ステンレスに磁石がつく・つかない、その違いは「結晶構造」にあった
「ステンレスに磁石はつかない」と思っていたら、キッチンの鍋底には磁石がくっついた——そんな経験のある方も多いのではないでしょうか。実はステンレス鋼はひとくくりではなく、種類によって磁石への反応が正反対になります。
■ 磁性は「結晶構造」が決める
ステンレス鋼に磁石がつくかどうかは、鉄原子の並び方(結晶構造)によって決まります。
BCC(体心立方格子):原子が立方体の中心にも配置される構造。電子スピンが整列しやすく強磁性を示す。→ 磁石がつく
FCC(面心立方格子):原子が立方体の各面の中心にも配置される構造。電子スピンが整列しにくく常磁性を示す。→ 磁石がつかない
■ SUS304 と SUS430 の違い
【SUS304(オーステナイト系)】
・結晶構造:FCC
・Cr 約 18%、Ni 約 8〜10% を含む
・Ni が FCC 構造(オーステナイト)を常温で安定させる
・磁石がつかない(非磁性)
・耐食性が高く、溶接性も優秀
・厨房機器・食品装置・配管に広く使用
【SUS430(フェライト系)】
・結晶構造:BCC
・Cr 約 16〜18% を含むが、Ni をほぼ含まない
・BCC のまま(フェライト組織)なので磁性あり
・磁石がつく(強磁性)
・耐食性はやや低いが安価
・IH 調理器具・家電・自動車排気系・建材に使用
■ SUS304 に磁石がつくことがある?
はい、あります。SUS304 は本来非磁性ですが、プレス加工・曲げ・引抜きなどの冷間加工を受けると、FCC のオーステナイトの一部が BCC のマルテンサイトに変態し(加工誘起マルテンサイト変態)、局所的に磁石がつくようになります。
加工度が大きいほど変態量が増え、磁性も強くなります。MRI など強磁場を使う環境では、加工後の磁性発現に注意が必要です。
■ ステンレス5系統の磁性まとめ
オーステナイト系(SUS304, SUS316):磁石がつかない
フェライト系(SUS430, SUS409):磁石がつく
マルテンサイト系(SUS410, SUS420J2):磁石がつく
析出硬化系(SUS630):弱い磁性あり
二相系(SUS329J3L):やや磁性あり
■ IH 調理器具の底がステンレスなのになぜ使える?
IH は磁場の変化で磁性体を誘導加熱する仕組みのため、非磁性の SUS304 では加熱できません。IH 対応鍋の底面には SUS430 などの磁性ステンレスが使われています。
結晶構造の図解・加工誘起マルテンサイト変態の概念図・グレード別比較表・JIS/ASTM/EN 規格対応は、ブログ「たすいち」に詳しくまとめています。
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