【漆風呂(ムロ・フロ)とは?】金継ぎで失敗しない湿度管理の基本と注意点_26.6.2補足
「漆風呂が不安です」というお問い合わせをいただきました。
今日は、金継ぎに欠かせない「漆風呂(うるしぶろ)」について、基本的な準備・使用方法を私自身の経験も交えながらまとめてみます。
漆風呂(ムロ・フロ)とは?
教室では「漆風呂」という言い方をしていますが、「室(ムロ)」「風呂(フロ)」と呼ぶこともあります。
本来は木製の箱や戸棚で、内部の湿度を一定に保ち、そこに漆芸などで漆を塗ったものを入れることで、漆を硬化させるために使います。
梅雨時期など、自然な湿度で硬化することもありますが、埃がつきやすくなったり、湿度が安定しないと結局乾かないこともあるため、漆風呂の使用をおすすめします。
お菓子作りでいうところのオーブンのような役割だと思います。
湿度がない場合、ずっと乾かないので次の工程に進めません。
色漆仕上げの場合は、発色の調整のためにわざと数日間湿度のない場所(乾風呂)に入れてから、ふつうの漆風呂へ入れる場合があります。
また、名前に“風呂”とついていますが、本当のお風呂場に置かないようにご注意ください。
湿度は「高ければいい」わけではない
一般的に、漆の適湿は60〜80%程度、温度20~30度と言われています。(諸説ありますので、おおよそです。)
60%を下回ると乾きにくく、逆に90%を超えるような環境では、発色が変わったり、(「やける」といいます)状態が不安定になることがあります。
お風呂上がりの浴室は湿度が高くなりすぎてしまいます。
また、急激に湿度の高い漆風呂に、厚塗りのものを入れると、縮みを起こす可能性があります。「縮み」というのは漆面がシワシワになってしまう状態のことで、もしそうなってしまうと、全部研ぎ直して、何回か塗らないと元通りにはなりません。
大切なのは、湿度の“高さ”というより60%以上くらい、という安定です。
どのくらいの塗り厚まで縮まないのか?
それは慣れてくるとだんだんわかってきます。試しにいらない牛乳パックの端切れに厚め、中くらい、薄めで何通りか塗って、漆風呂に入れてみるとどのレベルで縮むかわかるので、感覚が掴めると思います。
心配な方は薄めに塗ってください。
自宅での簡易漆風呂の作り方・使用方法
金継ぎの範囲であれば、特別な設備は必要ありません。
【準備するもの】
・ダンボール箱やプラスチックケースなどの箱
(器を余裕を持って入れられるサイズ。私は現在、ダイソーと無印良品の半透明の折りたたみ式収納ケースを使っています。)
・濡らしたタオルや雑巾
・湿度計
【作り方・使用方法】
①箱に濡れたタオルや雑巾を入れる。
※畳んで入れるよりも、箱の淵に広げてかけると湿度が上がりやすいです。
②湿度計を入れる
※通気性を保つため、プラスチックの場合は蓋を1cmほど開けておくと安心です。
③金継ぎ修理中の器を入れる
※漆での修理箇所は硬化する前はとてもやわらかい状態でベタベタしています。
内壁や濡れタオルが当たらないように箱の真ん中に置いてください。
もし箱の底面に修理箇所がくっついてしまいそうな時は、割り箸などを使って、直接修理箇所が触れないように工夫してください。
【管理方法】
湿度が60%以上になっているか確認します。
1日1回タオルを濡らせばほぼ問題ありません。
冬場はリビングなど人がいる場所に置いて、なるべく20度以上になるように注意します。10度以下だと硬化がかなり遅くなるか、乾きません。
ミニ電気カーペットを漆風呂の下に置いてもいいです。
【漆の硬化待ち目安(漆風呂に入れる必要のある時間)】
・接着 一週間以上
・下地 一日以上
・塗り 一日以上
・蒔き終わり 一日以上
※硬化後は漆風呂を湿らせ続ける必要はありませんが、湿度や温度が必ずしも適切でなかった可能性も鑑みて、数日多めに入れておくことをおすすめします。
※漆風呂の中は埃もつきにくいため、硬化後もそのまま保管するために入れっぱなしで問題ありません。
※完成後は3ヶ月ほど使用せずに保管します。漆風呂を湿らせ続ける必要なく、普通の食器棚に移動させたり、「景色」を眺めて楽しんでください。
※牛乳パックの切れ端などにその日の作業した漆を塗って、一緒に硬化させておくと乾きを確認するのに便利です。もし乾いてない状態で触ってしまった場合は、すぐに菜種油やサラダ油で手を洗って、ハンドソープで洗い流してください。

本来の漆風呂について
文化財修復の工房では、檜(ヒノキ)製の漆風呂を使っていました。
色々な場所で漆風呂の扱いを見てきましたが、
・霧吹きで木を湿らせる
・濡れ布巾を置く。ドアにかける。
・下に大きな受け皿になるものを置いて、水を入れる
以上のように色々な方法で戸棚や箱を湿らせていました。
通気性が悪く器にタンパク質もあったのか、カビが生えた現場を見たことがありますので、1日1回程度、確認できると良いかと思います。

本来の漆室は、木製でこのような構造です。
内部に棚があり、空間に余裕を持たせて湿度を安定させます。けれど、金継ぎの範囲であれば、ここまで大きな設備は必要ありません。
私の痛い失敗
以前、工房ではなく自宅で金継ぎをする際、予想より大きな修理品を預かり(依頼主のお部屋の中で撮影された状態だと小さく見えた…)手持ちの漆風呂に入らず、仕方なく「入っていた段ボール」を使用したことがあります。
大きさはすっぽり入って、もちろん壁面に器がつかない程度、少しだけ大きめの箱でした。
湿度は管理は徹底していましたが、空間に余裕がなく、地塗りの乾き方にムラができてしまい、一部が早く乾きすぎた部分の金の色が変わってしまうということがありました。(金の色味は漆の厚さ、乾き方で変わります)
そのとき、めんどくさがらずに預かった時点で大きな漆風呂を用意すれば良かった、、、、。と思いました。
金継ぎのいいところは失敗してもやり直すことができることです。
ムラができた金の色に納得できず、乾く前にエタノールで拭き取って再チャレンジして無事に完成させました。無駄になった金は今後に向けてちょっと痛い勉強代になりました。

まとめ
漆風呂は難しいものではありません。
けれど、少しだけ理解が必要です。
・湿度は60〜80%、温度20~30度を目安に
・高すぎても低すぎてもよくない
・空間に余裕を持たせる
・安定した環境をつくる
大切な器を直したいと思ったとき、不安になるのは自然なことです。
教室では、細かな質問に答えし、実際に修理の工程として乾かす手順をお見せできます。
今は横浜のレンタルスペースでKinémo 伝統金継ぎ教室を開講していますが、いずれ実店舗を持てたら、檜の漆風呂を壁面に巡らせ、生徒さんの器を保管できたらいいなあと考えています。
伝統金継ぎ教室では、漆との向き合い方も丁寧にお伝えしています。
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