食用バラの市場を開くほど、品質基準は厳しくする
食用バラを全国へ広げるなら、生産者ごとに自由な方法で育ててもらえばいい。そう考える人もいるかもしれません。
しかし私たちは、広げるほど管理を細かくしています。毎年の土壌分析を必須とし、その土地に合わせた資材を個別に設計。さらに、週ごと、月ごとの実施事項まで決め、シーズンを通して栽培を管理しています。
市場を開くことと、品質まで自由にすることは違う。
食用バラを一時的なブームではなく、何十年も続く産業にするために、なぜ入口から品質を管理するのか。その考え方を書きます。
食用バラを広げたいからこそ、「誰でも自由」にはしない
前回の記事で、食用バラを自社だけで囲い込まず、育てる人、加工する人、商品にする人を増やしていきたいと書きました。
小さな市場の中で取り分を争うのではなく、まずは市場そのものを大きくする。
食用バラを使って商売をする人が増えれば、その市場の中にいる私たちの仕事や売上も、後からついてくる。
これが、私たちの基本的な考え方です。
ただし、ここで誤解されたくないことがあります。
食用バラの市場を開くというのは、
「誰でも、どんな方法でも、自由にやればいい」
という意味ではありません。
むしろ、参加する人が増えるほど、品質基準は厳しくする必要があります。
自由に使える市場をつくりたいからこそ、品質だけは自由にしない。
一見すると、少し矛盾しているように聞こえるかもしれません。
しかし、食用バラを一時的な流行ではなく、何十年も続く産業にするためには、この二つをセットで考える必要があります。
一つの商品が、食用バラ全体の印象を決めてしまう
食用バラは、まだ多くの人にとって馴染みのある農産物ではありません。
スーパーへ行けば、いつでも普通に並んでいるものではない。
家庭で毎日のように使われる食材でもない。
初めて食用バラを知る人にとっては、最初に手にした一つの商品が、そのまま食用バラ全体の印象になることがあります。
色や香りがよくなかった。
保存状態が悪かった。
表示が分かりにくかった。
どのように栽培されたものなのか分からなかった。
そんな体験をした人が、
「この会社の商品はよくなかった」
ではなく、
「食用バラって、こういうものなんだ」
と思ってしまう可能性があります。
すでに大きく成熟した市場であれば、一社の商品と業界全体を分けて考えてもらえます。
しかし、まだ市場が小さい段階では、一つの問題が市場全体の信用に影響します。
食用バラに取り組む人が増えることは、もちろん歓迎したい。
ただし、最低限守るべき品質については、最初から共通の物差しを持っておかなければならないと思っています。
「きれいに咲いた」だけでは、食用品質とは言えない
バラは、見た目が美しい植物です。
花が大きく咲き、色が鮮やかなら、それだけで品質が高いように見えます。
しかし、観賞用として美しいことと、食品や食品原料として適切であることは同じではありません。
どのような土で育てたのか。
どのような資材を使ったのか。
シーズンを通して、どのような管理をしたのか。
いつ収穫したのか。
収穫後、どのように保管したのか。
冷凍、乾燥、蒸留など、どのような加工をしたのか。
食用として扱うなら、見た目だけでは判断できない部分がたくさんあります。
「きれいに咲いたから食べられる」では足りません。
食用バラの品質は、花が咲いた後だけを見ても分からない。
土づくりから収穫後の管理まで、そのすべてがつながって品質になります。
品質管理は、毎年の土壌分析から始まる
私たちの教育プログラムでは、メンバーさんに苗を渡して、
「それぞれの土地で、自由に育ててください」
としているわけではありません。
まず、すべてのメンバーさんに、毎年の土壌分析を必須にしています。
同じ品種のバラを植えても、土地が違えば、土の状態はまったく違います。
不足している成分も違う。
過剰になっている成分も違う。
水はけや土質も違う。
前年までの栽培による変化もあります。
だから、全国一律に同じ肥料や資材を配ればいいとは考えていません。
毎年の土壌分析結果をもとに、その土地に何が必要なのかを判断し、それぞれのフィールドに合わせたカスタムオーダーの資材を届けています。
土壌分析をするのは、単に悪いところを探すためではありません。
その土地が現在どのような状態にあり、次のシーズンに何を補い、何を控えるべきかを判断するためです。
人間の健康診断と少し似ています。
去年と同じ生活をしているつもりでも、身体の状態は少しずつ変わります。
土も同じです。
去年と同じ資材を、去年と同じ量だけ使えばいいとは限りません。
