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大阪製鐵が今年中に上場廃止になるかもしれない話

今まではブログで書いてたんですけど、管理とか運営がだんだんめんどくさくなってきて、リーチ力も高いnoteのほうが効率いいかってなって移行してみました。その一発目の備忘録です。気が向いたら更新していきます。

昨年はTOB予想の銘柄を4つくらい買って、うち2つ(Welciaとユタカ技研)を当てているので、案外そのあたりの勘みたいなものはあるのかもしれません。テクニカル分析(チャートの形や値動きのパターンを読む手法)は全然できないし、需給読みも無理です。セクターのトレンドを読んだり、企業の財務や構造を眺めたりするほうが好きです。内心はテクニカルのほうがイケてると思ってます。

この銘柄にたどり着いた経緯

私はセクター(業種)ごとの資金フロー(お金の移動)をチェックするのが日課だ。理由はシンプルで、セクタートレンドに張ることで自分なりの手法を確立してきたからだ。どの銘柄が上がるかより、どのセクターにお金が流れているか、流れそうかを先に読む。

あわせて、TOBやMBOされそうな銘柄も定期的にスクリーニングしている。親会社の持株比率、PBR、アクティビストの動向、親会社の買収余力など複数の軸に重みをつけてスコアリングして、候補を絞り込んでいる。詳細なロジックは全部は書かないけど、ざっくり言うと「親会社がやりたくなる理由」と「やれる体力」を数値化して掛け合わせている感じだ。

非常に面倒な作業だが今はClaudeCodeでオリジナルのスクリーナーを自作できるので、この作業がめちゃくちゃ快適になった。
ありがとうClaudeCode。

そしてそのスクリーニングで引っかかってきたのが、大阪製鐵だった。

なぜTOBがこんなに増えてるのか

そもそもTOB(株式公開買い付け)というのは、「市場の外で、今の株価より高い値段を提示してまとめて株を買い集める行為」だ。親会社が子会社を完全に自分のものにしたいとき(完全子会社化)によく使われる。TOBが発表されると株価がボンと上がるのが定番の動きで、株クラスタがざわつく系のやつ。

で、最近このTOBのニュースが明らかに増えている。これには理由がある。

東証が2023年ごろから「PBR1倍割れの会社は改善計画を出せ」と本格的にプレッシャーをかけ始めた。PBR(株価純資産倍率)というのは、会社を今すぐ解散して資産を全部売ったら株主にいくら返ってくるかを基準に、今の株価が何倍かを示す指標だ。1倍を下回るということは「理論上は会社を続けるより解散したほうが株主は得」という状態を意味する。日本にはこういう会社が山ほどある。

そこに追い打ちをかけたのがコーポレートガバナンス改革(企業統治の透明化・効率化を求める動き)だ。「親子上場はガバナンス上問題がある」「持ち合い株は解消せよ」という流れが強まり、大企業が非効率な子会社を抱えたままでは機関投資家(年金や保険など大口の投資家)から評価されなくなってきた。

「株主から見てわかりにくい・非効率な会社構造はもう許さないよ」という空気が日本の市場全体に広がってきた、ということだ。親子上場はその典型で、「親が全部決めてるなら子会社を上場させてる意味ないよね」という話になる。

結果として「上場させ続けるより完全子会社化したほうが合理的」という判断をする親会社が増えている。TOBが増えているのは流行ではなく、構造的に必然な流れだ。

大阪製鐵という会社

大阪製鐵(5449)は鉄鋼メーカーで、作っているのは主に形鋼(かたこう)という種類の鉄だ。H形鋼とかアングルとか、ビルや橋を作るときの骨格になる部材。

身近なところで言うと、駅のホームの屋根を支えてる鉄骨、マンションの構造体、工場の骨組み。直接目に触れる機会は少ないけど、我々が住んでいる街の「骨格」を作っている会社だと思ってもらえればいい。地味だけどないと困るタイプの会社だ。

で、この会社の親会社が日本製鉄だ。みんなが乗ってる車のボディ、缶コーヒーの缶、家電の外装、マンションの鉄筋。日本の製造業を裏で支えてる巨人で、粗鋼生産量は世界4位、売上は7兆円超えの超大企業だ。
ちなみに私は今注文住宅を建築している真っ只中だが、日本製鉄(NIPPON STEEL)が作っている“スーパーガルバリウム”という外壁材を採用したので親近感もあってこの銘柄を深ぼってみた。

