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佐藤砂城詞華集 食べもの尽くし 二軒目




 序


グルメ詩歌の宴はまだまだ終わらない!(なんのこっちゃ)



 定型俳句句集 糞袋 より


うどん啜る地球の隅っこでは腹が減る

カツ丼や地球の隅っこで涎出し

天王星や庶民はアイスたまに買う

春逝けば山盛りの米食うべきぞ

台所鱗が光る朧夜ぞ

袋一杯に土筆摘まれて匂いかな

どろりとこぼれて掬い余りし白魚や

田田田田田田んぼ田田田田春の水

体まるごと口としたのだ浅利とは

春じゃくと噛めば苺に勝る香す

油断した浅利の舌を指で突く

春めいて一皿の餃子尊いぞ

芋食うてしばらくして屁や花見酒

内海は花烏賊の卵の揺り籠ぞ

ジャムを塗る食パンの屑落つ春の朝

ほろ苦しつくし煮食べた舌触り

酒香る忙しい世の花見かな

アイスバー歯は硬いものぞと思うなり

幸せになっていいんだアイス珈琲

ドリンクや蓋開ける音に涼むなり

硝子玉よりラムネとは流れるもの

日盛りやピザ一枚が湯気立てて

鰻重や文化禁じる難しさ

味の濃いトマトをがぶりと食いにけり

音が良い胡瓜がぶりと食い千切る

日本酒を知らぬ日本人の吾涼し

ワイナリー二軒ある田舎ぞ雲の峰

アイスコーヒーに牛乳注げば混ざるなり

涼しさや皿何枚か洗うべし

氷砥げば氷溢るるかき氷

三ツ矢サイダー透けて向こうに店の窓

よく冷えた麦茶飲み干し口ぬぐう

苺嗅げばなぜか英国の園見える

螺旋状にアイスクリーム巻かれけり

土瓶割りにくそうと言いし小作人

アイス珈琲の氷は運命決まっており

アイス珈琲にゆっくりストロー差してみる

一夜酒の名でも酔えぬや甘酒よ

香る如く氷の上に涼しさよ

トマト切る酷さに涙ぽとぽとと

まず麦茶二杯一気に飲んでため息

河童三人食べては胡瓜もぎとるぞ

松茸いずこ山ご自身もご存知ない

素人の茸狩り追う長老よ

阿呆のふりした茸かと思いたる

森の賢者は平凡なふりの茸かな

井戸のなき世は秋の水どこで汲む

座り込み吾は毬栗ぞ腹立てて

枝豆の小さな実ころりころりかな

スーパーのラップに秋鯖の脂かな

くださいと秋の蝿さえ言う魚

人間や毒茸怖れて謙虚なり

じゃがいも収穫おい雲の馬どこいった

人よりも稲田美しき村哀れ

縁なき人も茶飲む気がする秋日和

しゃきしゃきの生のじゃがいも切る音す

行儀良く縦横に並ぶ吊し柿

干し柿や一体どこへ渋消えた

秋めきて田んぼの真ん中で酒盛りか

秋の豚少し寂しくぶひと言う

栗茹でて匙で中身を掬いけり

くろがねの秋のたこ焼き器じゅわああ

毬栗よいつかウニの事教えよう

枝で突けばふにゃふにゃしたる茸かな

西瓜切れば甘い炎が露わなり

河豚の毒あれれ人間って死ぬんだな

広島の牡蠣死に尽くして学者の言

牡蠣死にて牡蠣商人に補償金ありや

葱買うて国道の電柱の中帰る

蟹の種類に詳しいラジオのコマーシャル

蟹美味い美味いとラジオのコマーシャル

寂しさや波の綾映る夜の鮟鱇

ひとまず休むホットカフェオレ日の出前

冬の水でミニトマト洗えば赤が映え

大根で狐を撲殺して祀る

おでん煮る鍋に菜箸沈めけり

病める母に蜜柑の滋養摂れと言う

大根を煮る匂いかな雨の暮

出汁の香りにかすかな苦さ大根煮

ホットティー買えば指に銅貨の匂い付く

珈琲はあくまで黒し冬の夜

顎骨に非ず海鼠を食いし音

思い切り海鼠噛むとき強き歯ぞ

前歯より臼歯働く海鼠かな

刻まれてなお命しぶとき海鼠かな

先祖より紋様受け継ぐ海鼠かな

値段書く張り紙や海鼠の旬らしく

海鼠という不思議なもの生む銀河系

白米も海鼠がおかずと思わざる

スーパーの海鼠ポン酢の袋付き

海鼠一人分三百九十八円なり

ぷにぷにの身にこりこりの芯や海鼠食う

ぴたと箸触れる海鼠の柔らかさ

湯豆腐や出汁色となり皿の上

皮も実と一つに煮ゆる南瓜かな

甘そうな南瓜煮冷えてゆく夜かな

入院者の口へ南瓜煮運ばるる

南瓜煮よ醤油の塩気がよく解る

大口や涙の味する南瓜煮食わむ

少し箸しなり砕ける南瓜煮なり

細い箸が食を誘う寒夜かな

コカコーラ飲むべしざばんと鯨の目

コカコーラ注げやどばどばダムの冬

コカコーラ呷るやごくんと喉凍つる

コカコーラ尽きるやじゃばと寒鯉の鰭

天国で茹でられており寒卵

寒影がぴたりと引っ付く匙不気味

引きずれば大皿凍てて重い音

河豚捌く包丁の柄に汗はなし

生牡蠣の命の味はかくも濃い

長葱を投げる子供よやめなさい

離島住む人の料理や冬の海

寒い日や焼肉喰うか寿司喰うか

焼き芋やほくほくと発句促され

いくら丼頼んでみたし一月末

ウニ丼を喰ったことなし一月末

うな重は三千円越え一月末

鉄火丼想えば涎よ一月末

ステーキは塩良しタレ良し一月末

牡蠣フライとタルタルソース一月末

ポテトサラダそれだけでいい一月末

耳の如き餃子食べたし一月末

一皿のカプレーゼ欲しき一月末

アヒージョにフランスパンあれ一月末

ピザ屋なき町に生まれて一月末

熱々のクレープ恋し一月末

他者が飲む珈琲の香や冬の昼

晩冬と聞けば鍋思う性なりき

飲食店廃墟錆びきって寒椿

まだ茶を淹れる酒造家の鼻や寒造

寒晒白玉いずれ生まれけり

寒厨やバナナ冷たく熟さざり

寒釣や釣り針外すとき魚泣く

