長年通うファンをつかむ武器とは/『八方味處 串の坊』の「オリジナル串カツ」【名店の看板メニュー】
近代食堂の創刊50周年(2019年2月)を記念して企画された「50年売れ続ける名店の看板メニュー」特集の再録です。
飲食店において栄枯盛衰は常なれど、50年を超えて売れ続けるメニューは、やはり何かが違うはず。
お客さんが移り変わり、お店が代がわりしても売れ続ける理由は何なのか。味づくりの探求・細部にこだわった差別化・店主の看板料理に対する姿勢など、「本当に強いメニュー」を作る上で欠かせない、普遍の法則を学ぶことがここではできるでしょう。
※本記事の掲載写真や情報は近代食堂2019年2月号のものです。
「また食べたい」と、
お客の想像力をかきたてる創作串かつ
八方味處 串の坊 東京・六本木
創作性の高いオリジナルの串かつで、大阪の串かつ文化を関東でヒットさせた『串の坊』。1950年、大阪・法善寺で創業し、現在は、関西18店舗、関東13店舗を展開する。同店の串かつは、ソースにどぶ浸けして食べる大衆的な串かつとは一線を画す、高級路線の創作串かつ。

M字型が特徴的な看板串「芝海老紫蘇巻」をはじめ、季節の素材を使い、「ネリヤ」と呼ばれる特製の衣とパン粉をつけて揚げる串かつは、軽やかでいくらでも食べられそうな味わい。さながら江戸前すしのように、1本1本に見えない仕事が施され、それぞれが完成された料理として成立している。

パレットのようなソース皿にのるのは、創業時の味を受け継ぐ「串の坊ソース」をはじめ、「自家製ポン酢」、「胡麻芥子ソース」、「白胡麻岩塩」、「和芥子」など種類豊富な調味料。一度の来店では味わいきれないさまざまな食べ方の提案も、長年通うファンをつかむ武器となっている。
東京進出で、大ブレイク
大阪の代表的な食文化のひとつである串かつは、屋台から発展したと言われる。元来は庶民の食べ物であったが、『五味八珍』という店の登場をきっかけに、創作性の高い串かつが生まれ、料理としての成熟度を高めてきた。
大阪・法善寺に本店を構える『串の坊』も、その流れを汲む。『五味八珍』の後輩の店『知留久』(大阪・曽根崎など)で修業した創業者が、1950年、法善寺に6坪の『串の坊』を構えたのがはじまりだ。その後、1960年に東京進出を果たす。
現在は、関西18店舗、関東13店舗を展開する。東京での出店は、銀座店を皮切りに、新宿追分に出店し、3号店の新宿伊勢丹会館店で大ブレイク。続く赤坂東急プラザ店もヒットを飛ばし、当時は店前に長蛇の列ができるほどだったという。
串かつの約半数が創業時からのメニュー
串かつは、お客がストップというまで提供する「おまかせ」と、本数が決まったコースを用意しており、1人が食べる本数は平均17本ほど。常時約40種類を揃える串かつのうち、創業時から変わらない串かつが約半数を占める。おまかせコースで必ず最初に提供される看板串の「芝海老紫蘇巻」をはじめ、ほぐしたカニの身をキスで巻き、アルミで包んだ「蟹の鱚巻」、カレー風味の挽き肉を穴に詰めた「蓮根」など、いずれも現代でも新鮮味のあるものばかり。これらが、68年前に、すでに誕生していたことに驚かされる。


ちなみに揚げ油は、20年ほど前、オランダ産から国産へと変えている。「最初は物足りないと感じたのですが、時代とともに油っこくない味が好まれるようになってきたので、結果的には正解でした」と語るのは、三代目で代表取締役の乾 晴彦氏。乾氏は修業先の米国より帰国後間もなく、僅か三カ月間だけ大阪のふぐ料理店で見習いし、22歳の若さで東京・六本木に天然ふぐ料理専門店『浜藤』を開業。現在は10~ 3月のふぐのシーズンは『浜藤』で腕をふるいつつ、『串の坊』の社長業もこなす。
“未完成の料理”がリピーターを生む
これら定番の串かつに加え、時代とともに新しい串かつや、串かつにつける新しいソースも誕生してきた。2018年9月に新装開店した六本木ヒルズ店では、子持ち昆布に生ウニをのせた串や、半熟のうずら卵にキャビアをのせた「2億4千万の瞳」など、乾氏が考案する意欲的な創作串も提供。増えるインバウンド向けに、グルテンフリーの串かつも開発した。
「スタッフにも徹底して伝えているのは、『ひとつの料理を完成させるな』ということ。お客様の想像が入り込む余地を持たせ、次回への期待をもってもらうことが、リピートにつながると考えています」と乾氏。
例えば、同店にはソースがいくつもあるが、スタッフからは「この串にこれをつけてください」といったおすすめは一切しない。お客が自由に食べるなかで新たな発見や驚きがあり、それが感動につながると考えるからだ。「次はあの串にあのソースをつけて食べてみたいな、という想像が、次の来店動機を生むのです」。
1年の半分を海外で過ごすという乾氏は、旅先で出合った食材や料理をヒントに新商品を考えることが多いという。「創業以来続く味を大事にしながら、新しい素材やサービス、デザインを時代に合わせて取り入れ、次の時代に向けてさらなる成長を遂げていきたいです」と乾氏は語る。

串の坊 六本木ヒルズ店
東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ ウェストウォーク 5F
※情報は「近代食堂2019年2月号」に掲載されたものです。
