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妄想日報 8月25日「復活」

8:47出勤。
キリさんが脈絡もない話を突如ブチ込むお茶休憩。「ねえねえ、みんな人生何周目?」
聞かれた皆がにわかには飲み込めず、オフィスに闖入してきた不審者に向けるようなうろんな目を向ける。
「だからさ、自分が人生何周目だと思う?って聞いてんの!よくあるじゃない?ナオちゃんみたいなよく気がつくヒトは人生三回は生きてるよねえ、とかサア!」
「ああ、そういうことね」と、皆が遅ればせながらおおかたの要領を得た「人生何周目」という概念。「魂年齢」などという考えかたと近しく、そのヒトのいわば世間智や他者への共感力の高さ、感受性の豊かさ等を評価するための、お手軽で便利でファンタジーなヤツ。
「じゃあさ、キリちゃんは何周目なのよ?」とそもそものお題の提案者へと質問が向く。
「わたしね!よおし、じゃあ本気でいくよ!」と、待ってましたとばかり肩ぶん回したキリさんは「わたし、ぶっちゃけ人生三周はやってると思うのよ!これでも、ほら、ヒトの気持ちとか?わりと分かっちゃうし。ねえ?」となかなかの大風呂敷をひろげてみせる。
ただ全員の考えもひととおり聞き終えると、イチオウ謙遜なんかもしちゃっちゃいるが、なんだかんだで誰もが「人生何周目」かだとは思っているんだなあという素朴な感想。かくいう自分も「一周目」だとは思いたくないし、思っていない厚かましさも実際ある。
そんななか、渋いお顔でお話に入ってこられたのは法務部嘱託の本多さん。ご自身のかつてのご学友にまつわるそのお話は
「松枝(まつがえ)って妙なのがいてね。いま思えば楽しかったなあ。アレはわたしのめくるめく青春時代。もう『豊穣の海』っテナ時代でしたネエ。
あるとき、そいつが惜しくも早逝してしまってね。死にぎわに『又、会うぜ。きっと会う』なんてウワゴトみたいに言うんだね。
でもそっから、本当に松枝の生まれ変わりみたいなやつに、人生の折に触れてひょっこり出くわすようになるんだよ!
最初は右翼の青年、それが若くして自決しちゃったあとに、こんどはタイの王女。もちろん姿形も違うよ。でももう間違いないの!ぜんいん、脇腹に三つのほくろもあるし。ぜったい松枝なんだから!」
と、なかなかどうして信じがたいお話をポケット六法を小脇にねじ込んでこられる。だが、そのお元気がまるで天人の衰えのようにたちまち弱ってゆかれると
「でもタイの王女が亡くなったあとに、またも生まれ変わりと思えるやつに出会うんだけどサ…今度の奴はどこでどう間違ったのか真っ赤なニセモン!
そればかりか、かつての松枝の恋人だった尼さんに一切合財を話したら『そもそも松枝さんなんて存じません』なんてコトまで言われちゃって。これまでの生まれ変わりのおハナシは、ぜーんぶわたしの勘違いだったみたいな具合になっちゃうんだよネエ。
だから、もうアレ以来『輪廻転生』は信じてないんだア。生まれ変わりとか『人生何周目』とか、皆さんには申し訳ないが、本当は聞くのもイヤでサア…」
と、気の毒なくらいしょんぼりされてしまう。それを見たキリさんはすかさず
「ちょっとみんなサア、『人生何周目』だなんて無邪気にはしゃいでるんじゃないヨオ!生まれ変わりなんてそもそもないかもしんないんだからサア。わたしも、まあ五分五分で疑わしいとは思ってるのよね」
と、やけに調子の良い態度をさらす。
そんな折、入れ違いでやって来られたのは経理部の篤信なるヨハネさん。こちらの話を聞き及んだのか、ニコニコしながら「皆さん、大丈夫。生き返りはありますよ!」とコチラは力強く請け合ってこられる。
「ワタシもこの目で見届けましたとおり、主イエスは死してのち『復活』を遂げられました。弟子のひとりは、その手にある釘で打たれた跡をさわり、脇腹の傷口にもたしかに手を差し入れたのです。
このように、主はたしかに二度目の生を得られたのですよ。皆さんに改めて断言します。『復活』は…あります!」
と、まるでどこかの「リケジョの星」が押すような太鼓判。それを聞き届けるが早いか、すかさず手のひら返したようなキリさんが
「それにしてもみんなサア、さっきの『人生三周目』だかってのはちょっと厚かましすぎるんじゃないの⁈ほら、キリストさんでさえ、ようやっと『二周目』がせいぜいなんだヨオ!
わたしはやっぱ『ギリ二周目』だなあ。『人生三周目』?みんな、よく言えたなあ。そーやって、自分だけは特別だと信じてぬけぬけ生きてんだもんねー」としれっと言った。
図星を刺され赤面した皆が猛抗議するなか、「あなたも『人生三周目』つったよねえ⁈」と詰め寄られた裏切り者のキリさんが
「知らない知らない知らない」
と、鶏が鳴く前にゆうに三回は知らんぷりを決め込んでいた。

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