見出し画像

春霞理人の不思議探偵日記第13話 消せなかった思い

「理人!来てくれたのか!」

受付にいた友人の隆也は嬉しそうに言った。

「返事もくれないから来ないと思ったよ。」

「どうしようか、迷っただけさ。」

理人は答えた。

使われなくなった楽器をアフリカの子どもたちに贈るNPO団体の報告会の受付での事だ。

友だちの隆也がボランティアで参加している。

来てみないか? と連絡があったのは1週間前だった。

正直なところ、また寄付のお願いかな?と思った理人は返事をしなかった。

春霞理人はある資産家の次男で余裕のありすぎる生活をしている。

寄付だの援助だののお願いは、いつもの事だ。

だが、今回はその団体を調べる内に少し興味を持ったので来てみたのだった。

「平和の輸出」をしているという。

「子どもたちの手には武器ではなく楽器を!」
と言う理念に気持ちを動かされたのだった。

報告会では、実際にアフリカに行った若い男性の話が聞けた。

大学生たちのグループが活動を支えていた。

そして、映像の中で、向こうの子どもたちが送られたリコーダーやピアニカを笑顔で音を鳴らしている。

けっして新品ではないのにとても喜ぶ姿があった。

隆也には、
会員になれとも、寄付をしろとも言われなかった。

ただ「どうだった?理人の家にも何かいらなくなった楽器あるか?」
と聞かれただけだ。


そして…


いつの間にか、理人は倉庫で仕分けや掃除などのボランティアとして参加していた。

自分の手入れした楽器が子どもたちの、幸せそうなあの笑顔になるのならと思うと、作業も楽しいものだった。

若いボランティアが多いが、
中にはキーさんと呼ばれる、気のいい老人もいた。

彼は鍵和田守さんと言う名前で、仲間からは「キーさん」と呼ばれている。

しかも、保管倉庫の管理人をしているという。

なんてぴったりな名前なんだろう。

キーさんがボランティアのまとめ役の誠君に言う

「誠、こっちの箱を頼む。」 

「はいはい。」

「返事だけは立派だな。」

「キーさんこそ。」

二人のやり取りに周りが笑う。

「本当に仲がいいですね。」

理人が言うと、

「こいつに誘われて始めたんだ。」

キーさんが照れくさそうに言った。

「僕、大学入ってからこの活動を知ったんですけど、
すぐに倉庫の管理人のキーさんと仲良くなって『一緒にやりませんか?』って誘ったんです」

周りからは本当の祖父と孫のように思われている。


その日は発送前に楽器に書かれた名前を見つけて消す大事な作業だった。

名前もりっぱな個人情報だからだ。

リコーダーには少ないが鍵盤ハーモニカにはけっこうケースに名前が書いてある。

一つ一つ確認しながら作業を終えた。

理人が梱包用の箱に入れていった。

そして楽器を発送出来るようにしたら、キーさんの倉庫に入れてきた。
 


そんなある日


もうすぐ船便で送るはずの楽器が倉庫から消えたのだった。

それも "鍵盤ハーモニカ" を入れた箱だけが無くなっていた。

隆也から話を聞いた理人は

「盗まれた?」

「いや、売ってもたかが知れている。」

「なぜ、鍵盤ハーモニカだけなんだ?」

「とにかく、倉庫の鍵はかかっていた。
俺たちは追加の箱を持って、キーさんに鍵を開けてもらって入ったんだ。」

「密室か?」
理人は考えこんでいた。



理人は倉庫の事務所へ駆けつけた。

そこには、隆也の他に理事長と誠君がいた。

もちろん、倉庫の管理人のキーさんの姿もあった。

キーさんはオロオロしていた。

自分が管理していたのだからそれも当然だろう。

倉庫の鍵は閉まっていた。

外部から侵入の形跡なし。

警察を呼ぶほどの事ではないが、
船便に間に合わないと困る。

「せっかくの寄付の品を持ち去るなんて、いったい何が目的でしょうね?」

「何かトラブルが起こっているとかありませんか?」

理事長は「そんな事は起きていないな。」

「鍵は誰が管理しているんですか?」

「わ、私です。」とキーさんが答える。

「倉庫の鍵はどのように保管しているのですか?」と聞いた。

老人は「こ、ここの保管BOXに入れて、わ、私がBOXの鍵を持っている。失くした事は無い!」

事務机の横の壁にある保管BOXを指差す。

保管BOXは鍵と暗証番号が必要なタイプだった。

 机はキーさんのものらしく、何枚かの写真が飾られている。

「こちらはお子さんの写真ですか?キーさんに似ていますね。」

「いや、孫達ですよ。」キーさんは少し笑顔になった。

「真ん中のお孫さんが一番キーさんに似ていますよね。小学生ですか?」 

「あ、ああ、小さい頃の写真なんだ。」

ちょっとぶっきらぼうに答えた。


「倉庫の方も見てみましょう。」

理人達は団体の借りている倉庫に移動した。

横に小さな窓が付いているが、格子がはまっている。

たとえ、窓が開いていても子どもでも出入りは出来ないだろう。

床にも引きずった様な後もない。

きれいに"鍵盤ハーモニカ"の箱だけが消えている。

隆也が
「なぁ、理人どう思う?」

「そうだな?鍵は掛かっていた。窓からの侵入も無理。トラブルも無い。」

「そして、動機が不明だ。」

「動機?そうだな。待っている子ども達には宝物でも、こちらではそう価値のあるものでは無いなぁ。」

隆也はうなずいた。

動機も盗んだ方法も分からない。

理事長は「ちょっと理事達に話をして警察に届けるか協議する。何か分かったら連絡入れてくれ。」



マンションに戻っても理人は何かが引っかかっていた。

この感覚は、なんだろう?