天地や寒天製す人小さし

節分やかりっと大豆香ばしき

カニ味噌の幻臭がする春の夜

雪降れば菓子の小皿の美しき

雪降れば茶碗一杯美しき

つくし煮を食べれば祖父母よありがたい

またしてもつくし煮貰う孫となる

煮られたるつくしの茎のぺたと曲がる

佃煮のつくしすっかり醤油色

煮られても筋やや堅いつくしかな

タッパーのつくしの佃煮傾きぬ

喜べやつくしの佃煮苦ければ

麺のごとく吸わるるつくしの佃煮ぞ

土手の風つくしの佃煮にないものか

海老の殻に似ているつくしの袴かな

恥じらわずつくし真っ直ぐに袴脱ぐ

土こそはつくしの苦味の元なるべし

野のものは臼歯で潰すやつくし煮る

啓蟄やもぞもぞ夜食温ためる

ラーメンに油の玉浮く春の雨

コーンも食べてソフトクリームに悔い残る

逝く春にソフトクリームの涙あり

箸にさえ素麺弱しぷつんと言う

素麺や葱浮く出汁へじゃぶと漬く

皮も実もやや色ありし大蒜よ

大蒜食うて雲の王立つ夏日かな

また胡瓜一口齧れば香は同じ

ぽりと噛む輪切りの胡瓜の水っぽさ

退屈やぽりと胡瓜の味薄く

六月も火青く燃ゆるコンロかな

枇杷という華なき名して味渋し

ぷりと球成すもうぶ毛や手に枇杷を

ひそけさや甘味に手付けずアイスティー

心太とは色艶淡きものなりしか

悟りとは天草の香の心太

ニュース少なき沖縄忌の日ご飯食う

枇杷二つ黴てごめんよと捨てました

白黴ぞ福神漬けの真赤な汁

チョコ食うて短夜明かすつもりなり

チョコの糖嬉しがる脳や夏暁

茄子刻みてさっぱり冴ゆる徹夜の目

どう切るも胡瓜硬くて崩れざり

団扇置きてズボンのカレーの染み拭きぬ

ステーキの後食うソフトクリームよ

胡瓜時に雲より白き実を秘めて

熱帯夜こそ炭酸の音色かな

冷房や野菜売り場がまず置かれ

ミルクコーヒーゼリー崩せば色涼し

アイスバー袋もらわず一つ買う

アイスバーより葡萄の香料流れ来る

ゴーヤには蝋涙の如き凸溢れ

香り佳くやや貧しげに胡瓜かな

たった今胡瓜の香の糸浮かび来ぬ

かき氷被災者もまた瓦礫下に

箸で断てばうなぎの蒲焼より小骨出ず

ミニトマト煮ゆる味する炎天ぞ

逝く夏は麦酒一瓶盗むなり

オクラ食えば臼歯もぬるりぬるりかな

舌撫でるオクラの産毛しばし感ず

唇で種産むごとく西瓜食う

つるりつるり西瓜の種や皿の上

西瓜の種ごくんと飲んでしまいけり

削ぎゆけば実が青臭い西瓜かな

心太滑り落つるも死なぬなり

心太この世の水もて冷やしけり

心太あたかも幽霊の肝のごと

秋の日やぱりと殻落つるゆで卵

ヨーグルトドリンクどろり秋の雨

秋雨や飲むヨーグルトの三温糖

帰宅して焼肉のタレ炒め嗅ぐ盆哀し

畏れ消えつつ隣家が肉焼く盆夕べ

隣人粗末にも野菜炒めか盆終わる

よく濡れてなお実透けざり赤葡萄

やはり皮厚ぼったいぞ赤葡萄

なにかしら垢の如きある赤葡萄

繊維質ぶつりと噛みぬ赤葡萄

タッパーにごろりごろりと赤葡萄

十八個それぞれ吾こそ長と赤葡萄

一粒一粒巨大な赤葡萄盛られけり

赤葡萄じゅぶと裂きゆく人の爪

房より外せば世に言う臍成す赤葡萄

父老けて空き缶は酒か秋の暮



 定型短歌歌集 ここは終着駅でない より


同室の男の咀嚼音聞いて珍しく静かに食うなと思う

相部屋の中年男がじゅるじゅると茶やコーラ飲む止めて欲しいが…

 B型作業所の仕事

大根の皮剥き人参の皮剥きでなんの仕事にありつけるというのか

じゃけえねえ人は死ぬんよじゃがいもを茹でたけえほら食いーよ生きにゃあ

キャベツの葉一枚一枚むしったら芋虫みたいに僕が居るだろか

人間も動物なのだ汗をかき肉食い菜を食い群れを作って

宝石に優れたものは米である腹膨れるし白く輝く

客観の珈琲飲んで苦い現実を客観するのだほら目が覚めた

学校の給食までが貧しくて子供に情けをかけない国恥ずべきか

肉炙るように涎を垂らしつつコンビニの棚の値札見ている

冴え冴えと春の隔離室の開き棚「がちゃん」と鳴って朝食が来る

もりもりとハンバーガー食べて暑い昼耐え抜くのだと考えている

米農家讃える歌が一曲はあれ「米が代」という歌が欲しいな

柿というぬめりとしてる実を詰めた皮は乾いている果物よ

祖父母宅今年も干し柿吊るされて猫の手届かぬ高さにあります

ぶつ切りの大根売られるスーパーの入り口に来てそのまま買わず

売り切れの赤いランプが増えてゆく一月四日の病院の自販機

コーラの泡ぷちぷちと言う窓外の枯木は無言であれど生きており

御神酒一杯さえ飲まずいれば福来ぬと思う気がして香りだけ飲む

おせちなき年迎えさえあるものか独居老人とは哀れか

カレーの海にライスの浜辺穏やかな日和を脅すスプーンの出現

カレーライス食う幸せに並ぶのが詩というものの不思議さである

ちゃんと淹れた緑茶の香り知ったときペットボトルの茶飲むと悲しい

包丁をぐさと刺しても血は出ない真っ白な豆腐切り刻んでゆく

寿司ネタのイカ詰まらせても目の前の親は気付いていないのだった

びちちちと乾麺の上にお湯注ぐ音に深夜の孤独溢れて

ゆで卵ぐさとフォークが突き刺さりはよ食え生き返るぞと言われたようだ

ざくと切る葱はさやかに見えねども新しき香にぞ驚かれぬる

吸うたびにごぽりごぽりとジュース減り空気が潰す容器の厚み

フライパンの熱で菜っ葉は晴天下のように鮮やかな緑に変わった

油から最後の唐揚げ取ったとき夜の静けさが帰ってきました

