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役割が増えるほど不安になるIT職へ──上司に確認すべき期待値と境界線

任される仕事が増えたのに、素直に喜べないときがある。

上司から声をかけられる。会議に呼ばれる範囲が広がる。後輩の相談を受ける。顧客との調整にも入る。少し前なら、成長している証拠だと思えたはずなのに、いざ自分の役割が広がり始めると、嬉しさより先に不安が出てくる。

これは、自信がないからだけではないと思う。

役割が増えるというのは、作業量が増えることではなく、期待される結果の範囲が変わるということだからだ。ここを確認しないまま頑張り始めると、いつの間にか便利屋になってしまう。頼まれたことには反応しているのに、自分が何で評価されるのかが見えない。頑張るほど仕事は増えるのに、キャリアとして何が積み上がっているのか分からなくなる。

僕は、IT職の30代前後で起きる不安の一つは、スキル不足よりも期待値の不明瞭さにあると思っている。

役割が増えるとき、最初に曖昧になるもの

SE、PL候補、PMO候補、上流SE、ITコンサル寄りの仕事をしている人は、ある時期から作業者としてだけでは見られなくなる。

資料を作るだけではなく、論点を整理してほしい。進捗を報告するだけではなく、遅れそうな理由を先に見つけてほしい。会議に出るだけではなく、関係者の認識差を埋めてほしい。そういう期待が、少しずつ乗ってくる。

問題は、その期待が明文化されないことだ。

上司も悪意があって曖昧にしているわけではない。むしろ、信頼しているから任せている場合もある。ただ、任せる側の頭の中では期待がある程度見えていても、任される側には見えていないことが多い。

その状態で頑張ると、仕事の入口が全部開いたままになる。

誰かが困っていれば拾う。会議が荒れれば整える。後輩が迷えば助ける。顧客が不安そうなら説明する。どれも大事な仕事だし、放置すれば現場は崩れる。けれど、それを全部自分の役割として引き受けてしまうと、役割拡大ではなく負荷拡大になる。

上司に確認すべき一つ目は、何を期待されているか

役割が増え始めたとき、最初に確認したいのは、作業内容ではなく期待されている変化だ。

何をやればよいですか、と聞くと、タスクの話になりやすい。もちろんタスク確認も必要だが、それだけでは不十分である。大事なのは、この役割を通じて、上司が自分にどんな変化を期待しているのかを確認することだ。
たとえば、PL候補として見られているのか。PMO的に現場を整える役割を期待されているのか。顧客との会話に入れる上流SEとして育てたいのか。単に手が足りないから一時的に助けてほしいのか。

この違いは大きい。

一時的な支援なら、範囲と期限を切る必要がある。育成や登用の意味があるなら、経験として何を残すかを考える必要がある。評価につながる役割なら、成果の見せ方まで設計する必要がある。

ここを確認しないと、本人はキャリアの階段を上がっているつもりでも、実際には穴埋め要員として消耗しているだけということが起きる。

二つ目は、どこまで決めてよいか

次に確認したいのは、裁量の境界線だ。

役割が広がるとき、人はよく責任だけを先に受け取ってしまう。進めておいて。見ておいて。調整しておいて。そう言われると、任された気になる。けれど、実際にはどこまで自分で決めてよいのかが曖昧なままだと、途中で止まる。

決めてよいのか。相談すべきなのか。提案までなのか。実行判断まで任されているのか。

この線が曖昧なまま動くと、二つの失敗が起きる。一つは、遠慮しすぎて何も進まないこと。もう一つは、任されたと思って進めたのに、後から勝手に決めたと言われることだ。

だから、上司には早めに確認したほうがいい。

この件は、僕が案を出すところまでなのか、関係者と合意して進めるところまでなのか。判断に迷う場合、どの段階で相談すべきなのか。こういう確認は、弱気な質問ではない。むしろ、仕事を前に進めるための前提合わせである。

三つ目は、何を減らしてよいか

役割が増えるときに一番抜けやすいのが、何を減らすかの確認だ。

新しい役割が増えても、今までの仕事が自然に減るとは限らない。既存タスク、問い合わせ対応、定例資料、細かい確認、後輩フォロー。その上に新しい役割が乗ると、本人の中では全部が自分の仕事になる。

でも、本来はそうではない。

役割を増やすなら、優先順位を変える必要がある。優先順位を変えるなら、やらないこと、手を薄くすること、誰かに渡すことを決める必要がある。ここを上司と合意しないまま引き受けると、頑張れる人ほど壊れやすい。

特にIT職では、細かい調整や火消しが見えにくい。成果物として残りにくい仕事ほど、誰かが黙って吸収していることが多い。だからこそ、役割が広がるタイミングでは、追加される仕事だけでなく、減らせる仕事を確認しなければならない。

これはわがままではない。品質を落とさないための条件確認だ。

境界線は、成長を止めるためではない

境界線という言葉は、少し後ろ向きに見えることがある。

できませんと言うこと。断ること。自分を守ること。もちろん、それも境界線の一部ではある。ただ、キャリアの文脈で考えるなら、境界線は成長を止めるためではなく、成長を成果に変えるために必要なものだと思う。

どこまで担うのか。何を決めるのか。何を成果と見るのか。何を減らしてよいのか。

この線があるから、任された役割を自分の実績として説明できる。逆に、線がないまま全部を抱えると、忙しかったという記憶だけが残り、職務経歴にも評価面談にも変換しにくい。

役割が増える時期は、キャリアが伸びる時期でもある。けれど、それは黙って全部引き受けた人が伸びるという意味ではない。期待値を確認し、裁量を確認し、減らす仕事を確認しながら、自分の役割を言語化できる人が伸びるのだと思う。

任され始めたときほど、最初の会話が大事になる

上司に期待値を確認するのは、面倒に見えるかもしれない。聞き方を間違えると、前向きではないと思われそうで怖い気持ちもある。

でも、何も確認しないまま走り出すほうが危ない。

役割が増えたときに必要なのは、もっと気合いを入れることではない。任された仕事を、自分のキャリアに残る形へ整えることだ。そのためには、最初に確認するべきことがある。

自分は何を期待されているのか。
どこまで決めてよいのか。
何を減らしてよいのか。

この三つを曖昧にしたまま頑張ると、仕事は増えるのに、自分の役割は見えなくなる。逆に、この三つを確認できると、役割拡大はただの負荷ではなく、次のキャリアに向かう経験になる。

あなたが今任され始めている仕事は、期待値と境界線まで確認できているだろうか。

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