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全地球的財産「マザー・グース」の世界。そして、世界に誇る日本のマザー・グース

おもしろくってくそまじめ、
ナンセンスまた奇怪千万、ユーモア、ペーソス、どたばたにやり……。
あらゆるおかしさがひしめきあうへんてこりんな世界。
いまや全地球的財産になった「マザー・グース」の軽妙絶妙の訳に、たのしい挿絵がついた。

――上記紹介文は、私が学生時代に愛読していた、
講談社文庫版『マザー・グース』 (全4巻)からの引用です。
(谷川俊太郎・訳/和田誠・絵)


私も、日本のマザー・グース・ファンの多くがそうであるように、
谷川俊太郎氏の名訳でマザー・グースに目覚めた人なので、
この、和田誠氏のトボけた挿し絵がついた講談社文庫版には、
とても愛着があります。


日本のマザー・グースと私

マザー・グースについては、英語の教科書や海外ミステリの中に出てくることもあり、なんとなくは知っていたものの、それほどくわしくはなかったし、くわしく知ろうともしていませんでした。

大学生になって、前述の谷川訳『マザー・グース』に出会い、「どこかで聞いたことがある詩」が多いことに驚きました。

それだけでなく、間違いなく知らなかった詩でも、読んでいるうちに、どこかで聞いたことがあるような気がしてくることにも驚きました。

――これが「知らないのに、どこか懐かしい」ってやつか!?

ちょうど同じ頃、合唱をたしなんでいた私は、
谷川氏の訳に、青島広志氏がオリジナルのメロディーをつけた合唱版『マザー・グースのうた』を歌い、寸劇までやりました。

「バビロンまでは何マイル?」とか「ソロモン・グランディ」とか
「ゴータム村のおりこうさんにん」とか……

タイトルだけ並べてもインパクトが伝わらずもどかしいですが、
中には、白昼堂々、
「おかあさまが、わたしを、こ・ろ・し・た!」
なんて歌があったりして……。

それで、この「わたし」は、
歌が始まって早々、おとうさまに食べられてしまったりして……
(しかも、食べられている「わたし」が歌い手)

――そうです、ムチャクチャです(笑)。
ムチャクチャなんですが、マザー・グースだと、なぜか、
不思議と、許せてしまうんですね。


その後、趣味が高じて、関連する絵本をバシバシ読むようになってから、堀内誠一氏がイラストを描いた「草思社版」の存在を知りました。

草思社版『マザー・グースのうた』(全5巻)
(谷川 俊太郎・訳/堀内誠一・絵)

「ただの児童書じゃありません。一生ものの詩画集です。
マザー・グースはなんどでもあたらしく、いつまでもなつかしい。
第一集が出てから40余年、マザー・グースは語り続け歌い続ける。」

草思社版に寄せた、谷川俊太郎氏の言葉です。

いつも温かい堀内氏の絵ですが、本書も、
雰囲気がマザー・グースの世界にピッタリ合っていて、
なおかつ、すっごくオシャレ!

プレゼントとしても、誰にでも喜ばれるんじゃないでしょうか?


さて、日本語のマザー・グースだと、大詩人、北原白秋氏の歴史的な翻訳による『まざあ・ぐうす』に触れないわけにはいきません。

北原訳は青空文庫でも読めますが、こちらの、
「英和対訳 北原白秋 まざあ・ぐうす / マザーグース」は、
北原訳と英語の原詩を対照させながら読むことのできてお得です。

※「Kindle Unlimited」の対象です。

こちらの北原訳には、スズキコージ氏による、
かなりブッ飛んだ挿絵(褒め言葉)の絵本があります。

独特の世界観が全開で、
先にご紹介した和田画、堀内画に比肩しうる作品だと思います。

まー、夢に一番出てきそうなのはこれです(笑)。


マザー・グースの魅力

さて、マザー・グースの魅力については、
すでに語り尽くされた感があります。

私自身、たくさんの翻訳や解説本を読んで勉強してきました。

ここでは、『マザーグースのたからもの』という絵本で、訳者である百々佑利子さんが執筆された前書きがあまりにも素晴らしいので、
少し長くなりますが、その最初と最後の部分を引用させていただきます。

「マザー・グース」の魅力

「マザー・グース」(Mother Goose)は、イギリスのわらべうた
「ナーサリー・ライム」(Nursery Rhymes)の別名です。

ナーサリー・ライムは、nursery(こども部屋)で歌われる、
あるいはそらんじられるrhymes(押韻詩)という意味です。

押韻詩は12世紀頃から創作されるようになりましたから、
いかに長い年月歌いつがれてきたか、おわかりでしょう。

ほとんどのうたが作者不詳であり、歌いつぐ形態は「口頭伝承」、
つまり口伝えです。

英語を母国語とするひとりひとりが、所有者であり伝承者であります。

百々佑利子「マザーグースのたからもの」前書き

マザー・グースに接することは、外界に不可思議さが満ちみちていた、
あのこども時代に戻ること
だと思います。

幼児の歩幅の狭さ、目の位置と地面との近さ、速い鼓動など、
幾分急ぎぎみで軽やかなこどものリズムが生命なのですから。

こども部屋で、街角で歌われ語られながら生き続けたマザー・グースは、
伝承というトンネルのなかでみがきをかけられ洗練されてきました。

どんな大詩人の作品よりも大勢の人びとの耳とくちびるを楽しませてきた
これらのわらべうたは、英語と英語圏文化を理解するのにふさわしく、
また日本文化の土壌に育った私たちが異文化経験を通じて
自我を見つめ直す、魅力ある機会をも与えてくれるでしょう。