ぜんざいのあと引く苦味味わえばまるでさっきの過ちに似て

ホットティー冷えているのも気にならぬ今夜はいささか憂鬱だから

傍らにホットの紅茶花伝あり熊のぬいぐるみのように優しい

立春か木々仰ぎつつ売店来てそして出て食う駄菓子の値段

くたびれて壁に凭れて呼びかけるように机の御膳見下ろす

メーカーごとに牛乳は味も香りも違うそもそも違う牛出したもの

刻まれてなおゴムじみた椎茸の感触嫌いでも丸焼きは良い

戸開けるとぷうんと夕餉の匂いする艶めかしい春の日没の後

真白なる卵の殻は哀しからずや三角コーナーで汚されており

トイプードルのような唐揚げに一本の爪楊枝刺せば「きゃん」と鳴いたか

珈琲やピーマン好きになるように苦味の裏の味を覚えて

ポンカンをめりめり剥けば地球という「水の星」の姿と重なり

大盛りのチャーハン平らげた皿じっと見下ろすような残りの人生

焼いてない食パン噛めばもちもちと前歯が沈む奥歯が沈む

白も黄緑も美しく葱てらてらと油まみれに揚げられてある

苺抜きショートケーキを食うようなどこか心ががらんどうの日だ

焼き芋が縦に切られて頭から尻へと白い筋走る断面

蟻んこと密通したる白砂糖を水牢の刑に処す祖母の知恵

古き良き大衆食堂で使われるプラスチックのコップ侘びしく

素麺一本くねくね地図の山みたいに何かを伝えたそうにしていた

素麺の塊あたかも脳みそが入れられたようにタッパーにあり

湯に踊る久しく食わぬ素麺の女人の髪に似て美しく

すこしたわみ納豆の糸伸びるように果てから果てへ電線伸びる

氷片と思えば仄かな緑色実は微塵切りの玉ねぎ炒め

もしかすると秋の名月ほど綺麗な輪切りの胡瓜の美しい円

カップ麺のうどんは辞世にこう述べた「リボンに生まれた方がよかった」

未開封のペットボトルの空気ちゃぽと鳴って羊水懐かしくなる

人の手は一食分の米すらも持てぬというのにましてや運命は

隕石かと思えばごろんと皿に二個黒焦げになったハンバーグ乗る

箸で掴んでポテトサラダという雪を踏めば胡瓜ざくざく音が鳴るのだ

逆さにされた水筒ぽろろと茶の雫シンクに静かに落とされてゆく

なにもかもどうでもよいが豚肉と茄子の炒め物が夕餉に出された

もはや生きる術なく親にすがりつつ胡瓜ぽりぽり塩かけて食う

細切りの胡瓜萎びて皺浮いてさしずめ六十代の首の皮膚

ゆっくりと臼歯で潰せば建物の瓦礫に似てくる胡瓜の細胞 

持ち上げたコップの底の茶の澱がふと嵐となり上澄み濁す

スーパーの惣菜トレーの極彩色かえって味が悪くなりそう

大仏は晩に胡瓜を食っているそんな与太話あったらいいな

クソったれの日本政府を目玉焼きごと熱いフライパンでぶっ叩いてやる

弁当を買う数百円出し惜しみ風鈴買うが風流だろうか

きちゃぺちゃとコンクリ製の学校のプールの水めくコップの結露

ひたひたと机のコップに歩みより上から覗けば空っぽだった

茄子嫌い小学生の絶望よぐずぐずに煮た煮浸しかつて恐れた

水筒が冷たい麦茶を売る代わり外の空気の泡を買うのだ

灰汁を取りふと泡の音変わったとカレールー入れる前の鍋見る

現代人ついに地元のスーパーの牛肉の質すらに騙され

戦争にそそくさ勇み始めたる祖国をサイダーの泡と儚む

氷入りコーラと冷凍ピザ並べてソファーで涼む夏の夕暮れ

要らないと言った胡瓜が笠被りさすらいの旅に出たらしい噂

飯よそうしゃもじに茶碗かあんと言いまたかあんと言えば少し怖い音

 本歌 白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒はしづかに飲むべかりけり 若山牧水

白玉の歯がいたたたと虫歯なればコーラはじくじく飲めないものぞ

冷静を装っている氷だが溶けそうで汗だくだくなのだ

台所で振れば危ないフライパンだがテニスラケットみたいでやりたい

人生よ湯豆腐のようにゆらゆらと思い出たゆたう美しい鍋よ

裸婦よりもポテチの滝で肥ってる中年男性の裸でも描け

洗濯物を盛りだくさんと呼んでいる母よフルーツパフェじゃないのに

洗い物を盛りだくさんと表した父よ偉大な胃袋しているな

熱帯夜飲むヨーグルト飲みながら悲しい白をストロー内に見る

少し傾くソフトクリームの香よエーゲ海という遠き地の名を呟けば

スンドゥブ屋の窓を覗けば三十路らしき真珠を付けた女の耳あり

ヘルパーのおべっかが仕事の一環だとすれば抹茶のように苦く悲しい

人間の浅い心を食うように粗悪な豆腐で冷奴成す

太さと色がホワイトソーセージそっくりな手すりはあくまで手すりなのだが

枝豆がトマトのジェルの種に埋もれて沈んで眠ろうとしているサラダ

むせたとき鼻腔に行った米粒を息で片手にぽんと撃ちだした

サングラス着けて片手でアイスバー口に突っ込む自転車漕ぐ女

インスタント珈琲注ぐ気軽さで宝石のような詩を日毎書く

塩かけた茄子は言うのだ「まいったな萎びて痩せて食われてしまう」

後悔よ茄子の塩もみにごま油入れた失敗はまだ香ってる

黙々とご飯を食べて胡瓜ならじゃくじゃく口の外まで響く

ひびが入った麦茶の氷すぐ溶けた水で塞がれて跡むごいのだ

世の中に罵詈雑言ありざくざくと冷たい匙でかき氷掘る

焼き魚香る植田の横行けば彼方の山に少し埋ずもれる日

ピザを売るキッチンカーが灯もなくて営業終えた店頭に残る

コック指す方位磁針じゃあるまいしフライパンの柄常に手に向く

