自由の足枷
仕事を辞めれば、北海道に旅行すると思っていた
息が詰まる現実から、切り離されると信じていた
けれど、何も変わらなかった
仕事を辞めた私は、ずっと薄暗い部屋の中にいた
悪夢のような窒息する世界は、私が見せていた幻
13年働いた職場の最終日
料理長から最後に投げかけられた言葉は
「失せろ」
この言葉が、ずっと頭の中で鳴り響いてやまない
私は、何のために働いていたのだろう
私はなぜ、最後まで上手くいかないのだろう
今日は私の誕生日だというのに
「失せろ」と言われる私は、祝う価値もない
最後の挨拶も出来ぬまま
何が何だかも分からぬまま
私は、会社での役割を終えた
更衣室のロッカーを空にし、
私の名前を剥いで捨てた
更衣室を出た先には、天ぷらのチーフがいた
「何もしてやれなかったから
俺にできるのはこれくらいだから」
そう言われながら、2万円を手渡された
何と言えばいいのか分からなかった
店に戻っていくチーフの背中をただ見ていた
チーフの言葉は、その時の私に何も与えなかった
私には、『失せろ』しか残っていなかった
外に出ると、寒かった
それに、なんだか重かった
私の左手には、包丁ケースが握られていた
私の右手には、2万円が隠れていた
私は、涙が溢れて止まらなくなった
涙を流したまま、電車に乗った
視界も定まらないまま、駅から歩いた
家では夜通し泣き喚いた
昼過ぎに起きた時に私は、
『髪を捨てよう』と思った
チーフから渡された2万円で、バリカンを買った
私は、ニット帽で頭を隠すようになった
仕事を辞め、髪を捨て、私は部屋に引き篭もった
仕事を辞めれば、自由になれると思っていた
辞めた私は、一歩も動かなくなった
旅行する未来は、訪れなかった
ずっと、部屋で寝ているだけ
寝て、寝て、寝て、矛盾した考えを繰り返す日々
もっと自分なんて苦しめばいいと思った
もっと人生を楽しんでみたいとも思った
仕事を辞めて半年間、時間はいくらでもあった
時間があっても、私にはやりたいことがなかった
私の足は不自由だった
足には鎖が巻き付いていた
行動を束縛する鎖
限られた範囲にしか行くことが出来ない
私は今、働いている
私の足は、どこへでも行ける
足の鎖は、去年の暮れに断ち切った
私の意思で、足枷を外す事を選んだ
時間がなくとも、私にはやりたいことがあるから
旅行したいなら、今から行けばいい
参加したいなら、今すぐ声を掛ければいい
だからこうして、このお祭りに参加している
私にとっての自由とは今
私は自由に生きている
失ってから気づいたことだ
