「集合と命題」に関する高校生の理解
はじめに
算数・数学の学習指導要領改訂の方向性を議論する「教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ」の第9回において,実は「令和6年度高等学校学習指導要領実施状況調査の結果について(数学)」という資料が出ています.この調査は全国の教育行政・高校のご協力のもとに国立教育政策研究所が行ったもので,全国の国・公・私立高等学校(全日制課程,中等教育学校の後期課程を含む)の第3学年を無作為抽出して対象としています.なお,高等学校数学はCBTで行われている点が特徴です.
この資料は結果の超要約版といったところですが,それでも数学に関する高校生の実態としてなかなか興味深い結果が挙げられています.ここでは集合と命題に関する理解のみ言及してみます.

条件の関係について集合の包含関係と関連付けて理解しているか

上の図1は「二つの条件の関係について集合の包含関係と関連付けて理解しているかを問う問題」とされ,全国の高3の通過率(正答率)は順に①76.2%,②76.3%,③50.0%となっています.
特に①と②は高等学校数学の調査問題の通過率としては高い方だと思われますが,上記からは当然ながら気になることも見えてくるかと思います.
①,②ともに高3の25%程度が正答していない
③の不等式になると高3の50%程度が正答していない
大規模調査としてわかるのはここまでで,「では,なぜそうなるか」についての解釈は,他の選択肢の割合なども踏まえて行っていく必要があります.それはそれとして追々報告書が出ますが,特に③の通過率については考えさせられるところです.
簡単な命題について、証明が適切であるかどうかを判断できるか

上の図2は「簡単な命題について、証明が適切であるかどうかを判断できるかを問う問題」とされ,通過率は21.7%(!)となっています.上記よりこちらの方が思うところのある先生方が多いかもしれません.
選択肢の趣旨からして,図2の①を「証明として正しい」とした生徒は,特定の場合でいくつか成り立つことを示せればそれで(全称命題の)証明となると捉えている可能性があるということになろうかと思います.中学生ではなく高3の生徒であることに留意が必要です.
③を「証明として正しい」とした生徒は,命題の逆が真であることを示せればもとの命題が真であると示せたことになると捉えている可能性があるということになろうかと思います.もちろん,それらの選択肢を選んだ全ての生徒がそうというわけではありません.例えば文章の意味を読み取れなかった生徒さんたちもいるはずです.いずれにせよ,誤答の選択肢の割合が気になるところです.
無論,高校生の実態は様々で非常に多様です.この結果をさもありなんと捉えられる方もおられると思います.一方で,数学Ⅰは必修です.「集合と命題」の内容は数学の根幹を成し,他の内容を支えるがゆえに数学Ⅰにあります.それが高3になったときにどのように「残っている」のか.この調査問題では,自分で証明を書くわけではなく,命題も比較的シンプルです.それでいて通過率21.7%はやはり重く捉える必要があり,本資料に書かれているように「簡単な命題について証明が適切であるかどうかを判断することには課題がある」ということになろうかと思います.学習指導要領改訂の議論を行うに当たってはこうした実態をちゃんと踏まえておく必要があると考えます.
指導上の改善点及び関連した学習指導要領改訂の動き
上記の結果を受けて,本資料における「指導上の改善点」のひとつに次のことが書かれています.
数学に関する知識の理解の質を高める活動を充実する。例えば、様々な説明や証明の仕方の限界やよさを考える機会を設けるなどして、証明することについての理解の質を高める。
数量や数式、図形などに関する性質を帰納的に見いだしたり、見いだした性質がいつでも成り立つ理由を演繹的に説明したりする活動を充実する。
例えばですが,図2の問題であれば,2つといわずもう少し調べてみたあとにそれで証明といえるかどうかを考える機会を設けることが,案外多くの高校生にとっても必要なのかもしれません.
関連して,冒頭述べた「教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ」では,2026年5月16日現在第10回まで検討が進んでいますが,そこでの「内容の改善のあり方」の一つには以下の図3が挙げられ,新たな「分野」として「論証」ができることが述べられています.


ちなみにといっては変ですが,算数・数学WGの議論も段々と終盤に差し掛かってきており,既にとりまとめに向けた骨子案・イメージが出ております.高等学校数学に関しては次のようなイメージも出ています.図5や図6が目を引きやすいですが何気に図7が大切だと考えています.図5では,「集合と命題(論証)」が太字になっています.ぜひ,【資料】とりまとめに向けた検討及びその他の論点・検討事項についてをご覧ください.



こうした改訂の方向性には,今回取り上げた調査の結果のうち本稿では触れていない2つめや3つめのものが関係するとみることができると思われます.ぜひ調査結果の元資料を改めてご覧いただき,数学に関する全国の高3の実態の一端をご覧いただけましたら幸いです.
おわりに
今回は集合と命題に関する理解の実態のみ取り上げましたが,本調査については,今後詳しい報告書が出る予定です.本調査では生徒や教師に質問調査も行っており,個人的にはなかなか興味深い実態が表れていると考えています.
そもそも高校ではこうした「実施されたカリキュラム」や「達成されたカリキュラム」を調べる調査が他にないので,改訂のための資料となることはもちろんながら,高校の数学教育研究のための資料としても大いに利用可能になると思います(実際,過去の調査結果には私も論文等でたくさんお世話になりました).報告書が出ましたらまたSNS等で周知してまいります!