コーヒーを待つあいだだけほんのちょっと人類の滅亡気に留めている

老人が水入れていたコカコーラのペットボトルに口付けていた

氷水薄めたコーラがビール色してふと寂しい下戸の身の口

窒素ガスぷしゅと涼しき音立てて缶のカルピスまず鼻で嗅ぐ

飴ちゃんの袋の端っこ破り捨てて笹の落ち葉の儚さとなる

ぴらぴらのサランラップも減るまでは案外ずしりと箱重たくて

生活よサランラップも嵩減ればほぼ筒のみとなりひょいと軽い

晩ごはんたこ焼きだけの五十代サラリーマンがテレビ出る国

ごわごわと発泡スチロールにも似たなすびのボソボソした皮の中

茶の氷崩れてしゃらんと響くとき確かに今日で終わりかける夏

種繋ぐ腺のみ浮いているばかり刻んだトマトのスープ覗けば

小鉢六つつまり六人住んでいるグループホームのシロップ漬け果実

常温の缶こきと切って冷蔵庫でシロップ漬けを冷やす職員

暑気払いなのかシロップ漬けの桃などなどグループホームの昼餉

さくと音して木材を裂くごとく匙差し込んで西瓜割りゆく

洗われて丁寧に汚れ拭き取られお好み焼きのパック真っ白

丸めた唇越しに弁当の白米噛むように口に箸突っ込む女の横顔

親離れしてない僕は紙パックジュースがひとりでに温くなって傷付く

下顎でペットボトルを押すようにおちょぼ口で茶を飲むおばさんよ

ぼろぼろの手作りゼリーだけれども「宝石みたい」と誕生日パーティの女性は笑った

こりと葡萄噛めばぷちりと皮破れて突如蒼天の如き香り出ず



 定型川柳句集 趣味で極楽 より


自室の机に一杯の麦茶必ず置き

麦茶嗅げばノスタルジーが湧くのです

よく煎られた麦茶が欲しい寂しさと

人生よ麦茶で憩えるといいのだが

生活よコップの麦茶覗き込む

座布団ないが座るといいよはい麦茶

麦茶一杯からんと氷の音が鳴る

いくらでも飲めや麦茶は酒でない

安売りの麦茶のティーパックありがたし

麦茶より淋しさを消す酒を出せ

人生は豆腐のように淡白だ

寒そうだ「アイス」が「アイヌ」に見えたとき

ぬるい茶の湯呑みに俳優めく私

山芋みたいな顔しやがって自分です

食べるものない時代すぐ来るでしょう

気のせいか残酷に見えるレアの肉

水と酸素で果物作る木の魔法

ところてん楽しむ井戸水を汲む貞子

米粒が人形の口に付いていた

米一粒しゃもじの先の釜にあり

人気ないラーメン屋だがよく行った

貧乏舌なんて言うなよ節約だ

カレーパンたまに食べます明日食べよ

鍋パーティ一人でやってはいけませんか

これでもかとおかず増やした昼メシです

焼き秋刀魚ラップをはがすと脂べとり

医者曰く健康な食は継続不可能

歯科医曰く一切甘いもの摂るなと

食欲不振で霞を食べるしかないな

ハンバーガーなんて素敵な言葉でしょう

田舎だからケンタッキーのチキン買えず

海原雄山怒ってくれよ病院食

ああカレーライスの日々よ今いずこ

やつれたろバナナでも食いな甘いから

なんまんだぶ魚を煮るのは罪だろか

裸だから蟹恥ずかしく赤くなる

週末の唐揚げ美味い我が家です

ああ口に爽やかに来るヨーグルト

嬉しくてホットココアの缶握る

寒いのに冷えたお茶しかないのです

ホットティーベロは赤いまま味を知る

ラテの湯気一瞬探偵閃いた

とんかつと千切りキャベツが恋をした

こんにゃくを殴ればぶるんぶるんとし

炙られたイカゲソの寿司好きでした

人生やカフェの二つのティーカップ

コロッケを食べて安心して寝たい

さとうきび畑に甘党がお礼言う

いずれ死ぬ人生ひとまず胃を満たせ

いやなもの集めた弁当なんて嫌

ヨーグルト良い香と思えばつくりもの

香りこそ茄子の命と通は言う

死ぬときに冷蔵庫のプリン思い出す

世知辛いだが旨い飯食っている

週末に鰻が我が家にやってくる

おにぎりの値段上がって気が滅入る

男児時代に飴詰まらせて飴怖く

日の丸の下わかめと昆布と寒天よ

芸術家足らんとパンの耳齧る

筍よ成長痛がじきに来る

死んだ人しか味知らぬ毒茸

栄養剤やたらびっしり文字書かれ

コーヒーは農園の奴隷思えば苦く

ユーミンじゃなくムーミンのマグカップ

喉元を過ぎても火酒の強いこと

やつれてる口へ酒瓶突っ込めよ

茎わかめしゃぶれば余計孤独な夜

蜜柑飴にて候と言い給え

仮の世でコカコーラ派かペプシ派か

ボンタンアメふにゃふにゃに弱る暑さです

ピーマンよここ肩ですか尻ですか

酒知らず甘酒は知る二十六

おいしいと控えめながら自称する

水の味そのまま土地のものの味

飲んべえになると言われてならなかった

ワイン嗅ぐ鼻これパンの香りだと

枝豆の毛で唇がくすぐられ

曲げわっぱこだわる男の弁当だ

くつろごう西瓜の種も数えずに

夕焼けの色の西瓜は寂しいね

伯父もまた西瓜は種が嫌と言い

だんだんと味青臭くなる西瓜

種包む西瓜の果肉惜しむけど

雨をよく吸った西瓜と見えますな

戯れに西瓜の種を噛んで吐く

西瓜置くには品のない柄の皿

本物のご飯懐かしむ世が来るか

氷舐めて薄情な世の味思う

毒見にと知らぬ飲料あげました

大量のコーヒーゼリー買った祖父母

不景気と政治で飯が不味くなる

カニカマがふと魚臭いと鼻が言い

珈琲を舐めればなるほど要は焦げか

人のため毎秒死んでゆく家畜

刺身買う財力嫉妬されるかな

甘すぎる恋にレモンの酸味足す

牛知らず牛肉は知る乳も飲む

