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選択

映画を見た後の帰り道、そのまま映画の世界に浸っていたくて、サウンドトラックを聞きながら帰ることがしばしばある。見終えたばかりの映画について、すぐ言語化するほどにはまだ頭が整理できていないし、むしろすぐ言語化してしまうのがもったいないと感じる中、さっきまで自分も一部になっていた映画の世界を、音楽をきっかけに現実世界に引っ張ってくる。映画館の暗闇から出て、見たばかりの映画内容に思い巡らせている時間は、物理的にも精神的にも、なんだかいつも視線のピントが合いにくくぼんやりした気分になる。あたかも自分を主人公としてどこかからかカメラが撮影していて、映画の世界の一員になったかのような感覚が芽生える。

最近は、2年前に見た『パスト ライブス/再会』のサントラを聴きながら、オリジナル脚本を読み進め、脚本と合わせて映画そのものを見返したりした。これまであまり映画脚本そのものを読んだ経験はなかったのだけれど、もちろんそこに俳優の表情はなく、文字で書かれた簡潔な状況描写とセリフが並ぶ。脚本上は淡白な「Beat.(間)」や「Silence.(沈黙)」という記述が、サントラの音楽によって膨らみ、映画の情景とその時に抱いた感情がぼんやりと思い起こされてくる。

『パスト ライブス/再会』あらすじ
ソウルに暮らす12歳の少女ノラと少年ヘソン。ふたりはお互いに恋心を抱いていたが、ノラの海外移住により離れ離れになってしまう。12年後24歳になり、ニューヨークとソウルでそれぞれの人生を歩んでいたふたりは、オンラインで再会を果たし、お互いを想いながらもすれ違ってしまう。そして12年後の36歳、ノラは作家のアーサーと結婚していた。ヘソンはそのことを知りながらも、ノラに会うためにニューヨークを訪れる。24年ぶりにやっとめぐり逢えたふたりの再会の7日間。ふたりが選ぶ、運命とは―

Filmarks映画情報

セリーヌ・ソン監督の実体験に基づいたこの映画は、2023〜2024年の映画賞レースで多くの注目を集めていた。いつものごとく日本公開は他国より遅かったので、非常に良い前評判をたくさん目にしながら、日本公開を待つ焦らされる日々が続いていた。公開された週末に早速見に行き、その余韻に包まれた勢いのまま、姉とのポッドキャスト『姉と弟のマイペースラジオ』でこの映画について話した。見た直後過ぎて、このポッドキャスト回で自分は「言語化は憚られる」と言っていた。今でも言語化は難しい。

映画では、韓国語の「イニョン」という語が象徴的に登場する。日本語にしたら「縁」や「運命的な繋がり」の意味だ。振り返ると、運命について自分は一家言あるようで、過去のポッドキャストでも度々話題にしている。44.姉弟ラジオ211204では、自分が受けてみた遺伝子検査の結果を元に、自分の性質や傾向について取り上げた。仕方がない、そういうものかと受け入れて結果に意味を見出す姉と、どうしても抗い、結果を変えたくなってしまう弟の自分とで、運命思考と抗い思考について会話している。また、更に遡って27.姉弟ラジオ201101では、もう少し仲良くなれたかもしれない人や縁について話していた。

以前に、『パスト ライブス/再会』の舞台であるニューヨークに出張の用事があった。幸い半日弱時間があったので、映画の撮影地を巡ることにした。サントラを聴きながら、20年以上ぶりに対面で2人が再会したマディソンスクエアパーク、空白期間にあったことについて話しながら散歩したハドソン川沿いとメリーゴーランド、「(別の運命で)またその時に」とさよならしたアパートなどの撮影地に足を運び、映画のシーンを思い出す。

『パスト ライブス/再会』のように、初恋の相手を想い続けるのとは少し違うけれど、自分が重ねて考えてしまうのは、「選択」についてだ。自分の意志で選んだものもあれば、状況的に自分ではどうしようもなかったものもある。今の人生に後悔があるわけではないし、自分がした選択を思い悩んでいるわけでもない。ただ、あの時に異なる選択をした自分の世界は、一体どうなっているんだろうか、と思い馳せる。それは、ファンタジーなんかよりも全然あり得た自分のパラレルワールドたちだ。数分の遅刻や、あの時飲み込んだ一言の差といった些細なものから、もし行った大学・職場が違ったとしたら…という大きなものまで、様々だ。大小問わず、いずれもその後の自分に影響を与えて、今とは違う自分の世界線があったかもしれない。

過去のことをどんなに考えても、済んだことは仕方がなく、今の自分とこれからの自分しかいない。これからの選択や向き合い方で今後はいくらでも変わりうる。でも、だからこそふとした時に、「たられば」に思い馳せてしまう。ニューヨークで撮影地巡りをしながらサントラを聴いていると、映画のシーンと一緒に、これまでの自分自身の選択とパラレルワールドたちが周囲を取り巻いている気がした。

思えば、あの映画のエンディングもそうだった。 幕切れは、決別とも希望とも安易に言うことはできない。でも、色々と入り混じった感情を抱いていても構わないし、そうした感情を抱きつつも前進していく、その道を選択するということを優しく包みこんでくれた。

ピントの合わないぼやけた視界の向こうにいる、パラレルワールドの自分が目に入る。時折立ち止まり、否定も後悔もせず、あり得たかもしれない自分と静かに目配せを交わしながら、自分の人生の、次の選択をし続ける。


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