【検証】『君のクイズ』の音楽は、なぜ思い出せないのに残るのか|VFXと溶け合う“三島の思考”
映画『君のクイズ』を観たあと、サウンドトラックを何度も聴いている。
音が流れた瞬間に、映画の場面がはっきり浮かぶ曲がある。
その一方で、映画館では確かに印象に残っていたのに、サウンドトラックを聴いても、
「この場面で流れていたのは、この曲だ」
と特定できない音楽もあった。
この違いは、どこから生まれるのだろう。
今回は、映画の記憶をたどりながらサウンドトラックを聴き比べ、私なりに検証してみた。
たどり着いたのは、ひとつの仮説だ。
思い出せないのは、音楽の印象が弱いからではない。
むしろ映像と深く結びつき、音楽の輪郭が溶けてしまうほど、作品の一部になっていたからではないだろうか。
聴いた瞬間、場面が浮かぶ曲
『Mishima on the Train』を聴くと、電車の中にいる三島の姿が浮かぶ。
『Mishima and Emma』からは、二人の間に流れていた空気まで伝わってくる。
『Something Left Behind』『Before the Tears』『Our Answer』なども同じだ。
音楽を聴いた瞬間、映画の光景や登場人物の表情が立ち上がる。
これらの曲には、耳でつかみやすいメロディーやリズムがある。
だから音楽を入り口にして、映画の中へ戻っていけるのだと思う。
中村倫也さんが演じる三島の視線や、静かな立ち姿まで思い出せる曲もある。
もちろん、私が中村倫也さんのファンで、三島の細かな表情を追いながら観ていたことも関係しているだろう。
それでも、音楽と人物の感情が強く結びついていなければ、ここまで鮮明には浮かばない。
サウンドトラックを聴くことで、その場面の三島にもう一度会える。
そんな曲が、確かにある。
VFXで描かれた「考えている途中」
『君のクイズ』では、登場人物の頭の中で起きている連想や推理が、VFXによって目に見える形で描かれていた。
VFXとは、コンピューターによる合成などを使って、実際には撮影できないものを映像で表す技術のことだ。
一つの言葉から、別の言葉へ。
浮かんだ可能性が枝分かれし、つながり、また消えていく。
普段は見ることのできない「考えている途中」が、映像として目の前に現れる。
私が特に気になったのは、この思考が見える場面で流れていた音楽だった。
映画館では、映像と一緒に確かに音を受け取っていた。
ところが、自宅でサウンドトラックを聴いても、
「これが、あの場面の曲だ」
という正解にたどり着けない。
「おそらく、これではないか」
そこまでは絞れる。
けれど、自信を持って断定することができなかった。
聴いた瞬間に一つの場面が浮かぶ曲とは、記憶の残り方が明らかに違う。
映画を観たあと、三島の思考をもっと深くたどりたくなり、原作も読み返した。
映像ではVFXと音楽によって表現されていた「考えている途中」が、文章ではどのように描かれているのか。
映画と原作を行き来すると、同じ場面でも見え方が少し変わってくる。
▶ 小川哲さんの原作『君のクイズ』を読む
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