数珠鳴らす坊主よ高い酒だなあ

焼きトマトぴらりと皮が萎んでる

口きゅっとかくも酸っぱいトマト食う

一切れのピザのチーズに心は笑う

ほぐしてる焼鯛の身はまあ寂しい

夏バテに効くうんと塩かけた鯛

焼鯛よお頭煮られて怨み目だ

いまならば林檎掴めば潰しそう

幽霊の思い残しは飯のこと

モロキュウをばりりばりりと歯で砕く

アボカドにぬるりと包丁沈むのだ

釉薬光ってまるで濡れた茶器

すぐ沈む抹茶の粉を点てたのだ

食べ物を全身に回す竈の火



 自由律俳句句集 我が影に礼する より


持ち帰りでも鉄板の熱蓄えたお好み焼きである

ヤケドした舌もてあまして珈琲牛乳飲む

炊飯器の湯気が外へ外へと新しい湯気に押しのけられてゆく

炊飯器の蒸気孔からかすかな米の匂いするか

米びつ開けて計量カップ入れる仕草手慣れている

静かなオレンジから半円の影垂れている机です

静物のようなすこし細っそりした洋梨初めて見た

夕方仏壇のお供えの米干からびていた

机のそばで本読んでると皿のニラ炒めの匂いがやかましくて読んでられない

ガスコンロの青い火の中ひゅっと噴き出す赤い火

洗い物が終わって寂しさ故か生ゴミのジャガイモの皮見つめる

三角コーナーの卵の殻を指でつっつく夜更けの台所

モッツァレラチーズ一塊が水風船みたいに袋で浮いていた

モッツァレラチーズの脂が普通の包丁に付いた

モッツァレラチーズもっちり奥歯が潰してゆく

刻んだモッツァレラチーズと刻んだトマト一緒に手づかみして食うた

モッツァレラチーズの牛乳の油分の濃い香りがしばらく口から抜けない

台の炊飯器の湯気傾いた、いつのまにか戻った

いひひ割ろうかね茶碗が綺麗に磨かれ過ぎているね

シンクで舟のように玉ねぎの皮滑る水の上

すぐそこの台所で刻まれる玉ねぎは香りも白く灯明るく

逆さにして牛乳パックの余りの一雫舐めた甘かった

糊でくっついた牛乳パックの口開けるとと乳の匂い噴いた

牛乳パックすすいでべしゃって捨てた水が白く濁っていた

夜の台所で冷凍パスタ食べて星のように静かな部屋に帰って来た

夜食の皿と箸を洗ったあと戻ってきた余りに静まり返った部屋

なめし革のような丈夫そうなバナナ一房熟れていない

ケチャップの包装にこれでもかとたくさんのトマトの絵

歯糞の米ほろっとふやけている

歯糞の米もごもご頬の肉と舌で食べる

何も釣れないティーパックぴょんぴょんと紐という竿跳ねさせる

とうもろこしの粒凹んでどれも臼歯か

どっかから母がしめじを出してきた

でかぶつの父が沢山米を炊いてくれと言う

蒸し暑い夜は淋しいよ鍋とフライパンがそこにある

煉瓦造のステーキ屋の中に吸われてゆく赤シャツの男

口ゆすいで米粒の成れの果ての歯糞ぴっとゴミ箱へ弾いた

お冷の六面体の氷がすべてほぼ六面体のまま縮んだ

がらんどうの胃袋に水流し込む

突然水入ってきて空っぽの胃袋にゅるにゅる鳴く

器につけ汁で汚れた割り箸が残った

冷っこい水だね寒天で固めて水の刺身なんて通で粋な食い方したいね

麦茶よく減る大型容器の結露

台所の灯りよラップかけられず小皿の五枚の胡瓜の輪切り

胡瓜の輪切り干からびて細い管が静脈のように浮いている

ゆらゆら製氷皿から出して入れた氷がくらげのように透けてる

歯よりも氷美しい

お茶の氷丸くなった

かっかっと器に箸ぶつけて汁飯啜って盗み聞きしている

味噌汁に火の通っていないキノコの香り

ずんぐりした手で唐揚げから蝿払う露店のおじさん

水でやや水晶的な青み得た底の素麺

シンクで流れていないふやけた米粒四つと発育不良のしめじ一つ

ぬるい麦茶が残っていて勿体無くて飲んだ

台もなく飲みかけのコップ置く床である

人の部屋訪ねて洗いたての水道水の雫拭いてないコップじかに床に置く

時々どこかで赤い火噴く青いコンロの炎の輪

あの海のように深い緑色をした胡瓜の皮をご覧きっと四十代の深みある思考しているよ

結露は美しいか醜いか所詮単なる水だ

傾けたペットボトルのラテから泡昇る

菓子クズぽろり

胃袋に満ちた茶の冷たさが食道伝って昇ってくる

何ヶ月も先の旬よ血色の悪い小さなじゃがいもばかり箱にある

ラテの水面より下に結露出来ている

結露床に落ちたときぼたぼた鈍い音した

結露も冷えているのか布ごしに腹に触れた

炊飯器の熱い釜に米が一粒しか残っていない

落花生の殻割るような飴噛み砕く音

支払い済ませて外へ出ればとても小さな蟻が横切る

店の渋い緑茶と橋が架かった離れ小島

少しずつ珈琲に注いだ牛乳の渦の尾の模様動いている

タンブラーの氷七個くるりくるりと互いにくっついて回る

ぬるいラテぶっかけてぴしぴし氷鳴ってすぐ溶ける

タンブラーの出したての氷七個にぬるみきったカフェラテざばりとかけてしまう

生ごみに美しい氷捨ててしまった

たった一個の氷は短命なダイヤモンドの宝石と呼べよう

塩振って皮ごと茄子揉んだ

歯できゅっとイカそうめん裂こうとしてもぶにりと逃げる

剥き身の蒸し浅利はむはむ箸で几帳面に拾って食っている

真っ赤なベロの襞一つ一つに安物の珈琲の渋みがまとわりついているのだ

蓋開けるまでもなく炊飯器の蓋開いていてががーん米が少しもない

歯当ててぎしぎし氷が少したわむのは元は水だからか

ひとりでに玉となる机に零したわずかな麦茶

笊のミニトマト一つ貰われてゆく

