(休載中・時間かせぎ小説)「みぎだり」4/9
(これまでのあらすじ)
人気お散歩番組を受け持つ有名俳優ニイヌマさん。通称「ニイさん」。自称「お散歩のプロ」。ところが、いつもと変わらぬ巣鴨の商店街での番組収録中、ふいに歩き方が分からなくなってしまう。
「お散歩」についての、「歩行」についての、深刻なスランプを迎えたニイさんは…。
サアよしっ、とお散歩のプロたるジブン、オノレに喝いれていっちょうはじめるか。
商店街がワイの足元からのびている。こいつが、さあどうした歩け歩けとぬかしてる。ちきしょう、人をバカにしくさって。みとれよ、みとれ。
みぎっ。ひだりっ。と足を動かす。
いやー、いきおいのあるお店でしたねー。
みぎっ。
ひだりっ。
ご主人がモウ猫みたいな顔してましたよねー。
みぎっ。
ひだりっ。
あのかた、わたしと同い年だってさー。
みぎっ。
ひだりっ。
さあ、もう少し先まで行きましょう。
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
(うん。いいぞいいぞ。そのちょうしそのちょうしい!)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
(いいねー。いいよー。最高だよー。もっともっとお。)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
あら、まーア。ニイさんじゃなアい?
そうよっ。こんちわっ。(ちくしょうめえ!)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ほらア、きょううちの主人ね、万歩計つけてるのよオ。この番組のオ。
ひだりっ。
みぎっ。
あっ、ホントだっ。ホントだねっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ええ。家内に買わされましてネ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
(こなくそっ!)じゃ、わたしとおそろいだっ。
みぎっ。
ひだりっ。
そいじゃ、仲良くお散歩たのしんでねー。
みぎっ。
ひだりっ。
(つったく!やめてくれよ。変なとこで話しかけんの。あぶねえあぶねえ。)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
(ぷんすか、ぷんすか!)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
ちょちょちょちょ、速いですよーっ!
番組スタッフのおバカさんから注文が入る。
あの、もう少しゆっくりめに歩いてくれませんか。なんかキモチせかせかしてますんで。
そうかあ?わりいわりい!なんか調子イイもんでさ。
なんてえのは、まっかなウソだ。やせがまんよ。「痩我慢の説」よ。福沢センセイじきでん。めげずに学問もアンヨもススメ、ススメい!
でもやっぱりね、どうも手こずる足こずる。化けネコ店でなまじっか意識したせいで、いやはやよけいにムツカシくなっちまった様子。
はい。じゃあ、再開しまあーす。
デレクターの合図があって、もういっぺん位置につく。
商店街がワイの足元からのびている。こいつが、さあどうした歩け歩けとぬかしてる。こんちくしょうめえ。
道のやつはずっと向こうまで、視線の限界点までつづいてる。右目と左目からぴいぴいーっと線が出て、それぞれついーっと伸びてゆき、つうつうつうーと伸びた先っぽで結ばってちょん。玉結びみたくカタク点になったとこでもまだドンヅキじゃない。この奥行き。この奥行きのスケール。遠近法のバカタレめ。ブルネレスキだかなんだかのバカタレめ。こいつぁトホウもねえ難事業だ。
(せーのー、さん、はいっ。)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
いやあー、今日は天気いいねー。
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
(ちょっとちょっと。)
みぎっ。
ひだりっ。
(あしがあしが。)
みぎっ。
ひだりっ。
みぎっ。
ひだりっ。
(ありゃりゃあ。)
みぎっ。
ひだりっ。
みぞっ?
ひだりっ。
かべっ?
ひだりっ。
あれっ?
ひだりっ。
れれっ?
ひだりっ。
ほよっ?
ひだりっ。
ぐるり。
ぴたり。
ちょっとストップ、ストップう!とデレクター。
ぐるり一周。どうやら、ニイさん前に進んだつもりが、時計回りぐるり一周しちまった。
なんで一回転するんすかあ!?急にヘンなことしないでくださいよお。
テへへ、わりいわりい!
スタッフはにがわらい、あきれわらい。ひんしゅくぎょうしゅく、コチトラきょうしゅくげんしゅく。でも近くにいる店の売り子さんや、足を止めてる散歩の衆は、げに微笑ましげに見てえる。ニイさんたら悪ノリしてるわ、お茶目ねえってな目で見てえる。
いやっ、まいどっ!とここは片手を挙げてごまかしとけい。みなの衆からわっと声援があがる。
売り子さんがお茶と漬物の切れっぱしをすすめてくれるから、これを潮にちょいと休憩しよう、テエコトになる。ふだんはあんまりテエコトにはならないから、スタッフいちどう番組の主役に起こった異変を敏に感じ取っているのやもしれぬ。
(以下、次回。残り5話で完結)
