作法の前に知っておきたい、日本料理のこと
この記事について
日本料理の席で、こんなふうに感じたことはないでしょうか。
「作法は一応調べた。でも、なぜそうするのかは分からないままだ」
箸の持ち方、器の扱い、いただく順番。調べれば出てきます。
けれど、覚えた作法は、覚えた形のままでは応用が利きません。
少し違う場面になると、また分からなくなる。
私は、ここに原因があると考えています。作法だけを覚えようとすると、
覚えることが際限なく増えていきます。 けれど、その作法が生まれた背景を知ると、覚える量はぐっと減ります。
「なぜそうなっているのか」が分かれば、そこから先は考えて動けるからです。
この記事では、作法そのものではなく、その手前にあるものを扱います。
日本料理は、いつ、どこから始まったのか
私たちはいつから箸を使っているのか
精進料理、本膳料理、懐石料理、会席料理。この4つは何が違うのか
なぜ日本料理は「五味・五色・五法」で語られるのか
大安や仏滅は、いつ生まれたのか
「旬」とは、そもそも何を指しているのか。
この記事を書いた理由
これは、私が開いている「食事を楽しむマナー講座」の和食編で、
実際に受講される方へお配りしているテキストの内容です。
この講座は、東京でしか開いていません。
ありがたいことに、遠方の方からお問い合わせをいただくことがあります。けれど、そのたびに申し訳ない気持ちになっていました。
日本料理は日本中にあるのに、その話をお伝えする場が東京にしかないというのは、どう考えてもおかしなことです。
そこで、講座にお越しになれない方にも同じ内容をお渡しできるよう、
記事という形にしました。 お住まいの場所で受け取れるものが変わってしまうのは、避けたかったのです。
そしてもう一つ。
これから日本料理を学ぼうとしている方、日本料理に興味を
持ちはじめた方に、まず読んでいただきたいと思っています。
料理人を目指す方、和食の店で働きはじめた方、着物や茶道をきっかけに
和の世界に触れた方。入口に立ったときに知っておくと、
その後に学ぶことの意味が変わってきます。 献立の見え方も、
季節の受け取り方も、ここを通っているかどうかで違ってくるはずです。
私自身、この内容を学んでから、日本料理についてもっと知りたいと思うようになりました。
覚える必要はありません。読み物として楽しんでいただければ、
それで十分です。 そのうえで、いつか日本料理の席に座ったとき、
目の前の一皿が少し違って見えるようになれば、この記事の役目は果たせたことになります。
なお、ここに書くことの多くは「そう言われている」という性質のものです。文献によって年代や解釈に幅があるものも含まれます。断定を避けて書いている箇所があるのは、そのためです。
日本料理の起源
日本料理の始まりは、驚くほど古くまで遡ります。
『日本書紀』に、こんな記述があります。約1800年前、4世紀前半頃のことです。磐鹿六雁命(いわかむつかりのみこと)という人物が、第12代天皇である景行天皇に、白蛤(うむぎ。ハマグリの古名です)と鰹を料理して差し上げたというのです。
『日本書紀』は720年に国家が編纂した、日本最古の正式な歴史書です。
そこに料理の記述が残っているというのは、それだけ食が重んじられていたということでもあります。
磐鹿六雁命は、いまも千葉県南房総市の高家(たかべ)神社に
祀られています。料理の神様として、料理人の信仰を集めている神社です。
もう一人、日本料理を語るうえで欠かせない人物がいます。
藤原朝臣山蔭中納言政朝
(ふじわらのあそん やまかげちゅうなごん まさとも/824年〜888年)
です。
山蔭は、料理好きで知られた第58代・光孝天皇に仕えた人物で、
四条流包丁式の創始者として知られています。日本料理の始祖、
あるいは中興の祖として、京都市左京区の吉田神社に祀られています。
包丁式というのは、魚や鳥に直接手を触れず、包丁と箸だけでさばく儀式です。いまも神社の神事として行われています。料理が単なる調理ではなく、儀礼として扱われてきたことがよく分かります。
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