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花火より、長かったもの

いつかの7月、同僚の女性陣10名と、花火を見に行くことになった。
小さな町の、小さな夏祭り。

「浴衣で行こうか。」

先輩が言いだした。

「いいですね!」

後輩が言った。

私も絞りの浴衣を持っていたけれど、まだ一度しか袖を通していない。

「ちょっと地味じゃない?」

反物を選ぶ時に付き合ってくれた母が言った。

「これがいいの。」

私は子供の頃から赤や黄色と縁がない。
選ぶ色は決まって藍色や緑、紫系。

仕立て上がった青紫の浴衣は、想像通りお気に入りとなった。
久しぶりに浴衣着たいなぁ。

賛成した。

週末、先輩の家に集まった。
女性が10人いれば大騒ぎ。
色とりどりの浴衣が広がっていく。

自分で着たり、先輩のお母さんとお姉さんに着せてもらったり。鏡の前は順番待ちだ。

私は着付け教室に通っていたことがあったので、お気に入りの浴衣を自分で着た。
薄いブルーの帯を少し大きめのリボン結びにして、胸まである髪を、夏祭り仕様にアップにした。

仲が良かった同僚達だけれど、浴衣姿は新鮮だ。
それぞれがお互いを褒め合ったり、ツッコミを入れたり。キャッキャと、賑やかに繰り出した。

カランコロンとアスファルトの上を、たくさんの下駄の音を響かせて歩く。
恋人同士を追い抜いたり、大声で走りながらはしゃぐ子供達に追い抜かれたり。
歩く。歩く。歩く…

何かをマイクで話している声と、盆踊りのような音楽が聞こえてくる。

足、痛くない? 痛いよね。
ちょっと限界なんだけど。

誰かが言い出す。

「指の皮が剥けたみたいで痛いー。」

ゴールは見えないけれど、近づいているはず。
もう、この辺でいいんじゃない?

元気な人は言う。

「屋台を見ないとお祭りに来た気がしないよ。」

「お好み焼き食べようと思ってた。」

屋台ってどこまで歩くの?

半数以上が、もう歩けないと言った。

さっきまでの笑顔がだんだん消えかかった頃、前触れもなく、夜空に光の花がパッと咲いた。
思ったより、ずっと大きな大きな花だった。
近くまできている。

遅れて爆音。

「わぁ!始まった!」

次々と上がる色彩の饗宴が、それぞれの顔に反射する。

わー、と言った口が開いたまま、皆見入っていた。

場所なんて、どこでもいいんだよ。
見知らぬ誰かに、この夏最初の浴衣を披露しなくても。

静かに閃光を見つめ、地鳴りのような音を肌に感じながら、誰も動かなかった。

金色の長い雫が滝のようにこぼれ落ち、大音量の轟音とエコーが続いたあと、静かになった。
夜空には白い煙が残っていた。

「すごかったね。」
「あっという間だったけど、綺麗だった!」
「歩いた時間の方が長くなかった?」
皆で笑った。

夏の風物詩。
どこの街でも見られるありふれた風景だけど、浴衣を着て大人数で集まった夜は、少し特別だった。
入社以来お世話になってきた、優しい先輩の退職が決まっている。
このメンバーで集まるのは最後の夏。

それぞれが笑顔で先輩の家に戻る。
足は痛いままだけど、光の余韻で歩いていける。

先輩の家では、たくさんの料理を用意して、ご家族が待っていてくれた。
「わぁ!すごい!」
テーブルの上にも美味しそうな花が咲いていた。
「こんなに大人数で押しかけてしまい申し訳ありません」と言いながら、ご馳走になった。

お腹もいっぱいになった頃、「記念に」とお姉さんが写真を撮ってくれた。
汗にまみれて、浴衣も化粧も髪型も崩れてしまい、最初に撮ってほしかったなぁ。誰もがそう思っていただろう。
それでもワイワイと、笑顔でパシャリ。

楽しかった夏の夜が終わった。

後日談。

「お母さんに浴衣の集合写真を見せたら、◯◯ちゃん(私)だけ、ろくろっ首みたいに首が長いねって言ってたよ。」

仲の良い同期が笑いながら言った。
彼女は自他共に認める首の短さで、私の隣に写っていた。

「おばさん、ろくろっ首って… せめて『キリン』って言ってよ〜」

二人で笑った。

『きりん日和』は、あの夏の一枚の写真から始まっていたのかもしれない。

友人のお母さんのおかげで、出来上がった方程式。
夏祭り=花火=浴衣=ろくろっ首

なんとか「キリン」に書き換えたいのだが、記憶の改ざんはそう簡単にいかない。残念だ。



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