妄想日報 8月5日「コントレックス」
8:46出勤。
皆でとる昼食時、一番に食事を終えたキリさんが周りの喫飯のなりゆきを覗き込んでいる。「なに?なに?なに⁈」「ちょっと、キリちゃんやめてよおー!」と抗議するユミさん、ナオさん。
どうやら、キリさんは「お食事どきには失礼になる話」を早く始めたいらしく、皆の食事の済むのを待ってソワソワしている模様。呆れた皆が仕方なくそのクダンの話をうながすと
「…いいの?じゃ言うよ!ウチの旦那さあ、もー、すぐウンチ漏らすワケ。昨日も、月曜から漏らして帰ってきたんだよ!月曜から!あれ、男の人ってどうしてあんなことになるわけ⁈多いよね?ウンチ漏らし!月曜から!」
食事中の皆が「こらこら!」「いいとは言ったけどさすがに!」「曜日カンケーねーし」とソノ漏れやすいお口を閉じさせる。
だが、ナオさんによると、女性に比べて男性は、油分の多い食生活の嗜好や、ストレスからの交感神経の優位、筋肉量の多さによる腸の蠕動の激しさ、その他もろもろの要因によって「もともとお腹も弱いし、お漏らしもしやすいらしいんだよね」とのご解説。
「そっかあー。男女でそおいう違いがあるのかあ。反対に、女性は女性で便秘症の人が多いものね。うふ。かくいう、わたくしもそうですし」
と、まるで教育番組の大根ナビゲーターのような素直な受け答えをするキリさん。そんな空間に、さながら美人アシスタントといった趣きでなめらかフレームインしてきたのは秘書課のコントレックスさんで
「たしかに。女性はみなさん、便秘のかた多いですものね。さて、このワタシ、実は何を隠そうフランス出身の『硬水』なんです。
…え?うっそ?やだ、皆さま知らない⁈
だって硬度のほうだって、かるーく1400くらいはあるのかなあ?ちょおっと、やだもう!ワタシ世界のトップモデルさん御用達だぞ!」
とコンコンと湧き出すように、一人でやたらとぺらぺらお喋りをなさる。
「硬度って、1リットル中に含まれるカルシウムとマグネシウムの量による値なのよね。皆さまよくご存知の『南アルプスの』かたとか『六甲のおいしい』かたとか?ゆーても硬度で言ったら、まあ30かそこいらあたりじゃないのかなあ?
でもワタシみたいに硬度1400もあるとサ、それはもうお通じもよくなるし、骨粗鬆症の予防に新陳代謝の促進効果もあるワケね!コレ、ほんといいことだらけなのダ!
皆さまもひょっとすると、ワタシのお通じ効果で、たちまち催されたりなんかしたりもするかもしれないゾー!」
「…あはは。そっかそっか。そうかもしれない!」と、これにひとまず大人のたしなみで相応のお愛想を重ねる一同。だが一人キリさんだけは、そう簡単に大人しくしていられる性分ではないもので
「あ、そうなの?でも、わたしは『エヴィアン』とか『ペリエ』とか。やっぱりそういうフランスの『硬水』をつねづね愛飲してるので。ソコントコ間に合ってんのよねー」
とアカラサマに対抗する。
これに顔色は変えずとも、自身のスマホを構えて応戦する勝気な彼女
「らららー。『エヴィアン』『ペリエ』かあ。でもあのかたたちねえ、たしか硬度400もない!ナイナイ!ナイよ!え?ちょっといちおう調べてみるね。いちおういちおう『硬水』『硬水』ぽちっとな。…ほら!やっぱりだあ。
ここ見て!それこそ『サンペレグリノ』でさえ700ないでしょお?え?うそぉ!『シャテルドン』で1200!『シャテルドン』で1200だよ!見て!ワタシの1400って…。
モウあいたたたー!これはワタシがおかしいのかも知れぬワネ。あいたたたー!そっかそっかあ。ワタシのサービス精神、もうアキラカ異常ってわけ。あいたたたー!」
一矢報えず、ギリギリと歯噛みが聞こえてきそうなキリさんの様子。それを横目に、なんとしたことか
「あれ?ボク、なんかホントに催しましたあ!スゲー。あはは」というテルさんを皮切りに、皆が「えへ。ソンナわけで失礼しまーす」と次から次へ化粧室へと消えてゆく。かくいう自分もまた然り。
ウソかマコトか抜群のソノお通じ効果。
「そうお?わたしはぜんぜん」と、無理にすっとぼけたようなキリさんだけが頑として自席から一歩も動かず。昼休憩明け、皆が化粧室から戻ってきたあとも「そうお?わたしはべつに」と、いつもよりやや青白い顔してスンと澄まして座りつづける。
普段よりうんと言葉少なになったキリさんのソノお腹だけが、近くへ寄るたび、威勢よろしくぐるぐるぐるぐる言っていた。
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