PE (Private Equity)は本当に"悪役"なのか?
― アメリカの中小ビジネスを買収するPEの意外な役割
「アメリカのPrivate Equity (所謂PE)による中小企業の買収が増えている」という面白い記事を見つけたので、以下に話の内容と私の考察を述べる。
朝は、暗くて音楽の鳴り響くスタジオから始まる。Solidcoreというアメリカのピラティス系フィットネスチェーン。スライドするプラットフォームの上で、プランクやランジを繰り返す。インストラクターが大声で励ましてくれる。運動の後は、Mamanというフレンチ風カフェへ。その後は HeyDey という美容サロンでフェイシャル。実は、これらの店にはある共通点がある。全てプライベートエクイティ(Private Equity, PE)ファンドが所有しているのだ。
因みに このSolidcoreという企業に関して、私もfollowしているインフルエンサーのCorporate Natalieが以前インスタグラムでAd展開していたので、ぜひ見ていただきたい。
■アメリカの街から小売店が消えている
近年、アメリカのショッピングストリートではある構造変化が起きている。小売店が消え、サービス系の店舗が増えているのだ。EC (e-commerce)が拡大し、商品販売はどんどんオンラインに移っている。一方で、街には次のような店が増えている。
フィットネス
カフェ
美容サロン
ネイル
ランドスケープ(庭の整備)
害虫駆除
コロナ禍以降のリモートワークの普及もこの変化を加速させた。在宅勤務の人々は
・運動
・コーヒー
・美容
・家のメンテナンス
といったサービスを、日常の合間に利用するようになった。こうしてアメリカの商業空間は「サービス化」している。
■PEは今や中小企業を買っている
多くの人がPEと聞くと、1980年代のナビスコや2000年代のトイザらスのような巨大買収を思い浮かべる。しかし今は違う。現在のPE投資の85%は従業員500人未満の企業になっている。PEは今、
カフェ
ネイルサロン
害虫駆除会社
HVAC(空調工事)
といったローカルのサービス企業を大量に買収している。例えば、2016年にPEに所有されているアメリカのカーウォッシュチェーンは10社中2社だったが、現在は10社全てがPE所有企業になっている。また、2025年までの1年間でエアコン工事会社の買収先の半分はPEだった。
■なぜPEは中小のサービス業を買収するのか?
理由は極めてシンプルだ。インターネットに破壊されないから。あるPE投資家はこう言う。
「Amazonはあなたの車を洗えない、ジムのインストラクターにもなれない、コーヒーも淹れられない」
つまり、ローカルサービスはEC耐性があるのだ。PEは「小さな中小企業を何社も買収し、それらを統合し、チェーン化する」という戦略を取る。
■PEは「悪役」なのか?
「企業に借金を背負わせ、コスト削減で従業員を解雇し、短期利益を取ろうとする資本主義の犬」みたいな感じでPEはしばしば悪者として描かれがちだ。民主党の上院議員のElizabeth Warrenは「PEは小さい企業から金を吸い取って倒産させる」と批判する。また、カリフォルニア州のニューサム知事とトランプ大統領という、普段は水と油な政治家達ですら、PE規制では一致している。例えば、両者ともPEによる住宅購入の禁止を提案している。
■しかし実際のデータは違う
確かに、PEは借入を使うし、コスト削減もする。しかし、企業を壊すケースは思ったほど多くない。アメリカには、PE所有の企業は約2万社あるが、2024年に倒産したのは75社だけだ。研究でも、「他企業よりもPE所有企業がデフォルトし易いわけではない」とされている。
■問題は「医療・介護」業界
ただし問題がない訳ではない。ペンシルベニア大学のWharton Schoolの研究では、「PE所有の老人ホームでは死亡率が11%も高い」という結果が出ている。理由は看護師削減などの人件費削減の結果だった。ただし、別の研究では「競争が激しい地域ではPE所有の老人ホームの方がスタッフが多く、評価も高い」という結果もある。つまり、市場競争が重要なのだ。
■PEは中小企業の成長エンジンでもある
PEの資金は中小企業を成長させることもある。例えば 冒頭のフィットネスジムのSolidcore。PE投資前は年間で5店舗しか増やせなかった。PEによる投資後は成長速度は2倍以上になった。さらにPEは価格弾力性の分析を実施。すると、「会員制度は毎日の来店がないと割に合わない」という問題が見つかった。そこで施策として、会員価格を引き下げた。その結果、サブスク収入が売上の20%から60〜70%と3倍以上に増加したのだ。
■私の考察①
PEは「資本市場のインフラ」かもしれない
ここからは私の考察だ。
私は地方で小売経営をしている私から見ても、この記事の構造はとても興味深い。明らかに、世界の商業は「Goods → Services」へ移行している。これは、ECの台頭、リモートワークの普及、都市構造の変化など複数の要因が重なった結果だ。そしてPEは、この構造変化の資金供給者になっている。日本にはこの仕組みがほぼ無い。ここが重要だが、日本では中小企業の再編が少ない。考えられる理由として、M&A市場規模が小さい、PEが弱い、地方銀行が保守的、家族経営などが挙げられる。だから中小企業は小さいまま老いていく。アメリカでは、PEが中小企業を統合し、チェーン化して規模の経済で生産性を高めていく。正に資本市場が小企業を近代化しているとも言える。
■PEの代替は「空き店舗」
今回の記事の最後の1文が象徴的だ。アメリカの商業施設の空室率は約4%。一方で、ヨーロッパ(特にイギリス)の空室率はその2〜3倍に上る。PEの資金力が要因と言える。つまり、PEが嫌いな人もいるだろうが、現実は
