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男性の「産後うつ」と文化の盗用

評判のこども家庭庁が、今度は男性の「産後うつ」を支援すると言い出したようです。出産を経験しない男性に果たして産後があるのか謎ですが、どうして男性の痛みはこうまで迅速にケアされるのか、と思ったことを書きました。https://news.yahoo.co.jp/articles/d3ea66391a03edc17ecec605a65bc2fba8cd8370

 産後のしんどさは『気の持ちよう』


 女性の妊娠出産に付随する苦しさについては、その昔は産前であれば「マタニティブルー」と呼ばれ、キラキラした村上龍かよと突っ込みたくなるような、贅沢病みたいな扱いだった。産後のしんどさに至っては『気の持ちよう』とか、「育児ノイローゼ」などで、このノイローゼという言葉はヒステリーと言い換えてもいいのだけど、つまりは心の問題が体の問題として詐称されているというぐらいの名称で、ともかく産後の女性の痛みは、鼻であしらわれるような使いを受けてきた。

 

『心じゃなくて体がつらかったの?』


 そこから、産前産後のホルモンバランスの乱れや、出産による母体のダメージ、産後の睡眠不足などフィジカルに由来する病であることへの理解を進めたのが、この「産後うつ」という言葉だった。
 また、働く女性は妊娠出産によって社会的役割を失うことが多いため、そうした役割喪失に伴う抑うつ感情もあり、ここ数年でようやく女性が出産によって被るしんどさを可視化させる言葉であったはずだ。

白人の命も大事だけど、そういうことじゃない(BLMとWLM)


 しかし、ここにきて子ども家庭庁が自ら率先して、男性の産後うつの対策に取り組むという。ブラックライブスマター(BLM:黒人の命の問題)が叫ばれた時、すぐにホワイトライブズマター(白人の命も大事)と言う言葉が叫ばれだしたときの虚しさと重なる。
 
 そりゃあ、白人の命だって大事だ。しかし、白人に比べて圧倒的に命を粗末に扱われてきた歴史の中で、息をふり絞るようにして叫ばれたのが、BLMであって、それをスポッと白人に盗用される虚しさときたら。

私たちの苦しみにただ乗りするな


 産前産後の女性の置かれた孤独や孤立、かつては大家族の中で行われてきた子育てをたった一人で行うことの苦しさ、「母親なら睡眠不足でも哺乳に喜びを感じる」と言った母親幻想の呪縛、そういったものがようやく1990年ごろから「産後うつ」という言葉によって、長い時間をかけて社会に共有されるようになった。
 にもかかわらず、男性の産後うつだ。女性を抑圧してきた当事者である男性によって、女性が獲得した言葉にただ乗りされてしまったような、がっかりする虚しさだ。
 ある言葉が、それが出てきた文脈を離れて、異なる文脈で使われ始めるときに、その言葉の歴史的な要素が骨抜きにされてしまうような、文化の盗用ではないかとすら思う。もちろん産後うつは、フェミニズムの言葉ではないことを承知の上で。

女性はずっと子どもを産んできた


 そしてまた、女性の「産後うつ」が認知されるまでの長く苦しい時間に対して、育児休業取得率が30%にも満たない日本で、男性の産後うつへの支援という言葉が出てくるスピードの速さに、改めて、女性の痛みへの感度の鈍さと、男性の痛みへの感度の高さを感じる。無痛分娩が一向に進まない国で、アフターピルの薬局での処方がずっと『検討中』の国で、男性が育児を担うずっと前から、女性は子どもを産んできた。
 


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