百々佑利子「マザーグースのたからもの」前書き

私が特に「すンばらしい!」と、思わず声に出して言ってしまうほど感動した部分については、勝手に太文字にさせていただきました。

そうなのです!

ストーリーやキャラクターの魅力も、もちろん大きいのですが、
それ以上に、やはり、マザー・グースは、英語圏文化の基本ソフト
(コンピュータでいうところの「OS」)のひとつ
であるというのが最大の特徴なんですね。

そのあたりについて、もう少しくわしく書かせていただきます。

マザー・グースには、英語の3大要素である「韻」「リズム」「繰り返し」が入っています。

英語の学習に、マザー・グースが最適、と言われるのはそのためですが、
そんな表面的なことだけではなく、英語の思想というか英語的発想というか、そういう、もっと本質的なところまで詰まっているのではないかと思うのです。

たとえば、英語に、「without rhyme or reason」という表現があります。

日本語に訳すと、「わけがわからない」というような意味なのですが、
このように、韻(rhyme)も理屈(reason)もない状態が「わけがわからない」のだとすると、
たとえきちんとした意味はとれなくても、少なくとも韻(rhyme)を踏んでさえいれば、
英語圏の人にとっては、「理解できること」なんです!

(マザー・グースには、意味はまったくなく、韻だけを踏んだような「ナンセンス・ソング」がたくさんありますよね)

この表現ひとつとっても、私なんぞは、
「マザー・グースを聞きまくり歌いまくって育った人たちの発想は、げに恐ろしきものなり……」
と震えてしまうのです。

こういう、英語圏の人の発想まで理解するには、表面的に英語を勉強するだけではダメで、「マザー・グースを聴きまくり歌いまくる」しかないのです!
――というのは言い過ぎでしょうか?
(あ、言い過ぎならすみません(笑)。)

さらに言うならば、マザー・グースは、聖書、ギリシア神話、シェイクスピアとともに、英語・英語圏文化の基本、というだけでなく、「ヨーロッパ文化」の基本ソフトです。

その根っこの深さは、絵本・児童文学をはじめ、西洋の文学・音楽・絵画・映画などのいたるところに、
聖書やギリシア神話、シェイクスピア、マザー・グースの影響が見え隠れすることからもわかると思います。

ヨーロッパなど西洋文化圏に旅行する前には、簡単な本でよいので、聖書やギリシア神話、シェイクスピア、マザー・グースの解説書を読んでから行くことをおすすめします。

美術館めぐりや町歩きが、10倍楽しくなることウケアイです。


世界に誇る日本のマザー・グース

さて、ここまで、マザー・グースの魅力について、日本の翻訳版マザー・グースの紹介を通じてお話してきましたが、
ここで、これぞ「世界に誇る日本のマザー・グース」という作品を紹介させてください。

このnoteの冒頭で紹介した谷川版『マザー・グース』でとぼけた挿絵を描いていた和田誠氏自身による、渾身の、
――魂の翻訳です。

・『オフ・オフ・マザー・グース』(筑摩書房/1989年)
・『またまた・マザー・グース』(筑摩書房/1995年)

上記2冊を一冊にまとめた、ちくま文庫版もあります。

・『オフ・オフ・マザー・グース』(筑摩書房/2006年)

ちなみに、「オフ・オフ・マザー・グース」というタイトルは
「オフ・オフ・ブロードウェー」をもじって付けたものです。

オフ・オフ・ブロードウェー(Off-Off Broadway)
1960年代,商業主義的なブロードウェー演劇,それに追随するオフ・ブロードウェー演劇に対抗して,実験的な演劇革新を実践したアメリカの演劇運動の総称。 

「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」より

この、和田訳の最大の特徴は、
とにかく、「韻」にこだわっていること。

英語の原文が韻を踏んでいるのは当然ですが、日本語の翻訳でも、できる限りそれを表現しようと奮闘しているんですね。

和田誠氏が、文章も書ける方だというのは重々承知していたのですが、
ここまで、ガチで日本語での押韻にこだわった訳を手掛けるとは想像を超えていました。

ある意味、本職の北原白秋氏、谷川俊太郎氏を超えているともいえる偉業だと思います。

そして、今回の目玉はこちら!