コップ置くたびにずれて新しい結露の輪成る机です

暑さでやつれてきて汗の塩分で漬物になりそうだ

そっと指で透明なコップのコーラ持てばぷちぷち泡四つ五つ浮かんで鳴る

変な所から歯ぽろり抜けた訳ではなく硬い枝豆の欠片だった

百均らしきお盆の漆モドキが凹凸のままに朝日を跳ね返してる

ちょっと前まで氷だった水は少し味が深みがあって甘露だ



 自由律俳句句集 すべての指よ生き延びて日毎の爪新しくなる より


鯛の刺身こりと小骨のような筋噛み当てた

右に左にお玉傾けて鍋のカレーの残りかき集める母である

丼の器にご飯とカレー半々に入れた父はもみあげも白髪か

死にたい言いたい口でご飯食べて苦しむ

バンズの胡麻一粒ぴったりはさまった下の前歯を舌で押していた

目は熱が判らないので触った器のトマタマの熱さに指当たって始めて驚く

糸ほどな血管少し浮かんでいる鯛の刺身ぐむぐむと歯を押し返す

深夜冷蔵庫から出した期限が昨日までの色が悪くなった鰹のたたき

灼熱の室内のゴミ箱に空っぽの野菜ジュース一本半ば腐らせかけて甘い香り

摘まれた美しいミニトマトしばらく飾られた室外機

火で炙られて尾をひっこめるウミウシのようにぎゅううぷるぷると縮むホルモン

店でレモンチューハイ飲んでなお疲れた母は母の顔になって笑う

焼肉店で大盛りご飯を頼んでは父はぐわと照れ臭げな顔で茶碗渡して半分くれるのだ

向こう机の椅子座ってる誰かの箸からこぼれるポテトサラダ

揚げ物出してぴたと油静かになる

くらげのように美しいガラス皿やや曇ってコーヒーゼリーの汁少し小匙一本

豚の生姜焼きの脂身で口を汚したあと氷で冷えたコーラ飲めば脂が唇でべっとり固まる

高い棒に青蔦がふさふさまとわりついて根元は素のままでつくねの串のようだった

照明で小さなお盆のコップの取っ手が真上の照明に短い棒の影となる

注いだ水激しく揺らしミルクティーの澱溶かしてペットボトル捨てる

がんがんと癇癪任せに床殴ったペットボトルが店の棚では見ない美しい非対称性得た

久しぶりの熱い茶一口飲んで飲み物で涼みすぎた胃袋温まる残暑だ

立秋前日焔のように湯気昇る味噌汁啜れば舐め取った舌に捺す熱い麩の判子

明日立秋の夜か味噌汁に沼の妖怪かと箸動かせばまとわりつくとろろ昆布

蛇口から出した初秋の水道水を口に含めば柔らかく淡く心地よい

同じ空の下にて飢饉ありし世ぞ西瓜の皮一玉分あり赤い層と青い層の間じゅるじゅるしゃぶりつく

ピッチャーの氷による冷たさも水の味さ

今日も割り箸小気味良く割れた

先にご飯白く輝いて届く向こうの客

救急車をよそに窓際の席で遅めの昼食取る店の流れる音楽

激しい夕立をくぐり抜けて焼き鳥の香りする街を去る

冷蔵庫へ冷やされにいった暑い八月の一夜の牛肉の薄切り三枚



 自由律短歌歌集 須臾の風 より


押し込められたゴミ袋から溢れた割り箸二本と発泡スチロールの皿少しソースが付いていて不愉快な見た目をしていた

強盗団の拳銃のようにごとりと炒め物が乗った器差し出され震えない両手で手前に持ってくる

ちょうどマーブルチョコのようで冷蔵庫から剥がして食べたくなる黄色と橙色の丸い艶々した磁石だ

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 自由律短歌歌集 ハイスピードカメラの眼 より


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真夏の瑞々しい蛇口の水に濡れてまだ乾かずに光っている朝の三角コーナーの中に麦茶パックやピーマンの蔕や種や白い卵の殻やくたびれた茶色い斑のあるバナナなどが混ざってある上に何か皿を覆っていたらしいくしゃくしゃに丸められて寒天になりすます一枚の濡れたラップが綺麗だった

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三角コーナーで縦に切られたあとくり抜かれて捨てられたアボカドに皿洗いしているとき親が食べなかった鶏肉の皮がたまたま入り洗剤の泡を流すとまるでグロテスクな外側が木の皮みたいで緑色した垢が付いた浴槽にぷるぷるの顔がない肉塊が浸かっている得体のしれない泡風呂が台所に出現してしまったのだが深夜再び見るとまだ泡が残ってやつらはくつろいでいたのだった

台所で辛いねえと真っ白なしゃもじに呼びかけて「俺に言われても困るよ」と焦らせたという小噺のような妄想をしつつまことに夜というものは静かであればあるほど床や壁が深雪のように音を吸い込んで電化製品がかたかたとまたはビービーと鳴るばかりでちょっと擬人化の魔法を使えば昔話のように本も鞄もコップもコーラも書類棚の紙も洗ったフライパンも眩しい灯りですら雄弁な沈黙で囁やきあうのだった

水滴一つ付いていない乾いた青磁色の小鉢の円の中に清楚な胡瓜の斜め切りが七枚大きな花弁が散り重なったように添えてあり一枚目はこちらから見てやや奥側の底に敷かれており二枚目は手前にズレて方向は斜め右下に剥がれており三枚目は四枚目と一ミリもズレず微かに切断線を覗かせており四枚目は胡瓜の種がある切断面を晒しており五枚目はぱたと手前に崩れ落ちており六枚目は五枚目に吸い付きながら横たわり皿に落ちており七枚目は唯一一番上で光浴びて顎の細い老人のような顔していてすべて萎び始めた中で皮は干からびてぱきぱきで断面はかすかに水分で光るのみだった

