鬼門の赤
車の色に、物言いがつくとは思わなかった。
結婚式をあげて2ヶ月後。
結婚の際、実父から「将来、お母さんと一緒に暮らしてやってほしい」と言われたのだけれど、たまたま目ぼしい土地が空き、あれよあれよという間に二世帯住宅を建てることが決まった。
家の図面、外観、キッチン、壁紙、ローンのことなど、色々考えることが多く、ようやくさまざまな考え事(結婚式)から解放されたのに息付く暇もなく、脳みそが頭蓋骨ごと変形しそうになっていた当時、夫がポツリと言った。
「車、買い替えたい。」
「MAZDA か SUBARU で。」
コイツ…、こんなに考えることが多いなかで、しかもこんなにお金(住宅ローン)がかかることが分かっているさなかで、何を言い出すんだよ!?
しかも、なんだよ、その謎のメーカー縛りは!?
結局、車関連のさまざまな事は夫が一手に引き受ける、そして、家のこともちゃんと考える、という条件のもと、二世帯住宅を新築することと、車の買い替えが同時に行われることになった。
当時、車のことをよく知らない私が出した、車に対する条件がひとつだけあった。
赤い車に乗りたい。
以前住んでいたマンションの駐車場に停めてあった赤いプリウス。
私はあのプリウスに一目惚れし、「いつか赤い車を乗り回すオンナになりたい」と思ったのだ。
色々夫が試乗した後、愛車は赤のCX-5に決定、諸々の手続きを経て、あとは車の代金を納めるだけ……。
いよいよ私は、【赤い車を乗り回すオンナ】になれる……。
駄菓子菓子。
婚姻、結婚式、新築一戸建て、新車の購入…と1年足らずで爆速で進んでいくライフステージ。
何もかもすべて順調に行くわけがなかったのだ。
「車の色、赤!?」
「そんなん、ウチの車の隣に停めたら台無しやがな!!」
「あんなに家の外観こだわったのに!!」
実父の車は白。
外観にこだわった家、その家の前に、2台の車が【紅白】の状態で並ぶ。
まさかまさかで、実父から、私たち愛車の色に物言いがついたのだ。
一悶着のうえ、夫から、「赤い車(を乗り回すオンナになるの)は将来の楽しみにしておいてほしい」と言われ、私は泣く泣くダークグレーのCX-5に折れたのだった。
行き場を失った私の赤への情熱は、新しい炊飯器で、新しいアイロンで、新しいジェットストリーム多色ボールペンで、昇華されていくこととなった。
私の中でさかっていた赤い炎は、家の中にポツリ…、ポツリ…と、かすかに燃え広がっていったのだ。
数年後。
奇跡が起こる。
白い車にばかり乗っていた実父が、黒い車に乗り換えた。
さらに数年後。
われらが愛車の乗り換え時期。
隣に停めてある実父の車は黒。
私たちが住んでいる二世帯住宅も、築数年が経った。
時は来た。
「【赤い車を乗り回すオンナ】になりたい」という私の夢が、ようやく叶えられた。
MAZDAは赤のCX-5が私たちの新しい愛車となったのだ。
駄菓子菓子、駄菓子菓子……。
赤い車を手に入れた私たちの愛車生活は、順風満帆なものとはならなかった。
スーパーの駐車場にて、激しく横から追突される。
知らない間に、当て逃げをされる。
石を跳ね上げ、フロントガラスに傷ができる。
私も車を擦る。(2回)
以前のCX-5ではけして起こらなかったトラブルがたくさん。
ボロボロに、傷だらけになっていく愛車CX-5。
新築一戸建ての家の前に停められる(はずだった)紅白の車たちよりもダサくなっていく愛車 CX-5。
数年のトラブルを経て、赤のCX-5は、このたび買い替えられることとなった。
名誉の負傷を修理されることもなく。
いいかげんに修理をしようとしたところ、CX-5のディーゼルモデルの販売終了時期(我らの愛車が高く売れ、旧モデルの新車が安く買える)と、車検時期が重なり、新車を買うほうが断然おトクだ、という話になったのだ。
夫に新車の色を確認された(細々と事故を繰り返す)私は、オプション価格を払ってまで「赤い車で」とは、とても言えなかった。
新緑が輝く頃、わが家の駐車場にネイビーのCX-5がやってくる。
私に「赤い車を乗り回すかっこいいオンナ」は無理だった。
私にとって、車の赤は、家庭内不和をもたらす、車の傷をもたらす【鬼門の色】だったのだ。
ネイビーの車がやって来れば、きっと。
家内安全、交通安全が叶うはずだ。
それは、一家の主婦 兼 母親として、【赤い車を乗り回す】という願いよりも、うんと大切なこと。
そして……。
noteの路地裏で、2年ほど鬼イジりされてきた 野乃ののの。
新しい車がわが家にやってきたのち、鬼イジりの終焉も、無事に迎えられることだろう。
