口腔ケアが後回しにされる“構造”の話
口腔ケアが後回しにされる“構造”の話
口の中って、後回しにされやすいんです。
介護福祉の現場で働いていると、何度もそう感じてきました。

食事、排泄、入浴、服薬。
優先されるケアはたくさんあります。
その中で「口腔ケア」は、どうしても後回しになりやすい。

やらなきゃいけないのは分かっている。
でも時間がない。人手も足りない。
気づけば「あとでやろう」が積み重なっていく。
でもこれ、現場の人が悪いわけじゃないんです。
私は以前、介護従事者向けの口腔ケア講座で講師をしたことがあります。
きっかけは、忘年会の席で突然の依頼。
誰も手を挙げない中、「これは自分がやるしかないか…」と引き受けました。
事前には「20〜30人くらいの軽いセミナー」と聞いていたのに、
当日会場に行くと、大会議室が満席。
70人近くはいたと思います。
正直、頭の中は真っ白でした。
私はもともと人前で話すのが得意ではありません。
それでも、準備してきたテキストや道具を手に、必死で話し始めました。

最初に伝えたのは、技術でも知識でもありません。
「今回お集まりの皆様、日々、口腔ケアに向き合ってくださってありがとうございます」
という言葉でした。
「私たち歯科衛生士は、訪問診療での短い時間しか関われません。
日々、入居者さんの口に向き合っているのは現場の職員の方々です。
皆様の存在があってこそ、入居者さんの口腔ケアは成り立っています。」
そう伝えた瞬間、会場の空気が変わりました。
参加者の方の表情がふっと緩んだのを、今でも覚えています。
その後は、実際の現場の話や、ケアの工夫、注意点などを
デモを交えながらお話ししました。
講義が終わったあと、参加者の方からこう言われました。
「衛生士さん、口腔ケアしてくださってありがとうございます。」
本来はこちらが伝えたかった言葉を、逆にいただいたんです。
その時、強く思いました。
これは「やる気」の問題ではない、と。
現場では、人手不足の中で、限られた時間で、
様々な利用者さんに対応しています。
・素直に口を開けてくれるとは限らない
・拒否がある
・噛まれることもある
・ケアそのものが難しい
その中で、毎食後に丁寧な口腔ケアを行うことは、
簡単なことではありません。
医療は「予防・継続」が前提です。
一方で介護、福祉は「その場の生活支援」が優先される。
このズレが、口腔ケアを後回しにしてしまう。
つまりこれは、誰かの努力不足ではなく、構造の問題なんです。
でも本当は、ここがつながっていないといけない。
口腔ケアは“歯の問題”ではなく、“生活の問題”だからです。
だから私は思っています。
医療と福祉をつなぐ人が必要だと。
どちらか一方ではなく、両方の視点で現場を見る人。
その橋渡しができる人がいないと、現場は変わらない。
歯科衛生士として見てきたこと。
福祉の現場で感じている違和感。
それを言葉にしていくことが、
誰かの生活を少しだけ支えることにつながると信じています。

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構造を言語化し、現場と制度をつなぐ
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