「PE所有のカフェがテナントで入ることで賑わいを演出し地方経済を潤せるか、又は空き店舗のまま寂れるだけか」
のどちらかの選択になるのだ。
■私の考察②
この話は、実は私のリユース事業にも繋がる
この記事を読んでいて、私は強く思った。「これは私のリユース事業の構造とよく似ている」と。私が運営しているリユースショップも、ある意味でこの記事の「サービス型ビジネス」に近い。
"リユースはECに破壊されない"
この記事では、PEがフィットネス、美容、カフェ、害虫駆除などのサービス業を買収している理由として、Amazon等のECに破壊されないという点を挙げている。実はこれはリユースにも当てはまる。なぜならリユースの本質は、「仕入れ=客」だからだ。リサイクルショップでは、「お客さんが持ち込んだ商品を鑑定し、買取する」というプロセスが必要になる。Amazonは「家の押し入れを整理してその場で値段を付ける」ことは出来ない。
"リユースはむしろECを使える"
さらに面白いのは、リユースはECと競合しないどころかむしろECを利用できることだ。店で買い取った商品をメルカリやヤフオクなどを経由して全国で売れる。つまり仕入れはローカル、販売は全国というモデルになる。これは普通の店舗型の小売業にはなかなか出来ない。
"粗利率が高い"
もう1つ重要なのは、粗利益率だ。例えば、スーパーの粗利はだいたい20〜25%程度。一方、リユースは50%以上になることも多い。だから同じ売上でもビジネスの構造が全く違うのだ。
"大手小売と競合しにくい"
スーパーやドラッグストア、そしてホームセンターは、「大量仕入れ・標準化・オペレーション」の世界だ。そして、イオンやコスモス薬品のような巨大企業と直接競争になる。しかしリユースは違う。同じ商品は2つと存在しない。つまり、SKUはほぼ無限になってしまう。このため、巨大企業が効率的に支配するのが難しい。
"鑑定士は「ホスト」に近い"
今後投稿する予定の話だが、「リユース業の本質はホストクラブに近い」のだ。顧客は、私物を売ったり、相談するために来店する。そこで重要なのは人だ。「接客や会話が上手くて腕が良い」名物鑑定士が重要になるのだ。つまり、サービス業の側面が非常に強い。これも、記事のフィットネスや美容サロンに近い構造だと思う。客というより、ファンを増やす過程に近い。
"空いた店舗スペースにリユースを入れる"
もう1つ面白い点。この記事ではEC拡大によって小売店舗が空いていることが触れられている。私は実際に空いた店舗スペースにリサイクルショップを入れた。これはある意味で、アメリカの商業構造変化と同じことが日本の地方でも起きていると言える。
■小売の未来は「モノ」ではなく「サービス」
この記事の本質は小売の未来はモノではないということだ。モノはECが強い。しかし、サービス・体験・属人性が強い業務はECに置き換えられない。リユースは小売とサービスの中間にある。だから、EC時代でも意外と強い。
■構造を見ると世界は繋がる
この記事はアメリカのPEの話だ。しかし構造を見ると、「ECの拡大、サービス化、小売の空洞化」という世界的なビジネスの大きな変化の潮流が見える。そしてその流れは、私の日本の地方のリユース店にも実は繋がっているのだ。世界の構造は意外と小さな店にも現れるのである。
■私にはPEの勤務経験は無い
この記事を読んでいて、もう1つ面白いことに気づいた。私にはPrivate Equityの経験がない。ウォール街にもいないし、投資ファンドで働いたこともない。それでも私はPEのように動いていたのだ。しかし振り返ると、自分の行動はかなりPE的だったのだ。
"空いたスペースを再配置する"
私が最初にやったのは空いた店舗スペースの再配置だった。ECの拡大などの影響で小売のスペースは余り始めている。そこで私は空いたスペースにリサイクルショップを開業した。よく考えると、これはPEがよくやるアセットの再配置とほぼ同じ発想だ。
"利益構造の違う事業に切り替える"
例えば、スーパーの粗利益率は20〜25%。一方で、リユースは50%以上。つまりビジネスの構造が全く違う。PEがよくやるのは低収益事業 → 高収益事業への転換だ。私が考えているスーパー縮小からリユース強化という戦略もそれにかなり近い。
"ローカル資産を再活用する"
記事にある通り、PEはローカルの小企業を買収して統合し、
効率化やブランド化を行う。私の場合は、店舗・地域の顧客・ブランドといったローカル資産を再活用している。これは地方版PEのような動きとも言える。面白いのは、私の行動はMBA的ではあるが、PEの実務から来たものでもない。私は、MBAの知見・小売現場・経済記事・The Economist・経営の実体験などを組み合わせて構造を見て判断してきた。しかし結果としてPEのロジックにかなり近い行動になっていた。
■構造を見れば、答えは似てくる
ビジネスの世界ではよく「正解は一つではない」と言われる。しかし構造を見れば答えは意外と似てくる。ECが拡大すればモノの小売は弱くなる。するとサービスやリユースが伸びる。PEもそれに気づきサービス業を買収しているのだ。そして私は地方で同じ構造を見て、完全にリユースに舵を切ろうとしている。
■世界の金融と地方の商売は繋がっている
この記事はアメリカのPEの話だ。しかし不思議なことに、その構造は日本の地方の中小企業にも現れる。世界の金融資本と地方のリユース店。一見すると全く関係無い。しかし、構造で見ると、意外と同じ方向に動く。これがビジネスの面白さなのかもしれない。
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