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SS【あたたかい】#シロクマ文芸部『花びらを』

小牧幸助さんの企画「花びらを」に参加させていただきます☆

お題 「花びらを」から始まる物語

【あたたかい】(1234文字)


花びらを頭に乗せたままでいたら友だちになってあげる。
ユウコちゃんはそう言うと、私の頭に花びらを一枚乗せてサッサと行ってしまった。
戻って来てくれるんだろうか……。
地べたに座ったまま動けないわたしの体はどんどん冷えていった。
わたしの頭に乗せられた花びらが、そのままあるのかどうかもわからない。
でもこのままでいるしかない。
ユウコちゃんと友だちにならなきゃいけないから。
どうして?
引っ越してきたばかりで友だちがいないから。
おかあさんは隣家のユウコちゃんと友だちになりなさい、と言う。
だから、このままでいるしかない。


日が傾くにつれ、どんどん風が強くなって桜の花びらがザァッと散る。
ユウコちゃんはまだ戻ってこない。
わたしは自分のあたまに手を伸ばした。
花びらがたくさん乗っている。
でもユウコちゃんが乗せた花びらかどうかわからない。
わたしは途方に暮れる。


その時、おかあさんの声がした。
カナコ、カナコー!
おかあさんがわたしを見つけて走り寄ってくる。
わたしは足がしびれて立ち上がれない。
こんな所でなにをしてるの?心配するじゃないの……。
わたしはおかあさんの顔をじっと見て言う。
おかあさんが……友だちになりなさいって言うから。
わけのわからないことを……。
おかあさんは苛立たし気に私の腕を取って立たせる。
家に帰ると、隣の家からユウコちゃんの笑い声がした。
テレビを見て笑ってるんだ。
来るつもりはなかったんだな。


「……ってことが、子どもの頃にあったの」
リョウヘイは私に腕枕しながら、しかめ面して聞いている。
「なんだよ、それ。ひどい奴だな」
「私もバカよね。言われたとーりそこにいたんだもん」
「そのあと、そいつとはどうなったんだ?」
「うーん、結局なかよくならないまま、小学生になったら別の子と友だちになれた。ふつうの、いい子たち」
「よかったな」
「うん」
リョウヘイは私をギュッとすると、頭をヨシヨシとなでた。
あの日、花びらを乗せられたのとおなじ、私の頭。


花びら事件(?)の翌日以降も、ユウコちゃんは知らん顔していた。
私はまだその頃「うらむ」とか「きらい」という感情を知らなかったから、ユウコちゃんの態度を不思議に感じていただけだった。
たくさんの金魚が泳いでいる水槽のなかに放り込まれた小さなメダカみたいな気分で、卒園までの数か月を過ごした。
そして小学生になったメダカは、周りの金魚たちのふるまいを見て少しずつ学びながら成長した。
そしてたくさんの感情もわかるようになった。


「ユウコちゃんなんてキライ、いやな子」
でも、はじめて声に出してそう言った時、私は体が冷たくなるのを感じた。
あの日、花びらの中で冷え切った時みたいに。


リョウヘイの腕と手の平の温かさが私に伝わってくる。
ユウコちゃんも誰かにそうしてもらっているだろうか。
私はそうだといいな、と思った。
あの時のユウコちゃんの体は、きっと私よりずっと冷たかったろう……。


リョウヘイが低い声で言う。
「カナコはあったかいな」
うん、あたたかいほうがいい。いいよね。



おわり



© 2026/3/21  ikue.m



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