ジェーン・シェーンブルン『We're All Going to the World's Fair』SNS時代の自分探し
真夜中に屋根裏の薄暗い自室でPCに語りかける少女。PC画面のライトによって照らされた少女の顔が浮かび上がる。やがて彼女はケイシーと名乗り、ウェブ上の"ホラーゲーム"である"万博チャレンジ(World's Fair Challenge)"に参加することを宣言する。これはPC画面を血の付いた指で触り、"万博に行きたい"と宣言すると何かが起こる…という現代の怪談であり、肝試しやコックリさんなど長い歴史の中で様々に形態を変えながら現代に順応したそれらの一種である。劇中では他のプレイヤーがアップした動画の中で、身体がプラスチックになったり、PCに画面に引きずり込まれたりした事例が紹介されているが、それが本物であるわけがない。ケイシーと名乗る少女は参加宣言をした後、自分に起こるかもしれない何かを期待してカメラを回すが、その下らなさは本人も理解している。彼女にとって"World's Fair Challenge"とは、外世界と繋がるためのたった一つの細い線であり、自分とは何かと探す旅路なのだ。
本作品において、ケイシーは実生活で他の生身の人間と会話するシーンが全く無い。母親は不在(おそらく亡くなっている)で、父親も深夜に帰宅するために自宅には誰もおらず、10代のはずが学校にも通っていない。本作品の最も印象的なシーンの一つが、納屋で"大丈夫よもう寝なさい"とカメラに語りかける女性のASMR映像を壁に上映する場面で、彼女は自分を落ち着かせるようにそれを見て眠りにつこうとする。まるで孤独に宇宙を漂う子供が、世話をするAIによってあやされているかのようなこの場面は、インターネットという深海で自分を探す彼女の状況を端的に表していると同時に、ネットに潜む多様な危険性と自己実現の可能性を同様のものとして捉える本作品の真髄とも言える。
ある日、JLBという垢名の年上の男から"至急連絡をして欲しい"というメッセージを受け取ったケイシーは、見ず知らずの男とSkype通話をする。ケイシーは動画と同じく加工なしの顔出しで、JLBは顔も名前も出さない。JLBは本当に親切心から、怪しげなチャレンジを信じて続けようとするケイシーを心配しているようにも見え、ケイシーとの関係性は本当の父親よりも父親然とした優しさを見せる。本当の父親は画面の中に登場すらしないので余計にそう感じさせる。しかし、彼の匿名性に対してケイシーの個人情報がモロにバレている(顔や住んでいる地域)ことを考えると、彼の優しさがホンモノであれど不均衡さが少々グロテスク。最終的に彼を拒絶することが重要な気もするんだが、全員が無字幕ASMR音声で話すので聞き取れなかった部分もあり、そこらへんは保留。
最初にJLBが接触してきた際や、ケイシーが寝ている姿をアップする(アンディ・ウォーホル『Sleep』かな?)際に、変形した顔が映される瞬間がある。クリーピーパスタというらしいが、ビビリな私には心底恐ろしかった。特に後者のそれは瞬間的な恐怖以上に、彼女に何かが起こっていること、それが加工であるなら彼女の物語がどこにも存在しないこと、そちらの方が恐ろしく思えてきた。時間差攻撃とはこのことを指すのか…

・作品データ
原題:We're All Going to the World's Fair
上映時間:86分
監督:Jane Schoenbrun
製作:2021年(アメリカ)
・評価:80点
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