机に二時間ほど放置していた小皿の胡瓜の斜め切りがやや萎びて乾いた肌をしていたのだがサランラップをかけて一時間ほど冷蔵庫で冷やし直した胡瓜は薄い身のなるべく奥から自らの細胞の水分を貧困の中で飯を分け合うようにそれぞれ広げていてどうせ私に後でばりばり歯で刻まれて食べられるとも思わず健気に気の所為程度に瑞々しさを回復させていた色の寂しくも美しいことよ

一言も言わずしたたかに匙突っ込んで祖母と父食う細長い容器の洋酒が少し混ざったゼリー吸う音がなんだか私的な領域で行われる出来事の音のようで数十秒左耳で聞いていた無常な世の心ない扇風機の羽根恐ろしい時間であった

ドライブから帰ってきて車内で飲んだ二本の飲料を面倒臭いがさっさとゴミに出そうと思って片手で二本掴んでラベル剥がすため少し手首で傾けてびりりと剥がした瞬間最も傾斜がキツくなって片方ペットボトルの一口分のミルクティーが一緒に沈んできてプラスチック越しなのになんともひやりと人差し指の体温をわずかに奪ったのだった

黄色いプリンを落とした、ペチャリという不条理な一瞬の音楽。あーあ(なんで人は泣かなくてはならない)。通りすがりの男が靴下で踏んで下から染み込む甘い香りはかくも楽しく他者の失敗を味わう。私は拭くことを諦めて崖から岩礁へ身を投げた、さながら柔らかい二百円もするプリンの価値を示すかの如く。

元々毎日ストレス性の食欲不振で夜しかご飯食べていなくて胃がぎゅうと凹むほど腹が減って今日一食目のご飯を食べたいが精神が普通の二三倍の重力で潰されそうな日が続いてとうとう帰宅して少し後癇癪を起こしてしまって物に当たった後で気力と体力がレッドゲージまで減っていて茶碗と箸とおかずを出す気力さえなくかといってカップ麺はひもじい上に脂っこくて嫌という贅沢な甘えっぷりで一日米一粒も食えないことがある浮浪者の気持ちが少し身に沁みて分かった気がしたが辛くて柔らかい布団でですら眠れず日付が変わるまであと十二分ほどに追い詰められた

心を癒すはずのドライブから帰ってきて状況次第ではおかわりをわがままだと言うように淋しさや原因不明な辛さ故にもっと車に乗っていたかったことを内でも外でも言葉にせず居間で座っていて平気なふりして自分の苦しみを誤魔化してじゃじゃ馬を撫でるように過ごしていた反動で統合失調症や発達障害が健常者にはある枷を外していたとはいえこの火が点きにくい癇癪爆弾たる俺の導火線を燃やして床をがんがん平手やペットボトルで叩いたり階段で雄叫びを上げて濁音の「あ」を深夜の閑静な住宅街の一角で叫んだり恐ろしいことに一瞬何度も逡巡した衝動が気の緩みで漏れて金属タンブラーを中身ごと叩きつけてからーん!からーん!と響かせたり一時的に楽になったとき話しかけていいよと呟いたり少し母がキレて醜い怒りの顔になって夜中なのにドライブにでも行こうかと怒鳴ったり父は静かに影に徹する最悪な一日で一食も取れず布団を抱きしめて久しぶりにこんな世に産まれて生きていることに大泣きして涙が乾いて心が冷めて「ひっ」と世の暗黒に怯えたりして案外安眠できた翌朝清々しく目覚めたがさすがにヤバいと理性が判断するものだからタッパーの昨日の残りご飯に生卵落として醤油かけて雑な卵かけご飯食って特にストレスや苦悩の水位が下がることなくまた布団で二度寝してとても嫌なグループホームのショートステイへ行く時間を待つのだった

グループホームの早い夜八時消灯すぐ担々麺らしきカップ麺とラップに包まれた温めた握り飯出して食べだしてベールを脱いだように急にごろっとしたジャガイモみたいな地を出して砕けた会話始まる二人のそばにゆらゆら来れば無視されるでもなく何かこちらから言うでもなく本当にただの風になった気分で夜勤手当が倍になるだと体質がブラックじゃないですかとか権力っ…っていったらあれですけどといった明るい話始まり一度相槌打つように一言言って去りこうして自由律短歌日誌を閉じているのだが

今さっきのように牛乳パックの口とカフェオレの水面離れていなければ重力に従った落下の勢いがほぼ零で一瞬自分の眼が驚いたのだが零点三秒くらいの人にとっては非常に短いけれど形成す液体にとって非常に長い間マーブルチョコのようなやや平たく球体な牛乳の雫の白玉が作られつつある珈琲牛乳の表面で確かに静止して沈まずに自ら表面に置かれていた時間があってそのまま中へ沈んでいった

台所でタンブラーにきんきんに冷えた芳しいコーラを注いだら最初の泡の蓋の下で時計回りの渦成していたらしく茶色い泡の狂騒が静まると水面は劇の舞台のように中央が主人公足るつむじ状の渦の長く曲がった複数の筋が踊っていて周りは無数の小妖精の拍手喝采のように湧いて止まない小さな泡が絶えず弾けてぱちぱちと鳴り中央から役者が去ってもこの小さなコップの舞台は歓声がしばらく鳴り止まず小さくささやかな泡が主に水面の外周で浮かび続けて自室の机に置いて布団に座ってもひそひそと泡の囁きが妖しく切なく響く夜中なのだった

もう飲み干してほのかに色を残す形で注がれていたコーラが薄まって残る安価なプラスチックの大きなコップはどこか優しい樹脂的な伸びやかな柔らかさしているためにお盆が終わる今日に帰ってきた先祖の御霊があの世に帰るまえに悪戯として手伸ばして遊ばされたのか水道水の水を凍らせた安い氷等が突然「がらっ」と音を出して上下の序列変えるように土台の氷が溶けて小さくなったのか一二個崩れる音がとてもいい意味で安っぽい懐かしい響きしていて耳の奥で残り続けるその音は家庭的かつ自宅的な郷愁を誘うものとして部屋の壁や天井に引っかかり続けて脳で反芻されるたびに生活という雨粒の波紋として心で広がる甘酸っぱい一人で生きる人間の悲哀の音色なのだった



