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俺も娘の髪を結えない『ワン・バトル・アフター・アナザー』感想

公開からだいぶ時間が経ちましたが、ようやく『ワン・バトル・アフター・アナザー』を観ることができました。

この映画を観て最初に感じたのは、これはアメリカという国の“分断された父性”を描いた作品だということです。レオナルド・ディカプリオ演じる「ボブ」と、ショーン・ペン演じる「ロックジョー」。
二人の父親は、まるでアメリカ社会の左右の極端な立場を象徴するように対置されています。

ボブは元・左翼革命組織の一員で、社会の変化に取り残されながらも、娘の「ヴィラ」を愛そうと不器用にもがく男。
一方のロックジョーは、白人至上主義の思想に囚われた右翼的マッチョの警官であり、ヴィラを“自らの立身出世の道具”として支配しようとします。

ボブは「変化に付いてゆけない男」、ロックジョーは「変化を拒絶する男」。その間に立つのが、チェイス・インフィニティ演じる「ヴィラ」という一人の少女です。彼女は、過去と未来、支配と自由、愛と暴力――そのすべてを背負わされた“アメリカそのもの”の象徴のように見えました。


ーーーーーここからネタバレーーーーー






■アメリカという「父」の罪

ロックジョーは、白人至上主義者の結社に加わるため、自分の娘を犠牲にしようとする―まさに権力に取りつかれた狂気の権化です。
彼の存在は、アメリカ社会に根深く残る“父権的暴力”そのものを体現しているようでした。

印象的なのは、ボブが学校の面談中にトーマス・ジェファーソンを「クソ野郎」と罵る場面。
ジェファーソンは自分の所有する黒人奴隷を妊娠させ、自らの娘を産ませながら、その娘を奴隷として扱っていた人物。つまりこのシーンは、アメリカという“国家の父”が孕む根源的な暴力性を暗に批判しているのです。

ロックジョーは、その歪んだ遺伝子の末裔。
彼の姿には、「自らの支配と優位を保つために、愛する者を犠牲にする父」の残酷な原型が見えます。その意味で、ヒロイン・ヴィラの存在は、白人男性の暴力と支配の歴史の中で傷つき続けてきた“アメリカそのもの”の象徴と言えるでしょう。


■涙する父親――ボブへの共感

そんな中で、私の心を強く揺さぶったのは、ボブが娘の教師との面談の場面、悪態ばかりついていた彼が、娘を褒められた瞬間に思わず涙を浮かべるシーンです。どんなにダメな父親でも、自分の娘を褒められて喜ばないわけがありません。その瞬間、彼の中の「父性」が、純粋な愛として顔を出したように思いました。私はそのシーンに、自分自身を重ねてしまいました。

私にも一人娘がいます。劇中でボブが「俺は娘の髪も結ってやれない」と嘆くシーンがありましたが、私も同じように、不器用さを理由に娘の髪を結ってあげたことがありません。

けれど、彼女は私の長い髪を三つ編みに結ってくれます。
その瞬間、私は彼女の「父親」であると同時に、「ケアされる存在」でもあるのです。その優しさと距離感に、ボブとヴィラの関係が重なって見え、静かに胸を打たれました。
嗚呼、いい映画だなぁ…


■対照的な父親像と、娘の主体性

もう一方の父親ロックジョーは、「化粧はちゃんとしろ」と命じ、ヴィラを自らの支配下に置こうとします。それはまさに、父権の呪縛そのもの。彼にとって“娘”とは、所有物の別名でした。

その対極にいるボブは、不器用ながらも娘の選択を尊重しようとします。
この対比が、「支配する父」と「理解しようとする父」という二つの父性の形を際立たせています。

そして何より、この映画がユニークなのは、二人の父親が直接対決しないことです。あるかな?と期待していたボブの爆破シーンも、ヴィラのカラテアクションもなく、ヴィラ自身が機転を利かせ、自らの力で窮地を脱し、その間にロックジョーは勝手にリタイア。
ヴィラはボブと再会を果たします。

その時、出生の真実を知ってしまった彼女は、ボブに「あなたは何者なの?」と叫んでしまいます。ボブはただ、両手を広げ、「もうどうでもいい」と言って彼女を抱きしめる。そこには「生みの親」も「育ての親」も関係ありません。あるのは、血縁を超えた“無償の愛情”だけでした。


■父として、手放すということ

そしてラスト。
母の意思を継いだヴィラは、革命の闘士として戦う道を選びます。ボブは心配しながらも、それを止めることなく送り出します。
彼はただ、娘が自分で選んだ道を信じ、静かにその背中を見送りました。

その姿は、家族がそれぞれの道を歩み出す「解放の瞬間」に見えました。
ボブが不器用にスマートフォンをいじるラストカットは、まるで彼自身が、理解できなかった世界とゆっくり向き合おうとしているかのようでした。

私はその姿に、自分の未来を重ねました。
いつか、私の娘も自分の道を歩み出す日が来るでしょう。そのとき、私はどんな表情で送り出せるだろう。
この映画のボブのように、恐れずに「彼女の背中を見送る勇気」を持てたら――そう思わずにはいられない「父娘映画」の名作でした、お勧めです!

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