防災とは「忘災」を防ぐこと——未来のために毎日できる防災
「防災」という言葉を聞くと、多くの人は「災害を防ぐ」ことを思い浮かべます。
けれど実際には、私たちに地震や台風を止める力はありません。
私は、防災の本質とは、災害を防ぐことではなく、「忘災」――災害を忘れてしまうことを防ぐことだと考えています。
物理学者の寺田寅彦は、「天災は忘れた頃にやってくる」という警句を残しました。
この言葉は、何十年も語り継がれてきましたが、それでも私たちは、喉元を過ぎれば熱さを忘れてしまいます。
避難経路は、以前調べたまま思い出せない。
非常用持ち出し袋の中身も、押し入れの奥で期限切れに。
――知っていたことも、やがて「知らないこと」になっていくのです。
そもそも、人は「忘れる」ようにできています。
毎日降りかかる情報や不安をすべて覚えていたら、心がもちません。
だから、怖い記憶ほど、時間とともに自然と薄れていく。
それは「弱さ」ではなく、むしろ「生きるための仕組み」なのだと思います。
けれど、防災は「完璧な備え」である必要はありません。
大切なのは、「思い出し続ける工夫」を、暮らしの中に毎日すこしずつ散りばめておくこと。
たとえば――
・スマホの充電を「残り20%以下にしない」と決めておく
・夕食で缶詰を一品使ったら、買い足す習慣にする
・冷蔵庫に「備蓄チェックメモ」を貼って、毎日目に入るようにする
・使った食器をすぐに片付ける(これで危険が1つ減ったと意識する)
・災害情報を見たら、「うちの備えは大丈夫かな?」と1秒だけ考える
どれも「備える」というより「思い出す」だけ。
でも、それが“忘災”を防ぐ力になります。
防災は、歯みがきや片付けと同じで、一度やったら終わりではなく、毎日の小さな習慣です。
毎日すこし意識にのせることで、体が自然と覚えていきます。
特別な行動にしないこと――
それが、続けるいちばんのコツなのかもしれません。
思い出すこと=備えること。
それが、防災において最も手軽で、最も確実な習慣なのだと思います。
未来の災害は、いつどこで起きるかわかりません。
でも、「忘れなかった」ことで守れる命があります。
防災とは、未来に備えるだけでなく、過去の教訓を手放さずに持ち続けること。
そしてそれを、未来の誰かに手渡していくこと。
「忘れない」。そのために「思い出す」。
――その小さな積み重ねこそが、未来のために、私たちが毎日できる「防災」なのです。

