【無料】一度も会ったことのない人から、突然「相続人です」と連絡が来た話
これは特定のケースではなく、相続実務でよくある状況をもとに構成したフィクションの場面だ。
ただ、こういう話は現実に何度も経験している。
廃線になった路線の、見知らぬ終着駅
子どものいない夫婦。夫が先に亡くなった。
奥様から相談を受けたとき、最初に確認したのは「ご兄弟はいらっしゃいますか」だった。
「主人の兄は、数年前に亡くなっています」
その一言で、私は頭の中で路線図を描き始めた。
鉄道が好きな私は、相続をよく路線に例える。
夫婦2人で歩んできた人生は、長年乗り続けてきた路線だ。
子どもはいない。兄弟もすでに他界している。
ところが相続が始まると、乗ったことのない路線が突然現れる。
「この先に、まだ駅があります」
それが代襲相続だ。
なぜ「会ったことのない人」が相続人になるのか
法律上、相続人の順番はこうなっている。
第1順位:子(いなければ孫・ひ孫)
第2順位:父母・祖父母
第3順位:兄弟姉妹(いなければ甥・姪)
子どもがいない夫婦の場合、配偶者は常に相続人になる。
そして残りの相続分は、第2順位・第3順位へと流れていく。
今回のケースは、夫の両親も兄弟もすでに亡くなっていた。
すると兄弟の子ども、つまり甥や姪が代わりに相続人として登場する。
これを代襲相続という。
「甥が2人いるみたいで……でも、ほとんど会ったことがないんです」
奥様の声が、少し沈んだ。
一度も降りたことのない駅のホームへ
代襲相続人が登場すると、手続きは一気に複雑になる。
まず戸籍収集だ。
亡くなった夫の出生から死亡までの戸籍。
亡くなった兄の出生から死亡までの戸籍。
そしてその子どもたち(甥)の現在の戸籍——。
乗り換えを何度も繰り返す長旅だ。
馴染みのない駅名が次々と出てくる。
戸籍を集め終えたら、今度は疎遠な甥たちに連絡を取らなければならない。
「突然のご連絡で大変恐縮なのですが、叔父様の相続手続きにご協力いただきたく……」
相手にとっても寝耳に水だ。
「え、私が相続人なんですか」と驚く方も少なくない。
場合によっては警戒される。
「詐欺じゃないですか」と言われたこともある。
全員から遺産分割協議書に署名・捺印をもらうまで、登記は完了しない。
奥様一人では、とても対応できない手続きだった。
2025年、出生数67万人の意味
厚生労働省の発表によると、2025年の国内出生数は約67万人。
合計特殊出生率は1.14と過去最低を更新した。
子どもを持たない夫婦、一人っ子世帯は今後さらに増えていく。
つまり、「知らない人が相続人」になるケースは、これから確実に増える。
今は他人事に見えても、あなたの相続でも、あなたが誰かの相続人になる場面でも、十分起きうる話だ。
遺言書という「行き先表示器」
こうした事態を防ぐ方法がある。
遺言書だ。
列車の前面には、行き先表示器がついている。「渋谷」「新宿」「回送」——乗客はその表示を見て、乗るかどうかを判断する。
遺言書は、人生最後の行き先表示器だ。
「全財産を妻へ」と書いておけば、残された家族は迷わない。
疎遠な甥への連絡も、複雑な戸籍収集も、原則として不要になる。
表示器に何も表示されていない列車は、どこへ向かうかわからない。
乗客も、駅員も、困惑するだけだ。
遺言書のない相続も、それに似ている。
行き先は、自分で表示しておく。
それだけで、残された家族の旅は、ずいぶん楽になる。
子どもがいない夫婦こそ、早めに書いておいてほしい一枚だ。
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