毎年確認し、その時点の状態に合わせて調整する。
食用バラの品質づくりは、花が咲いたときではなく、土を調べた時点から始まっています。
全国で同じ資材を使うのではなく、同じ品質水準を目指す
品質基準というと、全国でまったく同じ栽培をさせるイメージを持たれるかもしれません。
しかし、山形と九州では気候が違います。
降水量も違う。
気温も違う。
土質も違う。
日照時間や生育時期も違います。
全国のフィールドを、同じ環境にすることはできません。
無理に同じにする必要もありません。
大切なのは、全国で同じ資材を使うことではなく、
それぞれの土地に合わせながら、一定の品質水準を目指すことです。
土壌分析の結果に合わせて資材を変える。
地域の気候や生育状況に合わせて調整する。
一方で、食用バラとして守るべき栽培の考え方や工程は共通にする。
地域ごとの違いを消すのではなく、違いを前提に設計する。
全国で同じ育て方を押しつけるのではなく、それぞれの土地に合わせながら、同じ品質を目指す。
これが、私たちの考える栽培管理です。
資材を届けて終わりではない
カスタムオーダーの資材を届けたからといって、それだけで品質がそろうわけではありません。
資材は、適切な時期に、適切な方法で使って初めて意味があります。
そこで私たちは、年間の大まかな栽培方針だけではなく、週ごと、月ごとの具体的な実施事項まで管理しています。
今週、何をするのか。
今月、どこを確認するのか。
どの時期に、どの資材を使うのか。
生育の段階に応じて、どの作業を行うのか。
何を見て、次の判断につなげるのか。
「春はこのように管理してください」という大きな話だけではありません。
実際にフィールドで何をするのか、作業単位まで落とし込みます。
そして、それをシーズンを通して続けていく。
農業は、苗を植えた瞬間に結果が決まるものではありません。
一週間ごとの小さな作業。
一か月ごとの確認。
その積み重ねが、数か月後の花や葉の品質につながります。
品質は、最後の検査でつくるものではなく、日々の作業によって積み上げるものです。
経験や勘を、再現できる仕組みに変える
農業では、経験や勘が非常に大切です。
葉の色を見る。
土の乾き方を見る。
気温や風を感じる。
長年取り組んできた人だから分かる、小さな変化もあります。
私たちも、そうした現場の感覚を否定するつもりはありません。
ただ、産業として全国へ広げていくなら、経験者だけが分かる世界のままでは難しい。
農業経験の浅い人でも取り組める。
地域が違っても、基本的な考え方を共有できる。
問題が起きたときに、どこを見直せばいいか分かる。
そのためには、経験や勘を、できる限り言葉や工程に置き換える必要があります。
週ごと、月ごとの実施事項を決めるのも、そのためです。
決められたことを、ただ機械的にこなしてもらうわけではありません。
何をすべきかを共有することで、異変にも気づきやすくする。
感覚だけに頼らず、後から振り返れる形をつくる。
品質管理とは、経験を捨てることではなく、経験を再現できる仕組みに変えることです。
基準は、メンバーさんを縛る鎖ではない
品質基準という言葉には、窮屈な印象があります。
ルールが増える。
管理される。
自由がなくなる。
そのように感じる人もいるかもしれません。
しかし、私たちは基準を、メンバーさんを縛るためのものだとは考えていません。
基準がなければ、何ができていて、何が足りないのかも分かりません。
「たぶん大丈夫だと思う」
「去年もこの方法でやった」
「自分のところでは問題がなかった」
それだけでは、企業や消費者に安心してもらうことは難しい。
共通の物差しがあるから、自分の現在地が分かります。
どこを改善すればいいかも分かる。
ほかのメンバーさんと原料を合わせることもできる。
まとまった注文に、複数の地域で対応することも考えられます。
つまり、品質基準は、参加者を減らすための壁ではありません。
離れた地域の人たちが、一つの産業として動くための共通言語です。
厳しくするのは、できない人を落とすためではない
品質基準を厳しくすると言うと、基準を満たせない人を排除する話に聞こえることがあります。
しかし、最初から完璧にできる人ばかりではありません。
農業を始めたばかりの人もいます。
バラを育てた経験がない人もいます。
小さな規模から始める人もいます。
だからこそ、教育プログラムがあります。
栽培方法を共有する。
毎年、土壌分析をする。
その土地に必要な資材を設計する。
週ごと、月ごとの実施事項を示す。
シーズンを通して、同じ考え方で栽培してもらう。
できていない人を見つけて落とすのではなく、
