状から書こうと思います。
(追記)
書きました。
