見出し画像

SS【微笑み】#シロクマ文芸部

小牧幸助さんの企画「十二月」に参加させていただきます☆

お題「十二月」から始まる物語

【微笑み】(660文字)


十二月の係に任命されたので、それはなにをする係なんですか?と神さまにたずねたら、なにもしない係だよと言われた。
「なにも?」
「そうだよ」
ぼくはニンゲンを卒業したばかりで、十二月がはじめての係なのに。
「ほんとになにも?」
神さまはふわふわと微笑んでおっしゃった。
「ニンゲンの十二月は、とくに忙しいだろう?みんなやり過ぎだから、な」
神さまは続けた。
「おまえは『なにもしない』をしておいで。それが仕事だ」
ぼくは言われたとおり、『なにもしない』をすることにした。


久しぶりにニンゲンの世界に降りてみると、やっぱりみんな忙しそうだった。
けれどぼくは十二月の係をまっとうするべく、なにもしないでいた。
ぼくの姿はみんなからは見えない。
でも、ぼくがしばらく近くにいると、忙しそうにしていた人は、ふと立ち止まって不思議そうにつぶやく。
「なんだって、私はこんなに忙しいんだ?」
そして、コーヒーを飲んだり、公園のベンチに座ったり、空を見上げたりした。
それからまた動き始めるけれど、その動きは前よりもゆったりしていて、口元には楽しそうな微笑みが浮かんでいる。
ぼくは、みんながそうなるのが面白くて、大晦日の日までたくさんの人々の近くで『なにもしない』をやり続け、天国に戻った。


「十二月の係はどうだった?」
と神さまはたずねた。
「とても楽しかったです。『なにもしない』ってすてきですね」
「人々にも伝わっていたかね?」
「みんな笑っていました」


そしてそれは、まるで神さまの笑顔みたいでした、と言ったら、神さまはにっこりと微笑んで、それはよかったとおっしゃった。



おわり



© 2025/11/30  ikue.m

いいなと思ったら応援しよう!

ikue.m おもしろい!と思っていただける記事があれば、サポートはありがたく受け取らせていただきます。創作活動のための心の糧とさせていただきます☆