一定の品質に届くように、仕組みの中で一緒に育てていく。
これが、私たちの教育プログラムの役割です。
品質基準は、使う側の安心にもなる
食用バラの市場を広げるには、企業や料理人に継続的に使ってもらう必要があります。
一回だけのイベント商品なら、珍しさで採用されることもあります。
しかし、定番商品として使うなら、毎回品質が違うわけにはいきません。
前回は色がよかったのに、今回は違う。
前回は香りがあったのに、今回は弱い。
納品する人によって、状態が変わる。
どのように育てたものか確認できない。
これでは、使う側の負担が大きくなります。
商品のたびに原料を確認し、配合や加工方法を調整しなければならない。
それでは、食用バラは面白い素材ではあっても、使い続けられる素材にはなりません。
市場に必要なのは、
珍しい素材ではなく、安心して繰り返し使える素材です。
毎年、土壌分析が行われている。
土地に合った資材が使われている。
週ごと、月ごとの作業が一定の考え方で実施されている。
シーズンを通した栽培工程が管理されている。
こうした積み重ねが、使う側の安心につながります。
品質を守ることが、生産者の価格を守る
品質基準は、消費者や企業のためだけにあるものではありません。
生産者の価格を守るためにも必要です。
栽培方法も管理方法も違う食用バラが、すべて同じものとして売られれば、最後は価格だけで比べられます。
安い方が選ばれる。
さらに安いものが出てくる。
丁寧に土を分析し、必要な資材を使い、シーズンを通して管理しても、その違いが伝わらない。
それでは、きちんと取り組む人ほど苦しくなります。
品質の違いが分かる。
栽培や管理の背景を説明できる。
用途に応じた評価基準がある。
そこまで整って初めて、品質に見合った価格をつけやすくなります。
品質基準は、品質を守る生産者の利益を守る仕組みでもあります。
安くつくるために基準を下げるのではなく、きちんとつくった人が、きちんと評価される市場をつくる。
これも、食用バラを産業にするうえで欠かせないことだと思っています。
市場を開くことと、無秩序にすることは違う
私たちは、食用バラを自社だけで囲い込むつもりはありません。
全国のメンバーさんにも、それぞれの地域で商品や商売をつくってほしい。
企業にも使ってもらいたい。
料理人や菓子職人にも使ってほしい。
飲料、美容、香りなど、さまざまな分野へ広がってほしい。
ただし、市場を開くことと、無秩序にすることは違います。
誰でも自由に名前を使っていい。
どのような方法で育ててもいい。
管理方法が違っても、同じ品質として売っていい。
それでは、市場が広がる前に信用が崩れてしまいます。
ブランドや知的財産を守る。
栽培や品質の基準を守る。
そのうえで、参加する人や活用する人を増やしていく。
閉じた独占でもなく、何でもありの開放でもない。
その間に、産業を育てるための設計があります。
食用バラの市場を開くほど、品質基準は厳しくする
自社だけで生産し、自社だけで加工し、自社だけで販売するなら、社内のルールだけでも管理できます。
しかし、全国にメンバーさんが増え、取引する企業が増え、用途も増えていくなら、全員が共有できる基準が必要です。
市場が大きくなってから基準をつくるのでは遅い。
問題が起きてから、慌ててルールを決めるのでも遅い。
市場を広げる段階から、品質を守る仕組みを一緒につくらなければなりません。
そのために私たちは、
毎年、土壌分析をする。
土地ごとに必要な資材を設計する。
カスタムオーダーの資材を届ける。
週ごと、月ごとの具体的な実施事項を管理する。
シーズンを通して、一定の栽培方法で取り組んでもらう。
ここまでを、一つの仕組みとして行っています。
食用バラを広げたいから、栽培をそれぞれの感覚に任せるのではありません。
食用バラを広げたいからこそ、栽培の入口から品質を管理する。
食用バラの市場を開くほど、品質基準は厳しくする。
広げるだけでは、信用が追いつかない。
守るだけでは、市場は閉じたままになる。
広げながら守る。
守りながら、参加する人を増やす。
自由に使える市場をつくりたいからこそ、
品質だけは自由にしない。
それが、食用バラの信用を守り、育てる人を守り、使う人を守り、何十年も続く産業をつくることにつながるのだと思います。
いかがでしたか?
自分の場合、立場もあるので
記事には、どうしても整えてから出す話が多くなります😅
でも、整えすぎた言葉は、だいたいつまらない(笑)
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