短編小説|七福神シリーズ6|【第3話 次期帝の妃という運命の重圧】
「この左大臣家の娘としての自覚を持て! そなたが次期帝の妃とならねば、我が一族の繁栄はないのだぞ!」
父上の厳格な声が、広い部屋に響き渡る。葵の前に積まれたのは、さらに難解な古典の山。遊びたい盛りの少女にとって、「家の繁栄」という言葉は、あまりにも重すぎる鉛のようだった。
「……はい、父上。精進いたします」
精一杯の声を絞り出し、父が去った後、葵は御簾(みす)の陰でひっそりと顔を伏せた。教育という名の檻(おり)の中で、ついに彼女の心が悲鳴を上げる。
「私は、ただの葵でいたいだけなのに。……テディベアさんと、遊びたいだけなのに……」
ポタポタと、美しく整えられた畳に涙がこぼれ落ちる。
その時、影から「おーっと、お嬢ちゃん。そんな顔してちゃ福が逃げちまうぞ!」と、場違いに明るい声が聞こえた。
涙を拭って見上げると、そこには大きな袋を抱えた、福耳の太ったおじさん……布袋が立っていた。
「……どなたですか? お下がりください」
いつものお嬢様モードで追い払おうとする葵。だが布袋は「まあ見てなさい」と言うやいなや、着物の前をはだけ、その立派な太鼓腹をポンポンと叩き出した。
「ドンドコドコドコ、腹踊り〜! 笑う門には福が来る〜っ!」
大きな腹を波打たせ、コミカルなステップで踊り出す神様。横では阿形と吽形も、一緒にお尻を振ってバックダンサーを務めている。
「……ふふっ、あはははは!」
あまりのバカバカしさに、葵の涙が止まった。プライドの高い左大臣家の姫が、生まれて初めて声を上げて笑ったのだ。
「おかしいの、神様ってこんなに愉快なのね……!」
布袋の腹踊りは、何よりの特効薬だった。心の重石が少しだけ軽くなった葵を、神様たちは満足げに見守るのだった。
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