話が長くなったが、その日本製鉄が大阪製鐵の株を65.9%持っている。

「親子上場」という歪な構造

日本製鉄が65.9%持っているのに、大阪製鐵はまだ東証に上場している。これを「親子上場」という。

65.9%を親が持っているということは、株主総会で何でも親の意向が通る。経営の重要事項は全部親が決められる。なのに少数株主(残りの34.1%を持っている一般投資家たち)は「一応株主」として存在している。「親が全部決めるのに、子会社だけ上場させて一般投資家も巻き込んでいる」という状態で、少数株主の立場から見ると「経営に口出しできないのに株は持ってる」という中途半端な構造になる。

先ほど説明したガバナンス改革の文脈で、東証はこの構造を問題視し始めている。「なんでまだ上場させてるの?ちゃんと理由説明して」という圧力が強まっている状況だ。

なぜ「今」日本製鉄は大阪製鐵を欲しいのか

ここが今回の記事で一番言いたいところだ。

AI・半導体の発達で、SaaS(クラウド型のソフトウェアサービス)の中流から下流が死にかけている。「クラウドで何でもできます」という時代に、その上に乗っかっていた中規模のソフトウェア会社から資金が逃げ始めている。じゃあその資金はどこに行くのかというと、面白いことに重たくてデカイ物に流れてきている。鉄鋼、電力、防衛。デジタルでは代替できない、物理的なインフラの世界だ。

そしてこれこそ、日本の得意分野である。

AI時代のデータセンター建設ラッシュで鉄鋼需要は伸びる。電力インフラの増強も不可避。防衛費はGDP比2%に向けて増え続ける。このセクターフローを見たとき、「鉄鋼、今まさに親会社が欲しいタイミングじゃないか」という感覚は誰でも持てる。

業績が上向きになる前に完全子会社化してしまえば、TOBの価格を低く抑えられる。PBR0.60倍という今の低評価のうちに動けば、少数株主の買取コストが最小化できる。逆に鉄鋼セクターへの資金流入が本格化して株価が上がってからではTOBのコストが跳ね上がる。「安いうちに買っておきたい」というごく普通の話を、親会社スケールでやっている。親会社にとって、動くなら今という合理性がある。

※PBRは2026年2月時点の株価・BPSをベースに算出

個別の材料を見ていく

① PBRが0.60倍という状態が続いている

大阪製鐵のPBRは0.60倍。帳簿上の資産価値の60%の値段でしか評価されていない。これは大阪製鐵だけの問題じゃなくて、親会社の日本製鉄にとっても他人事じゃない。グループ全体のガバナンス評価が下がるし、機関投資家から株主総会で「なんで放置してるの」と詰められるリスクがある。子会社の株価が冴えないままだと親会社の評判にも響いてくる。TOBで完全子会社化すれば、この問題がまるっと消える。

② お金の問題が完全にない

少数株主分(34.1%)を買い取るコストは、割増価格込みで約346億円と推定される。日本製鉄の手元資金は5,081億円。346億円の14倍以上を持っていて、低PBRの子会社を完全子会社化することで親会社のEPS(一株あたり利益)とROE(自己資本利益率)も改善する。346億円を使うことでグループ全体の数字がむしろ良くなる構造で、やらない理由を探すほうが難しい。

③ 外から圧力をかけてくる人が現れた

ストラテジックキャピタルというアクティビストファンド(経営に積極的に注文をつける投資ファンド)が大阪製鐵の株を12.3%まで買い集めて、株主総会で「親子上場を解消しろ」と提案を出してきた。面白いのが、大阪製鐵だけでなく親会社の日本製鉄にも株主提案を出しているという点だ。子会社だけでなく親会社にも直接文句を言いに行っている、これは圧力として結構えぐい。「大阪製鐵の話は大阪製鐵で解決して」と親会社が切り離せなくなってきている。

アクティビストが絡む案件は、過去のデータだとTOB時のプレミアム(割増価格)が10〜15%上乗せされる傾向がある。アクティビストが「その値段では売らない」と粘るからで、親会社はより高い価格を提示せざるを得なくなる。2026年2月6日に変更報告書が提出されていて、さらに株を買い増した可能性がある。撤退するどころかむしろ攻めを強めている。

