【第4章 あのフレーズが降ってくる瞬間】
♪ BGM:モーツァルト《アレグロ K.3(B♭ Major)》より
何もない場所から、音が降ってくる。
雨みたいに、光みたいに。ふいに、ぽつり。ぽつり。
「ヴォルフィ、いまの音、書いてごらん」
父レオポルドは、まるでボクの指が空からメモを受け取ってるとでも言うように、譜面台を差し出した。
──ふぁれしらしどーふぁふぁそそららしー……
ひとつめの音が降ると、あとからあとから続いてくる。
まるで「それ、そういう順番でお願いね」とでも言わんばかりに、整っていた。
「ねえパパ、ボクが考えたんじゃないよ。これ、向こうから来たの」
「“向こう”って、どこやねん……」
レオポルドが思わず関西弁になるくらい、驚いてた。
それでも、息子の譜面をのぞきこんで、何度も読み返していた。
「ヴォルフィ……これはもう、作曲や。しかも、ちゃんとした“完成”や。あんた、たぶん、もう……始まってるんやな」
※てかなんで急に関西人やねん、アンタら。
音楽は、“考える”んじゃない。
“感じる”とも少し違う。ボクにとっては、“聞こえる”だった。
頭のなかで誰かがささやく。鍵盤の向こうで、何かが震える。
譜面にペンを走らせるのは、手だけど、たぶん……心でもない。もっと、別のところ。
「これ、なんの曲なの?」
母がそっとのぞいて、言った。
「うーん……たぶん、“ボクの朝ごはん”って感じ?」
「ふふ、また変なこと言って」
いや、ホントにそうなんだってば。
朝、空がきれいで、パンの匂いがして、犬が尻尾ふってて。
ボクにとって、それは音楽なんだ。
そうして生まれたのが、K.3:Allegro(B♭ Major)
“はじめての作曲”なんて言われることもあるけど、ボクのなかではもっとこう……
「知らないだれかに、なにか言われた最初の手紙」みたいな感覚。
「こんにちは、アマデオ。ようやく気づいたね」
そんなふうに、天井の上から声が聞こえた気がした。
ふふっはあと。
音楽って、ほんとに不思議。
世界がボクに、勝手に語りかけてくるんだ。うるさいくらいに。最高だよね。
※この物語は一部フィクションを含みます。史実にインスピレーションを得ながらも、ピンク色の小部屋ではモーツァルトも、ちょっと自由におしゃべりしています。ふふっはあと。
