『詩』私がここにいる
どうやって、ここまで歩いてきたのか
私は覚えていない
もうずいぶんと若いころ
私はいろんな荷物を下ろしてしまった
あの日 天使の顔をした可愛らしい者たちが 涼やかな声で
私を誘う歌を歌いながら
向こうから扉を開けてくれた
私は扉の前に担いでいた荷物をすべて下ろし
勇んで向こう側に足を踏み出した
とたんに天使たちの声は止んで 荒れ果てた
蔓の絡みつく棘の森が
行手を遮っているばかり
私は騙されたのだろうか?
途方に暮れて振り返ると
そこに出てきたはずの扉はなく
乾いてひび割れた土地の真ん中で 赤茶けた
大きなendマークが傾き朽ちかけている
それを眼にしたその一瞬
口元に 不思議と微笑みが浮かぶのを
私は覚えた 希望はおろか
ほんの僅かな手づるさえ
見出すことができないというのに
棘の森を切り開く鉈一本
私は持ち合わせていなかった すべての荷物を
扉の向こうに置いてきてしまったのだから
森の梢で
気づくと白い小さな鳥が囀っている 囀りに合わせて
私は歌ってみることにした
歌声は森を跨いで大きなアーチ型の架け橋となり 初めての土地へ
私を誘うようにおもわれた そこで
自分の歌声で生まれたアーチの端っこに
私は躊躇いがちに足を掛けた・・・
それからというもの
日干し煉瓦で囲われた 暗い土間に寝起きをして
土地の男たちの手伝いをしたり
ガラスの塔のような美しいビルの一室で
言われるがまま キーボードを叩き続けたり
あるいは大勢の仲間たちと一緒に
何に使われるのかもわからない 自分の背丈ほどの車輪のようなものを
ひたすら作り続けたりした
陽が傾いて外に出ると 夕焼けが
空一面に赤く広がり その深い奥底で
見覚えのある天使がひとり
愁いを帯びた眼で私を見ているようだったけれど
私は気にも留めなかった
何かの役に 私は少しでも立ったろうか? 私の仕事は・・・
でもそんなことはどうだってよかった
たくさんのビルが立ち並ぶ都会の真ん中で
美しい 大きな川の畔に広がる町の
人々が集まる賑やかな集会所で あるいは
毎日のように自分の命だけを数えている
そんな人たちが暮らす施設で 私は仕事をし
気が向けば あの小鳥に教わった歌を歌った すると
私の目の前に
大きなアーチ型の橋が悠然と立ち上がり 私はそこに
その都度きっぱりと足を掛けた
私がこなしてきた仕事を
誰かの希望と呼ぶのは容易い けれどそれらは
私に希望だったろうか?
別に思い悩むこともなく テーブルの上に足を投げ出し
私は私というタイトルの 物語や
歌や絵画に囲まれて
片手でバーボンのグラスを回しながら
窓ガラスの彼方の夕陽に視線を投げかける
そうして私は考える こなしてきた仕事の中に
私の希望はなかったかもしれないが そのいずれにも
間違いなく私がいたということを
そして今も
ここにこうして私がいるということを
なぜなら夕陽が最後まで
私の眸に眩しいのだ
遠くに霞む山の端に
沈み切ってしまう その刹那まで
偽らざる気持ちを表現するのは難しく、気恥ずかしいものです。
抽象的ではあるけれど、自分が辿ってきた道を、「こんな感じ」という形で詩にしてみました。こうだったよ、と直接話すよりは、それでも少しは話しやすい気もします。気分は事実ということで。
今回もお読みいただきありがとうございます。
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