「アメリカ・ファースト」の意味は揺れ動いている
The Economistに、最近のトランプ政権の外交政策の変化やそれを担う人物について上手く要約された記事があったので、日本語に翻訳しました。
https://economist.com/united-states/2026/01/19/the-meaning-of-america-first-is-in-flux%20
■「アメリカ・ファースト」の意味は揺れ動いている
かつて多くの人は、トランプ大統領は本質的には孤立主義者、あるいは「抑制派(restrainer)」、つまり軽度の孤立主義者だと考えていた。第1期政権時の中東での空爆も、周囲にいたネオコンの影響だと説明できた。しかし大統領が返り咲くと、ベネズエラ、ナイジェリア、イラン、イラク、シリア、ソマリア、イエメンを攻撃してきた。更に彼は、成功のために「心理的に必要だ」としてグリーンランドをめぐる圧力キャンペーンを展開している。国際関係論の研究者の中には、彼を天然資源を求めて徘徊する19世紀型リアリストになぞらえる者もいる。一方で、支配そのものを楽しみ、権力のために権力を一方的に行使する人物だと見る向きもある。
トランプ大統領は思想ではなく、本能で動く人物だ。些細なことにこだわり、自分の名前が建物や地図に載るのを好む。彼のグリーンランドへの執着は、ノーベル平和賞を逃したことへの不満と、トマス・ジェファーソンによるルイジアナ買収に匹敵する歴史的偉業を成し遂げたいという欲求の双方に由来している。結果としてNATOを破壊しかねない点は、彼にとっては二次的な問題にすぎない。しかし、より体系的に考えるMAGA陣営の思想家にとっては、それこそが中心的なプロジェクトである。
実際、トランプ氏の柔軟さは、MAGA運動の内部に、アメリカが世界でどのように権力を行使すべきかをめぐる複数の、しかも競合するイデオロギーが形成されつつある事実を覆い隠している。副大統領のJD Vanceは、抑制により真剣で、欧州の自由民主主義に対してより強い軽蔑を抱いている。他の補佐役、Marco RubioやStephen Millerは、また異なる反射的態度を示す。彼らはトランプ氏より長く影響力を持ち続ける可能性が高いため、注意深く検討する価値がある。その思想には系譜があり、大統領個人のパーソナリズムを超えた未来がある。
かつて「アメリカ・ファースト」とは、中国への強硬姿勢、多国間機関への軽蔑、そしてウクライナへの無関心(それはしばしば親ロシア的に映る)を意味していた。これらは今も教義である。しかし射程は変化した。今やアメリカ・ファーストは、西半球を支配すること、すなわち麻薬カルテルを粉砕し、グリーンランドのレアアースを掌握し、ベネズエラの石油を取り込むことも意味する。最後の点はまったく新しい。選挙期間中、トランプ氏は米墨国境を越えてくる中南米出身者には強い関心を示したが、中南米そのものにはほとんど関心がなかったと、ジョージ・ワシントン大学のJulian Wallerは指摘する。欧州に対しては、トランプ政権は影響力を使って、自由主義的政府をよりMAGA的に「改革」(つまり強圧)しようとする姿勢を強めている。
トランプ氏は、アメリカ・ファーストとは自分が決めるものであり、唯一の制約は「自分自身の道徳」だと言う。彼には確固たる信念もある。終わりのない戦争、国家建設、貿易赤字、ただ乗りする同盟国への嫌悪である。しかしそれ以外は柔軟だ。彼はウクライナから手を引きたい一方で、平和賞を獲得し、敗者と見られたくはない。衝動的でもある。ナイジェリアでイスラム過激派を爆撃したのは、包囲されたキリスト教徒についてのFox Newsの特集を見た直後だった。共和党に対する彼の支配力のため、支持する有権者は彼の矛盾に適応してしまう。
より首尾一貫した世界観を探すなら、側近に目を向ければよい。12月に公表された国家安全保障戦略(NSS)は、彼らの優先事項を明確にした文書だ。今回のNSSは、上司の直感を正当化し、後付けでイデオロギーを補強すると同時に、彼ら自身の関心事を前進させる試みでもあった。そこには二つの注目すべき主張が含まれていた。西半球におけるアメリカの覇権を主張する「the Trump Corollary (後にthe Donroe Doctrineと呼ばれる)」と、欧州の「文明的消去」への警告である。