「次は大阪製鐵の番では」と思う理由

日本製鉄のグループ再編、最近明らかに加速している。

大阪製鐵はこの中で一番PBRが低い。候補の中で最も「やる理由がある」銘柄だ。

グループ再編には「慣性」がある。一社TOBして完全子会社化すると、ノウハウや体制が社内に残って次のTOBのハードルが下がる。日本製鉄は2025年1月に山陽特殊製鋼(PBR0.7倍)をTOB+37%プレミアムで完全子会社化した。そのサイクルを一回回している。大阪製鐵のPBRは0.60倍で、山陽特殊製鋼よりさらに低い。「次にやるならここ」という条件が揃っている。

さらに2025年5月、日本製鉄が関西製鉄所(大阪地区)の製品を山陽特殊製鋼へ生産集約することを検討し始めたというニュースが出た。大阪製鐵の機能が、すでにTOBされた山陽特殊製鋼に吸収されつつある。看板だけ残って中身が移動していくような状態で、上場を続ける理由がどんどんなくなっていく。

出来事を並べると伏線回収みたいで面白い

▼ タイムライン
2025年1月30日 大阪製鐵が自社株TOB実施(親会社の持株比率アップ)
2025年1月31日 日本製鉄が山陽特殊製鋼にTOB実行
2025年4月   ストラテジックキャピタルが日本製鉄本体にも株主提案
2025年5月   日本製鉄、大阪地区の生産を山陽特殊製鋼へ集約検討
2025年6月   株主総会でアクティビストの提案を否決(でも「説得」はできてない)
2026年1月   インドネシア事業から撤退(単独経営の限界が数字に出た)
2026年2月   ストラテジックキャピタルが変更報告書提出(さらに買い増しか)

一個一個は「ふーん」で終わるんだけど、並べると流れが見えてくる。

ひとつ深読みするとしたら、2025年6月の株主総会だ。表面上は「アクティビストの提案を否決した」なので親会社の勝ちに見える。でも実態は、否決するために機関投資家を必死に説得して回った結果だ。「勝った」んじゃなくて「なんとか止めた」に近い。そしてアクティビストはその後も株を買い増し続けている。次の株主総会に向けて、親会社は同じ戦いをもう一度やらないといけない。毎年この戦いを繰り返すくらいなら、TOBでまとめて解決したほうが楽という計算が親会社の中で働き始めていてもおかしくない。

さらにもうひとつ見落とせない話がある。2025年4月時点で、大阪製鐵の流通株式比率(市場で実際に売買される株の割合)が東証スタンダード市場の上場維持基準である25%を下回っていることが判明している。このまま放置すると2026年3月末から監理銘柄に指定され、同年6月には上場廃止が決定するというタイムラインだ。

つまり「TOBされるかもしれない」どころか、「何もしなくても上場廃止になるかもしれない」という状況になっている。親会社にとっては、ずるずる引き延ばすより自分からTOBを仕掛けて主導権を握ったほうが、どう考えても合理的だ。

弱気な見方も書いておく

フェアに見るなら、慎重な見方もある。明確な発表もないまま2026年2月まで来てしまっているのは事実で、親会社の慎重姿勢は否定できない。インドネシア撤退を「業績悪化でTOBの交渉が難しくなる」と読むこともできなくはない。

60〜70%の確率でTOBが来るということは、裏返せば30〜40%の確率で来ない。そこは頭に入れておいたほうがいい。

私はこう読む

予想TOB時期は、2026年8月〜10月だ。

6月の株主総会シーズンを親会社がまたやり過ごすとは思えない。アクティビストの圧力はむしろ強まっていて、次の総会前に動く可能性が高い。鉄鋼セクターへの資金流入が本格化する前のタイミングとしても、今年の後半はギリギリのラインだと思っている。

当たってたら、そのときまた書きます。

この記事を書いた時点では、まだ何も発表されていない。ただ、これだけの材料が重なっているケースは案外珍しい。だから記録として残しておく。

この記事はあくまで自分の備忘録だ。読んで何かを感じたとしても、投資は自己責任で。イナゴ製造機のための記事ではない。



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