 自由律川柳句集 自分に一番がっくりしている自分 より


未開封のお手ふきに薄い灰色でセブンイレブンのロゴマーク

ふーと炊きたてのご飯に細い息かける母

もう全部米食べていいかと訊いてくる父

デベソのようにデコポンの蔕周りの皮が盛り上がっている

汚いオレンジとちょっと綺麗なオレンジ並ぶ

遠慮せず見た目が良い方のオレンジ貰った

小皿にオレンジの汁少し溜まっていた

出したコップ洗わずお暇する用事

にんにくでも食べたのか朝っぱらから元気な車だ

またねと珈琲飲んだコップ置く

雫払ってコップ持つ

スーパーの寿司に付いていた醤油袋ぬめぬめ

祖母はモカの香りにさえ強く感動し

レジで前の人が酒飲みと分かるカゴの塩辛

食品買って生きたことがコンビニに録画されている

弁当だけ消えて割り箸とお手ふき

三角コーナーに命果てたバナナの皮垂れている

千円札なんて大金しぶしぶ出す美味い飯のため

フライドチキン消えて皿には細い骨残るのみ

ひょいとバッグから簡単に抜けたペットボトルは空だった

今朝より斑点が増えたバナナ剥き頃だな

足元の保冷バックにチャイとラッシーとラテとコーヒーと麦茶なぜか揃ってる

母にちょうど今、炊事代わろうかと言いかけてやっぱり怠けている

父がいいなぁと白髪と薄毛がある癖にあどけない言い方で刺身を羨まれた

小さな机に夜食の宴一人招かれる

一人で沢庵十切れほど食べ尽くす

沢庵しばらく食い続けたら大根の香りに気づいた

消費税込みで金額が変わる単なるパンが可哀想だ

この頃義理の父母や夫の健啖ぶりに呆れる母である

ぺろりとデコポン一個平らげた焼きそば一人前食べた後の父である 

神のように目玉焼きの大陸を広げる

珈琲に牛乳注いで瑪瑙のマーブル模様壊さず眺めている

ゼリーが逆さまに皿に入れられて透明な富士山みたいだ

火の上の鍋の水のように一粒一粒泡が脳天へ昇ってくる苛立ち

静かになっても怒りの油は高温だ

心身病めば飯の香りにうっと鼻塞ぎたくなり

鳩の下痢みたいな粒マスタードまみれになった揚げ物が箸でつままれている

木と土の香りする森の風をお茶のように楽しむ

いくら丈夫だからってふかふかの土が良い根野菜

アイスモナカ持つ祖母の四本の指の爪艶々と血行が良くて美しい

お天道様さまよ祭りでは飴細工が見事です

お月さまよ祭りでは焼きそばが焼けています

いい町だ暮れると居酒屋の焼き鳥の匂いがするとは

ドラッグストアの棚にお菓子や食パンあった

キムチの汚れ拭いたティッシュが色のグラデーションでキムチみたいになる

百円もしない海藻とこんにゃくのサラダ乙な味してる

芯が生温かい冷やしたばかりのペットボトルジュース

牛乳はバターの元だから甘い脂肪の味する

菜っ葉の底に一枚埋もれていてナルトを数えまちがえた

洗われた茶碗に米食えない家なら埃溜まろうな

フィルム取られ底の澱洗われて名前を失うペットボトル

ハンバーガー食べるように大顎開けさせられた巨大洗濯バサミ

洗い場の皿にある父の箸と母の箸に私の箸をそっと並べた

ネタとシャリに巻かれてある海苔 

ブリトーのチーズの脂じゅわとふくよかな腹に落ちた

歯型が付いた食パンどんどん食われて消えた

人を滑らせようと床にマヨネーズ塗る死神

暖簾かけてマスク取った職員は弁当食べる

いつまでもトースターは熱い訳じゃない

スポットライトを今年も浴びてるね電子レンジ

笊があると素麺茹でたくなるね

ハンバーグの出生の秘密ひそひそ語る老人

ソーセージ乗っていた皿に膨大な油浮かぶ流し台

国会議員は居眠りするな辛子チューブつっこむぞ

脳にハリセンのようなカフェインの平手打ちだ

プレパラートでもキャビアでもなくアスファルトでもなくなんだっけこれ、ああ!「オブラート」だ

野菜炒めのもやしをじゃくじゃく大きな顎らしく間を空けて噛む父

不幸をふりかけて今日の晩飯泣いて食う

しゃもじは肩甲骨に似ている

虫歯が出来る罪があるからこそお菓子は素晴らしい

せこせこ汗出し頭使いちっぽけな弁当食う仕事は嫌だ

泣いていたらほらまずは肉を食えと言うような人が好き

冷たい触手をだらりと垂らしている鮮魚コーナーの蛸

漏れてくる茶碗の音美しい知らない家の午前六時

三角コーナーのぬめりが住処の菌の気持ちよ

しょせん凍らせただけでは劣化するご飯である

焦げ目の斑でポン菓子が虫の幼虫に見えると言っちゃだめだよ

映画観ながらポップコーン代わりにポン菓子があればいいな

胡瓜の断面シックスパックの腹筋のように種並ぶ



 自由律川柳句集 一人でだって踊ればいいさ より


最後残っていないか不透明な容器ふりふりしてから車の席に置く

ヨーグルトジュースの容器ちょっと振るが音しない

ビッグマックに五百円出してレタスやソースこぼしてぺろり

風景に見惚れて逆さにペットボトル持ってしまった

コーラは口を真一文字にして渋い眉を作って飲むのが粋だよ

飽きもせず飯食うとき人の耳は真っ暗な穴している

食べ物は床に一度落ちればたちまちゴミと化す

ペットボトルの結露の汗べたべたなぜ緊張している

父立ちながらばりっと食パンに沈む前歯

母はテレビ点けて弁当の余りの朝飯

フロスせず歯磨きしたあとスーパーの刺身の海藻が歯に歯糞としてはさっていてもぐもぐ噛めば磯の香りがまだちゃんとするのだ

消しにくいケチャップで人生の意味と理不尽への怒りを白いTシャツに書いてやるか愛と平和のハートマークや中指立てたドクロとか

寄り添おうとした虚ろなトートバッグのペットボトルあっ倒れた


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