♭01 建築トラブル相談室:なぜか「助けてください」の電話ばかり来る 話
「天井が濡れていて、
カビが生えているんですが……」
電話の向こうの声は、
かなり疲れているように聞こえました。
「工務店さんに相談しても、
なかなか対応してもらえなくて……」
昨年の酷暑の頃のことです。
聞けば相手は全国規模の
有名ハウスメーカーで建てた住宅。
すでに何度も相談しているそうです。
それでも原因ははっきりせず、
問題も解決しない。
あちこち問い合わせた末に、
なぜか私のところへ辿り着いたのでした。
実はこういう電話、
年に5〜6件ほどあります。
そして不思議なことに、
「住宅購入前の調査をお願いしたい」
という相談はほとんどありません。
代わりに掛かってくるのは、
「助けてください」
に近い電話ばかりです。
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私はホームインスペクターの資格を持っています。
住宅に不具合がないか調査する資格です。
もっとも、
私はそれを本業にしているわけではありません。
建築の知識を深めるために取得した資格であり、
普段は設計や施工に関わる仕事をしています。
それでも資格者名簿には名前が載っています。
すると時々、
今回のような電話が掛かってくるのです。
おそらくは、
一般的なインスペクションの相談は、
それを生業とするインスペクターさんで
片付いているのだと思います。
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本来であれば、
こうした不具合は施工会社や設計者に相談し、
是正を求めるべき案件です。
私もまずそう説明しました。
すると相談者さんは言いました。
「メーカーさんは、
様子を見ましょうと言うだけなんです」
私は少し考えました。
建築の問題は、
原因が分からないと解決できません。
そして原因が分からないまま時間が経つと、
施主さんはどんどん不安になります。
その状態が一番つらいのです。
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幸い、
今回はそれほど遠方ではありませんでした。
そこで私は、
「一級建築士の親戚のおじさん」
という立場で現地確認に同行することにしました。
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現場でメーカーさんから説明を受けました。
「エアコンを効かせすぎたことによる結露です」
なるほど。
確かに天井には結露が発生しているようでした。
雨漏りではなさそうです。
しかし私は、
別の疑問を持ちました。
そこでメーカーさんへ尋ねました。
「では、
この家はエアコンを普通に使っただけで
結露する設計だったのでしょうか?」
その場が少し静かになりました。
もちろん、
メーカーさんも真剣に対応されています。
ただ私は、
『結露が発生した』
という現象と、
『結露しても仕方がない』
という説明は別の話だと思ったのです。
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そこで図面を確認させてもらいました。
すると問題の天井の真上に、
換気ダクトが通っていることが分かりました。
私は一つの仮説を立てました。
酷暑。
室内はエアコンで冷えている。
一方で天井裏は最小限に低く、狭く、
サウナのような高温になっている。
おそらくは、
小屋裏の自然換気は機能していない。
そして、
換気ダクトを通過する空気は
エアコンで冷やされている。
その温度差によって換気ダクト表面に
大量の結露が発生し、
水滴が天井へ落ちているのではないか。
もしそうなら、
問題は天井のシミだけでは済みません。
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私はさらに建物を確認しました。
すると壁の床付近に、
気になるシミを見つけました。
もし結露水が壁内部を流れているとしたら――。
断熱材への影響。
カビの発生。
木材の劣化。
さらに電気配線やコンセントまで到達すれば、
漏電の危険もあります。
最悪の場合、
火災につながる可能性さえ否定できません。
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私はメーカーさんへお願いしました。
「換気ダクトの表面結露を前提として
一度会社へ持ち帰り、
改めて検討していただけませんか」
そのうえで、
・壁や天井内部の確認
・換気ダクトの断熱対策
・天井裏換気の改善
・屋根からの熱侵入対策
・換気設備の見直し
などを提案しました。
---
その後、
メーカーさんは迅速に対応してくださいました。
もちろん最終的な判断も、
改修方法の決定もメーカーさんです。
しかし結果として提案内容に沿った改善工事が行われ、
問題は解消されたそうです。
後日、
相談者さんからお礼の電話をいただきました。
その時の安堵した声を聞いて、
私もほっとしたことを覚えています。
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さらに後日、
名刺交換していたメーカー担当者さんからも
電話で興味深い話を聞きました。
実はその年の夏、
全国的に似た事例が発生していたそうです。
対応に苦慮する中で、
今回の検討内容が社内で共有され、
ひとつの参考事例になったとのことでした。
私にとっても勉強になる経験でした。
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建物はしゃべりません。
雨漏りも。
結露も。
床の傾きも。
自分から原因を説明してくれることはありません。
だから誰かが現象を見て、
仮説を立て、
検証し、
原因を探るしかないのです。
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私のところへ掛かってくる電話の多くは、
「どこへ相談すればいいのか分からなくなった」
という方々からです。
全国どこへでも飛んで行けるわけでは
ありません。
解決をお約束することもできません。
それでも、
「次に何を確認すればいいのか」
「誰に何を伝えればいいのか」
その方向性くらいなら、
お話できるかもしれません。
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そういえば、
こうした相談事例はこれまでにも数多くありました。
雨漏りだと思ったら結露だった話。
結露だと思ったら換気設備だった話。
床鳴りの原因が、
まったく別の場所にあった話。
建物のトラブルは、
推理小説のような一面があります。
これもシリーズ化して
《マガジン》を作っておきます。
もしご興味がありましたら、
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質問も出来ますのでご遠慮なく。
このシリーズの次回は、
《 壁体内結露 》のトラブル実例について
お話しします。
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