ある日の極楽蜻蛉:ある日の春香伝19「一着のコート」
妻は、身体が弱く、閉所恐怖症ということもあり、休みに電車に乗って出かけるということは、とんでもないことであった。
尤も身体つくりに毎日の散歩は欠かさなかった。
私は、結婚記念日のプレゼントとして
小遣いをはたいて妻にチョッピリ豪華なコートを贈りたいと思い、妻に声をかけた。
「コートを君に贈りたいんじゃが、川越の丸広百貨店まで買い物に出かけないか?」
妻は嬉しそうな顔をして出かけることにした。
妻のスーパーのシフトで土日が休みの一日を狙って東武越生線に乗った。
15分程度で坂戸着、坂戸から東武東上線に乗り換え川越市着。
妻にとっては初めての電車による遠出であったが、乗り換えがあるのがかえって気分が紛れ、妻は思ったより何事もなく目的地に到着した。
川越市から丸広百貨店まで徒歩で散歩するということも気が紛れたようである。
さっそくコート売り場に行き、眺めてみると、一着の薄茶色の豪華なコートが目に入った。
「これ、どおじゃろう?」
妻も気に入ったようだが、値札を見てびっくりした。
6万円以上するのである。
「おとうさん、予算のほうは大丈夫?」
「大丈夫だから試着してごらん。」
妻はすっかり気にいり、このコートに決めて帰宅した。
さっそくコートを着てみた妻の笑顔が
そこにあった。

この一件から、すっかり自信を付けたのか、毎月のように丸広百貨店まで出かけて、自分の給料で、自分の洋服を揃えるようになった。
「こうやって出かけられるようになったのもおとうさんのおかげね。」
妻は私に改めて感謝した。

実話を交えたフィクションです
完