何か見落としがあるのだろうか?

高価なものではない。

何かの嫌がらせなんだろうか?

キーさんは"失くした事は無い"と言ったが本当にそうなんだろうか?

いや、動機がわからない。

考えが堂々巡りしていた。



翌日、理事長から「警察には届けない。
残ったものだけを送るようにする。」
と連絡があった。

仕方ない。

あの箱に鍵盤ハーモニカを入れたのは自分だったな、と理人が思った時、

ハッとした!

そうだ、あの時!

思い出した!

そうか!名前だ!!


理人は理事長に電話をかけた。

「明日、またみんなで倉庫で話をしましょう。」

「何か手がかりが?」

「思い出した事があります。明日お話しします。」

次の日、また倉庫に集まったみんなは理人を待っていた。

今日は理事の一人、鈴木さんも来ていた。

隆也も理人が現れると、あいさつをする暇もなく

「遅いぞ。何もったいつけてんだよ。」と文句を言い出した。

理事長が「何を思い出したんだね?」と言う。

「まぁ、そう慌てずに! 落ち着いてください。今お話しします」


「あの梱包をした時です…」と理人は話しを始めた。

「僕が梱包用の箱に一つ一つ入れました。」

「確認しながらね。その時にまだ名前の消されていない鍵盤ハーモニカが一つあったんです。」

「えっ!?そんなはずは無い。みんなで消す作業した後だ。」

みんなは顔を見合せる。

「一つだけ消し忘れがありましたよ。

薄くなっていましたが『1ねん2くみ かぎわだ まこと』と書いてありました。」

「えっ!」

みんなが誠君を見た。

「違いますよ。僕、何もしてないですよ。
僕は相田誠です。」

誠君はあわてて否定した。

「そっちではありません。」

「キーさんは鍵和田さんですよね?」

「あっ!」今度は皆でキーさんを見た。

「あ、ああ。消したのか?」

「はい、消しました。」

「そうか。だから無かったんだな。」

キーさんはちょっとホッとした感じで言った。

そして、「そうです…」と続けて言った。
「私が箱を別の倉庫に移したんです。」

「どうして?」みんなの声がそろう。

理人が「もしかしたら、あの写真、お孫さん1人だけ小さい頃だと言われましたが、亡くなられたのではありませんか?」

「そうだ、2年生の時に白血病で…」

キーさんの声が小さくなっていった。

「…続きは僕が言いますね。違っていたら言ってください。」

「キーさんは鍵盤ハーモニカの名前を消していた時、
お孫さんの名前を見つけた。懐かしい名前。
まさか、孫のではないと分かっていた。
たぶん同姓同名なんだろうと思いながらも、
その名前を消すことをためらったんですね。
そして、それをそのままにした。」


「でも、後からそれではいけないと思い直し倉庫に入って探そうとした。
だけど見つけられなかった。
だから別の空き倉庫に入れてもう一度見直したが見つからない。
どうしようと思っている内に次の搬入があった。」

「そして、騒ぎになり、言い出せなくなった。
僕は名前が残っていた事を誰にも言わなかった。
誰が見落としたかなんてどうでも良かったからね。
だからキーさんも知らなかった。」

「その通りだ。」

「これが箱が消えた理由です。」

みんなはシーンとなった。

「すみません。すみません。」
キーさんは泣いていた。

「それなら言ってくれればいいのに。」
鈴木さんが言う。

「言えなかったんですよ。
名前を消さなかった理由も言わないといけないし、
誠と同じ名前だったと言う事も言わなくてはダメだから…」

「同じ名前だから仲良くしてたんじゃないから…」

「そんなことわかってるよ!」
誠君が言う。

「誠…」


「キーさん。」理人が言った。

「はい。」

「名前は消えました。」

「……。」

「でも、その鍵盤ハーモニカをこれから大事に使ってくれる子どもがいますよ。
きっと、あなたの思いも一緒に。」

鍵盤ハーモニカは見つかった後、 みんなで再梱包していた。


その時、
「理人。」

「何ですか?」

「また手伝ってくれるか?」

「もちろん。」


そして発送の日。

トラックが出ていくのを見ながら、
理人は遠くアフリカで鍵盤ハーモニカを吹く子どもたちを思い浮かべた。

あの名前は消えてしまった。

けれど、そこに込められていた思いまで消えるわけではない。

遠い国でその鍵盤ハーモニカを手にする子どもたちがいる限り、きっと。

理人はそんな気がしていた。

そよ吹く風が心地よい、五月の終わりだった。

第13話 完

★最後まで読んでくださりありがとうございます
いかがだったでしょうか?
スキしていただけると嬉しいです★

いいなと思ったら応援しよう!