先ほどの、和田誠氏が翻訳した『オフ・オフ・マザー・グース』に、
作曲家の櫻井順氏がオリジナルの曲をつけた、
CD版『オフ・オフ・マザー・グース』(東芝EMI/1995年)です。

このCDのすごいところは、歌詞や曲がいいのは、まぁ当然として、
参加しているメンバー!
これがスゴい!!

以下に、参加者を列挙しますと……

佐藤しのぶ・おおたか静琉・桐朋音楽教室・岸田今日子・吉田日出子・柳葉敏郎・白石冬美・森山良子・甲斐よしひろ・的場愛美・平野レミ・高泉淳子・坂本冬美・中山千夏・小坂一也・時任三郎・斎藤晴彦・イッセー尾形・清水ミチコ・笈田敏夫・天地総子・田中朗・小室等・石嶺総子・藤本房子・木村充揮・中島啓江・岩崎宏美・黒柳徹子・島田歌穂・近田春夫・大貫妙子・小松政夫・岡村喬生・鳳蘭・谷啓・井上陽水・スリーグレイセス・タイムファイブ・知久寿焼(たま)・大竹しのぶ・ジミー時田・野坂昭如・C.W.ニコル・辛島美登里、露木茂・忌野清志郎・こうのおさむ・雪村いづみ・巻上公一・松金よね子・デーモン小暮閣下・水前寺清子・デュークエイセス・小椋佳・熊倉一雄・中井貴一・由紀さおり、安田祥子・近藤房之助・真田広之

これだけの各界の著名人が、レコード会社の枠を越えて、
「マザー・グースが好き!」という共通点でもって集まり、
なんと、集まっただけではなく、歌まで歌い、
――それは、当たり前!
(っていうか、これだけの名だたるメンバーが集まるだけでもスゴい!)

さらに、各々の個性を発揮して、それぞれを味のある曲に仕上げている、
他に類を見ない画期的な作品なのです。

CDの解説書には、翻訳者と作曲者からのお言葉に加え、
参加者たちのプロフィールも懇切丁寧に書かれていて、読み応えがあります。

このCDの一番の聞き所は、なんといってもラストの1曲、
「コマドリの死」。
(谷川俊太郎訳「だれがこまどり ころしたの?」で有名なアノ曲です)

有志一同の参加による、壮大なエンディング・ソングとなっていて……

これ聴くと、その日は一日中、この曲が頭の中をぐるぐる回って、他のことが手につきません(笑)。


この企画は大成功だったようで、好評・絶賛の声を受け、この2年後、
続編として、CD版『またまた・マザー・グース』(東芝EMI/1997年)が作成されます。
(元本である書籍版『またまた・マザー・グース』の作成中に、
 すでにCD化が決定されていたそうです)

またまた呼びかけに応えて集まった60人のスターたち(前作と重複なし)が、それぞれの名人芸を聴かせてくれます。

その60人とは……

イヴェットジロー・西田ひかる・植木等・ROLLY・西田敏行・宇崎竜童・橋爪功・中村美律子・山本謙司・柴田智子・サンディー・尾藤イサオ・夏木マリ・上條恒彦・深津絵里・石丸幹二・堺正章・森公美子・加藤登紀子・新小岩児童合唱団・桃井かおり・米良美一・松崎しげる・涼風真世・小堺一機・あがた森魚・イルカ・薬師丸ひろ子・尾崎亜美・東京Qチャンネル・八神純子・バースディスーツ・鹿賀丈史・EPO・坂上二郎・小林亜星・早見優・山本リンダ・団シン也・小林薫・ブラインドレモンブラザース・川中美幸・山下久美子・木の実ナナ・KAZMI・永六輔・渡辺えり子・林望・中尾ミエ・香田晋・松井常松・ソロンゴ・小沢昭一・今陽子(ピンキー)とキラーズ・川平慈英・サーカス・宮路オサム・東星児童合唱団・グラシエラスサーナ・コシミハル&高野寛

――こちらも、すごいメンバーですよね!

『オフ・オフ』・『またまた』、
どちらもそれぞれが最高の仕上がりになっています。

まさに、世界に誇る、日本のマザー・グース。

未読・未聴の方には、ぜひおすすめしたい逸品です!


最後に

マザー・グースの世界、いかがでしたか?

一見、子ども向けのように見えても、その背景には、こんなに奥の深い世界があるのだ、ということをお伝えしてきました。

このような背景を知ったうえで、絵本を読み、CDを聞き、歌を歌ったりすると(歌が無理なら鼻歌でも可)、マザー・グースを100倍楽しめるのではないでしょうか。

これからも、子ども向けのようで奥が深い「子ども文化」について掘り下げた記事を書いていきます。

また、「子ども文化」の沼でお会いしましょう!

たくさんのnoteの中から、私の記事を見つけて読んでいただき、
ありがとうございました。
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#創作大賞2025 #エッセイ部門

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