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都市型設計の回答──光を諦めない設計という「無謀」

都市型という名の“知恵の輪”

「敷地延長、南側3階建て、両隣ギッチリ」

四方が囲まれた都市型の敷地条件

この三拍子が揃った瞬間、建築家の脳内では“知恵の輪”が回り始める。正攻法では解けない。常識だけでは通用しない。そこに必要なのは、柔らかな発想と、諦めない気持ち。

誰もが「やめておいた方がいい」と言いたくなる敷地──だが、そんな場所にこそ、挑みたくなるのが藤本誠生という建築家だ。

「やりましょう」

と、穏やかな声で口にしたその日から、長く果てしない設計の旅が始まる。
半地下という水平思考

地上で戦っても勝ち目はない──そんなとき、藤本が選んだのは「半地下」だった。地上に出てるのに、地下。地下のようで、地下じゃない。

これが都市型設計の裏技のひとつ。

「半地下」とは、道路面より少し下げた高さに床を設ける構成。法規上は“地下”とされないが、高さ制限のある都市部においては、建築物の全体高さを抑えつつ、実質的に“プラス一層分”のフロアを得ることができる魔法のような手法だ。

もちろん、それは“魔法”などではなく、根気と構造と排水と高低差の緻密な設計によって実現される、汗と涙の結晶である。

「スキップハウス」という魔術的手段

フロアがズレる。リビングが上がる。寝室が下がる。階段を上っても、またすぐ階段。

初めて来た人は「え、ここ何階?」と混乱し、設計者だけが「これは1.5階です」と説明して回る。

スキップフロアとは、平面的に制約がある都市型地形で「空間を立体的に増やす」ためのマジック。特に敷地延長というタテヨコともに苦しい地形において、内部の動線と視線の抜けを立体的に繋ぎ、面積以上の広がりを体感的に確保する。

この手法において重要なのは、視線のリレーである。

リビングから階段越しに書斎が見える。書斎の奥からは外部吹き抜けに植えたシンボルツリーがチラリ。各スペースが「お互いの存在を感じながら、完全には干渉しない」関係性で構成されている。

こうして、暮らしの「気配の濃度」を絶妙に調整する設計が成り立つ。

外観からは階層がわからない計画

外部空間は諦めない設計

都市型の住宅で最も諦められやすいのが「外部空間」である。

プライバシー確保のため、四方を閉じてしまい、まるで“貯蔵庫”のような家ができあがる──しかし、それは住まいではない。

「空が見えないと、家じゃない」

という信念のもと、藤本誠生は外部空間を設計の中核に据える。

1.5階のリビングからは、大きな掃き出し窓を通して外部バルコニーに出られる構成。隣地からの視線を遮りながら、上空は大胆に抜け、圧倒的な吹き抜けの“もうひとつのリビング”が広がる。

屋上バルコニー

さらに屋上にもバルコニーを設け、リビングの上にある“開口”から光を1.5階に落とす。この縦方向の光の導入が、都市型住宅の閉塞感を見事に打破する。

屋上から光が降る──都市型設計の逆転劇

この家には、天井から“空が降ってくる”。

屋上建屋から光を入れる計画

光がリビングに届くためのトリックは、屋上に設けた建屋とその開口にある。屋上には小さな部屋が設けられ、その壁面には大きな窓。そこから入った光が、バルコニーを経由し、下階のリビングへと舞い降りる構成になっている。

住宅密集地という“不利”な条件が、この逆転劇においては「照明計画の一部」になっている。光をどう“奪うか”ではなく、どう“育てるか”。

これが都市型設計における、最も詩的な戦い方かもしれない。

プレゼンという名の時間との戦い

建築設計は“思考の長距離走”である。答えが出る保証はどこにもない。

悩みに悩み、断面をいじってはまた戻し、ボリュームを組み直しては寸法を詰め直し、気づけば夜が明けている。

それでもクライアントとのプレゼンの期日は待ってくれない。

“間に合わないかもしれない”という不安と、“まだ出し切っていない”という自責の念がせめぎ合う中で、ようやく導き出された断面図。そこに立ち上がるのは、3階建以上の居住性能を持ちつつも、2階建てに見える不思議な住まい。

都市の密集地にあって、空とつながり、風が通り、暮らしの居場所が上下左右に豊かに展開する住宅。

それは、ひとつの「不可能」に挑んだ記録であり、都市における“建築の希望”のような存在でもある。

都市型の未来は「制限」によって進化する

都市の家は、いつの間にか「制限」の象徴になってしまった。

防火規制、斜線制限、道路後退、近隣との関係、プライバシー、日照条件……挙げればキリがない。しかし建築家にとって、これらは「邪魔な障害物」ではなく、「設計を推進する燃料」である。

むしろ自由な土地に建てるよりも、都市の限界に挑む方が、創造性が試される。だからこそ、設計の達人たちは都市に集まってくるのかもしれない。

そしてこう言うのだ。

「制限がなかったら、逆に困る」

「ない」からこそ、つくれる空間がある

空がないなら、つくればいい。

光が入らないなら、工夫して落とせばいい。

外とつながれないなら、垂直に開ければいい。

都市型の家づくりとは、あらゆる“不利”を逆手に取りながら、「あるように見せる」「あるかのように感じさせる」高度な設計技術である。

住まい手が、「ここに建ててよかった」と思える瞬間。それは、大きな庭や立派な吹き抜けがあるからではなく、“制限の中で最大の居心地”を感じた瞬間にやってくる。

だからこそ、私たちは今日もまた、敷地延長の旗竿地の前に立ち尽くし、頭を抱える。

けれど、それが楽しいのだ。

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