The Donroe Doctrineの最初の成果は、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領の失脚だった。この作戦の表舞台に立ったのは、国務長官のRubio氏と、強硬派のMiller氏だった。Rubio氏は伝統的な共和党員で、キューバ移民の子だ。地域における共産主義独裁政権の打倒と民主主義の浸透への関心は、深く個人的なものだ。上院議員としての14年間、彼はネオコン的な強硬姿勢を示してきた。
Miller氏の西半球への関心は、移民問題に突き動かされている。国内では、演出過剰とも言える犯罪者重視を掲げた強制送還システムを設計してきた。これが、カリブ海でのボート攻撃や、カルテルを外国テロ組織に指定する動きの背景を説明する。実際、ベネズエラ作戦は、軍事力を麻薬・移民取締りに投入するという国内アジェンダの「対外化」だったと、シンクタンク「Defence Priorities」のJennifer Kavanaghは言う。目標は、アメリカの都市を含むあらゆる場所での支配である。
NSS公表後、トランプ政権が勢力圏アプローチを採用したと解釈する向きもあった。つまり、西半球ではアメリカが優位に立ち、中国とロシアにはそれぞれの裏庭で好きにさせるという考え方だ。しかし、これは誤解だと、英バーミンガム大学の地政学教授のPatrick Porterは言う。それは世界の相互分割を意味してしまうからだ。実際には、政権は依然として欧州での影響力行使と、ロシアの拡張主義の抑制を望んでいる。
Retainerは不満を募らせている。昨年、トランプ政権は欧州諸国から、防衛費をGDPの5%まで引き上げるという約束を取り付けたが、その達成には予算上のごまかしが含まれている。これは勝利ではないと、Retainer派のKavanaghは言う。彼女の陣営は、アメリカが欧州から完全に手を引くことを望んでいる。
その代わりに、トランプ政権は米国の防護に条件を付け、冷戦以来の安全保障の基盤であるNATOから離脱する可能性を示唆している。Vance氏は昨年ミュンヘンで、欧州政府を軽蔑に満ちた演説で批判した。彼は、欧州は「内なる敵」、すなわち言論を検閲し、開かれた国境を支持し、極右ポピュリストとの連立を拒む「woke」なエリートに向き合う必要があると述べた。NSSもこの主張を繰り返し、欧州は自らを正さなければ20年後には「見分けがつかなくなる」と警告する。トランプ政権はそれを後押ししている。戦略公表後、国務省は、テック企業にコンテンツ管理を義務付ける欧州法(デジタル・サービス法)の立案者である元EU委員に対し、ビザ禁止措置を科した。MAGA陣営は、この法律が自分たちの主張を抑圧していると非難している。
Vance氏は政権内で最も献身的なMAGA思想家であり、新右翼の知的雰囲気を体現している。彼らの世界観はしばしばカトリックの影響を受け、深い悲観主義と文化的不安に満ちている。新右翼系シンクタンク「センター・フォー・リニューイング・アメリカ」のNathan Pinkoskiは、中国との戦略的競争がMAGA陣営の「アイデンティティ危機」を明確化させたと言う。彼らは、大量移民とウォーク思想によって弱体化した西側を目の当たりにした。「地政学的ライバルと競うためには、まず自分たちの問題を解決しなければならない」と彼は言う。彼は、欧州が「文明的遺産から逸脱している」と認識した場合、より攻撃的な経済手段が使われるだろうと予測する。
もちろん、ここには未解決の矛盾がある。関税、制裁、ビザ禁止で欧州を敵に回すことは、中国との大国間競争には役立たない。アメリカが欧州防衛から手を引きつつ、同時に欧州にMAGA流の統治を強制することはできない。「負担転嫁と文明政治は両立しない」と、前者を支持し、後者の支持者を「事実上のネオコン」と呼ぶSumantra Maitraは言う。彼は、やがてMAGA運動を「本質的に飲み込む」闘争が起きると予測する。民主党が何を目指しているかは分かりやすい。国際主義者だ。では、もう1つの政党は? 未解決のままである。
