㉘ 女優になってしまった。
私は時々、女優になる。
認知症のご利用者様。
玄関で挨拶をする。
「初めまして」の日もあれば、
「おかえり」の日もある。
今日は、
「りっちゃん、遠いのによく来たねえ」
の回だった。
私は、りっちゃんになる。
「りっちゃん、新幹線で来たの?」
少し戸惑いながら、
車で来ました、と答える。
「はあ、車を運転できるようになったんだ」
血圧を測っていると、また聞かれる。
「お医者さんになったのか?」
……いいえ、看護師です。
「いやあ、びっくりした。立派になったねえ」
今日は、偽りっちゃんを演じることにした。
りっちゃんではありません。
そう否定すると、ケアが進まないこともある。
認知症という病気を患っても、
感情は消えない。
今日、りっちゃんが訪ねてきた。
うれしかった。
それだけでも、訪問する意味があると思う。
次は「初めまして」かもしれない。
その時は、
ご家族に頼まれて来た看護師です。
そう名乗ろうと思う。
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