初めての服
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家のクローゼットの奥底に、小さな肌着がある。50cmにも満たない小さい肌着とロンパース。上の子が初めて着た服だ。一昨年だっただろうか、家の大掃除をしているときに開けた収納ケースにそれは入っていた。
こんな所にしまってたんだねと、妻と懐かしんだ。広げて眺めたあと、丁寧に畳んで元に戻した。また何年かあとの大掃除のとき、同じセリフを言いそうだと妻と頷き合った。何度大掃除をしても、その肌着たちが捨てられることはないだろう。その小さな布は500g程だけど、ぼくたち家族にとってはとても重くて大切な一着だ。
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先日、上の子と買い物に出かけた。電車に揺られて数十分、ターミナル駅に併設されているデパートに向かう。エスカレーターを上がりながら、二人で買い物するのはいつ以来だろうと記憶を辿った。もしかすると、小6の誕生日プレゼントを買いに行った日かもしれない。そんなことを考えていたら、目的のお店に着いた。
光沢のある生地が照明に輝き、ネクタイや胸ポケットのチーフが彩りを添えるフロア。採寸テープを首にかけた店員が落ち着いたトーンで出迎えてくれた。スーツ売り場の雰囲気は大人な感じがして、上の子にとっては緊張する場所だったかもしれない。
前々から、4月1日に使うスーツを二人で買いに行こうと約束していた。初めてのスーツなので、選び方も分からないだろうと、ぼくから提案した。上の子は、「うん、いいよ」と軽く返事をしていたが、ぼくにとっては大きなイベントという気持ちがあった。
「春に使うスーツを探してるんです」
ぼくが店員に声をかけたあとは、上の子に任せてみた。好みの色やどんな場面で使いたいかを伝える上の子を、少し離れた椅子に座りながら眺めていた。5分ほど店員と会話をしたあと、試着室に消えていく後ろ姿を見る。大きくなったなぁと、今まで何度も口にした言葉を、ぼくにしか聞こえない声量で呟いた。
しばらくすると、真新しいスーツに包まれた上の子が目の前に現れた。等身大以上の大きな鏡に自分の姿を映しながら、何やら店員と話している。部活のおかげで、がっしりとした体形になった体に合う型がなかなか見つからない様子だった。中学の頃は、優しい顔立ちに似合う、細くて繊細な体つきだったことを懐かしく思い出していた。
数着試着したあと、上の子が満面の笑みで試着室から出てきた。どうやらピタリと来る型に出会ったらしい。親の贔屓目なしに、そのスーツ姿はかっこよかった。「どう?」と聞かれ、「いいね、とても似合ってる」と短く答えた。卒園式や小中学校の卒業式など、いままで何度も節目の姿を見てきたけど、今回は別格だと思った。
節目の度に、祝福する気持ちと一緒に「がんばらなくちゃ」と思う。進級しても、まだ子どもなんだからと、親が支えなくちゃと身が引き締まる気持ちがあった。でも、大人びたダークグレーのスーツ姿を見て思う。
「もう、親が手伝えることは少ないんだ」
4月から、自分で判断しなきゃいけない事が増える。親の力を借りず、自分でなんとかしなくてはならない場面がある。夏休みの宿題を手伝うかのようには、子どもの手助けができなくなることを痛感した。スーツを着た頼もしい姿に、嬉しさと共に淋しさも感じた。
スーツが決まり、会計をする為にレジに向かった。店員が示した電卓の数字を確認し、クレジットカードを渡す。暗証番号を入力しながら、「これが最後かもしれないな」と思う。
親から買ってもらう服は、このスーツが最後かもしれないね。願わくば、この服があなたにとって、思い出深い忘れられない一着になりますように。
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3月特有の、そわそわした期待感と淋しさが交差する感覚。桜が咲く季節も相まって、日本人にとっては特別な季節ですよね。今年はどんな桜が咲くんでしょうか。楽しみです🌸
