小説『Snowdrop Surfer』第二話:北海道への辞令
来年度の所属部署の構想に、俺の名前はなかった。
コロナ禍でパフォーマンスを落とした俺は、本流のチームから外された。
「死ぬな。売上なんか、あとで取り戻せばいい。」
そう言って、俺は部下たちを営業に出さなかった。
だって、あの志村けんですら死んでしまったんだ。
若い社員たちの命を預かるのは俺だ ───
本気でそう思っていた。
だが、その想いは、上司たちには伝わらなかったらしい。
そして、俺は札幌行きを命じられた。
「北海道……?」
思わず声が漏れた。
これまで全国を飛び回り、
新規開拓に明け暮れてきた俺だったが、
まさか、あの北の地に身を置くことになるとは。
しかも、一からの札幌営業所の立ち上げ。
それに加えて、M&Aされたばかりの地元企業「ホクセイ産業」の社長も兼務することになった。
上司の権田が続ける
「佐々木、お前は行動力だけはあるからな。
社長、所長、営業、事務……一人で四役、
まさに『四刀流』や。
大谷翔平もびっくりやろ。
まあ、給料は一人分や。会社も厳しいんや。
ほな、期待してるわ」
(なんだそれは...)
「社長」とは名ばかりで社長の手当はない。
だがこの仕事を引き受けなければ、
俺に残された道はもうない ───
Fight or Fade
…戦うか、消え去るか、
そう突きつけられているような気がした。
そして、
ホクセイ産業が背負うのは、
北海道の超巨大企業 ───「雪明(ゆきあけ)グループ」との取引強化という使命。
漁業、農業、酪農、食品加工、輸出入、物流、不動産に至るまで、
雪明グループは、北海道の経済を根幹から支えるモンスター企業で、
その影響力はあまりに大きく、北海道で商売をする上で避けては通れない存在だった。

東京のスーパーでも見かける「雪明」のロゴ。
─── 厳しい冬の先に、ひとすじの光が差し込むような名前だ。
俺は嫌いじゃなかったが、
辞令を聞いて以降、雪明のロゴを見る目が、
「優しく輝くトップブランド」から、
「そびえ立つ高く険しい山」というイメージに変わっていった。
左遷か、それとも、新たなチャンスか。
だが、俺はもう決めていた。
たとえどんな状況が待ち受けていようとも、スノードロップのように ─── 逆境を跳ねのけ、花を咲かせてみせると。

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