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妄想日報 8月6日「八月の光」

8:48出勤。
少し離れた法務部のあたりが、やたらバタバタしているのを尻目にいただくお茶休憩。どうやら失せ物の書類の捜索らしいが、こちらの皆はいとも呑気にユミさんのご友人の恋愛バナシに耳を傾ける。
なにしろこのかた、つねづねご自身が「オトコ運」に乏しいことをお嘆きになるという女性らしく。
「彼女は、学生時代のカレが浮気症だったのね。それで、やっぱり一途な人がイイと思って次に付き合ったのがすっごい束縛男!ほぼ彼の家に軟禁状態にされて、暴力も受けて、最後はソコから逃げ出したの。
だから、次こそは執着の少ない人をと思って出会ったのがこんどはナント妻子持ち!おかげで不倫状態がしばらく続いちゃって、やっと諦めがついたと思ったらお次の交際相手は金にだらしがない男!別れたイマも、貸した200万円が戻ってこない。
でもって、マタべつの妻子持ちの男とくっつき交際開始。To be continued… ってわけ」
聞いていた皆が、後味悪いミニシアター系の映画を一本観おえたような、もし自分が全米ならすっかり泣き出しそうな顔をする。そのしょんぼりするエンドロールの流れるなかで
「『オトコ運』って、何なんだろうね?」とユミさん「その子、ほんとにいっつもそういう、気のどくー、かわいそおー、って話をして、なんかもう自分で自分のことを『オトコ運』ないって、決めちゃってるような気もするんだよねー」
これには皆も「そういうこともあるかもしれませんよね」「自分で招いちゃうってやつだよね」としばし意見交換。そこから
「それって『自分は不幸だ』って考えてる人も一緒かあ」
「うん。モノの見方の問題ですもんね」
「でも、わたしも『大事な日は雨ばっかり!』とかたまに思っちゃうもんなあ」
といったモノゴトの認識の仕方の話になる。
「うわちゃあー。それはだめダヨー」とそこで平らかに明るく、言葉を挟んできたのは法務部のリーナさん。
つい今しがた「法務部全体、オオワラワだったはずなんじゃ?」と問われても「でも人間って、ほんとにあちこち行けるものだからあ」なんて言いつつやたらと涼しげ。あんな騒動のなか、いつから話を聞いていたのかすんなり話に入ってくる。
「『オトコ運』がないなんて思っちゃダメだなあ。でもわたしは、ソノお友達には悪いけど、幸いにも『オトコ運』とか、対人運というものにだけは恵まれてるのよね!
だから、行く先々で優しくされて、あんまりヒドイ目に合ったこともなくって。ほんっと世の中みんなイイ人!もちろん、コチラの皆さん含めてヨ!」
と、やたらと天真爛漫。自己肯定オバケぶり、人生コトホギ怪人ぶりをいかんなく発揮する。そんなリーナさんのまるでイタリック体のようにおのずと傾いてつづく一人語り。
「思い出すなあ。わたしは、初産をミシシッピー州のほうのヨクナパトーファってとこで迎えたのね。なんでかって言うと、お腹の子のお父さんが蒸発しちゃったの。ヨオシ!ってんで、真夏の炎暑のなか、身重のままアラバマからそこまで探しに出かけたのヨー」
「え?お腹の子の?」「お父さんが、蒸発⁈」と、思っていたのと大いに異なる「オトコ運」の姿を前にして、皆が困惑する。その困惑をよそにして彼女のほうは
「そおしたら、なんと!カレったら、しれーっと別の名前を名乗っちゃって密造酒の売りさばきをしてたのね。それに、カレにはクリスマスっていうおっかしな名前の相棒がいたんだけど、その人が同棲してた女の人の頭がもげるほど喉笛を掻っ切って、おまけに家に火をつけて逃亡したの。
指名手配犯の懸賞金がもらえるって知ったカレは、コロッとそのクリスマスを密告。あげくクリスマスは町の住民にとっ捕まってリンチされて殺されちゃうわけ。その間に、カレのほうはとっとと町をトンズラなんだよ。ほおんとチャッカリしてるでしょー。
そこでわたしは手早く出産を済ませると、赤ん坊も連れてまたカレを追いかけたの。それ以来ずっと転々。最近は錦糸町あたりでホストやってるって突き止めて。写真は修正入ってるけど『葉月光』とかって源氏名のやつがめちゃアヤシイ。こうして、イマもなお追いかけっこの真っ最中ってわけ!」
ソノあまりの「オトコ運」の険しい内容に、皆が度肝を抜かれ、ドあたまカチ割られたような気分になる。そんななか、やって来たのは目を釣り上げて小鼻ふんふん鳴らした法務部の男性。
「ちょっと、リーナさんさあ。まだ書類の捜索終わってないよ!ずっとアッチャコッチャで油売って、自分で蒔いた種なのにサボってんじゃないかよオ!」
それを聞いたリーナさんは「ひええ〜っ!ごめんなさあ〜い」と言うと、ろくすぽ反省もない、おはじきみたいな目玉で去っていった。
「あれじゃ、書類も、子供のお父さんも見つかんないね…」
ソウ話したみんなが「ヒトの幸不幸ってモノの見方次第なのかもなあ」と思い知り、たとえ出がけに大雨に降られて靴の中まで泥だらけになったとしても、なあんも感じず、他人の家のホームパーティーにそのまま上がりこめそうなその厚かましい勇姿をちょびっとだけ羨んだ。

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