造作キッチンという、小さな建築
家づくりで損しない人がやっていること vol.14
キッチンを選ぶとき、多くの人はショールームに行きます。
システムキッチンのカタログを開き、扉の色、天板の素材、収納の種類を選んでいく。選択肢は豊富で、見た目も洗練されています。価格もグレードによって幅広く、予算に合わせて選べる。合理的な買い物のように見えます。
ですが、建築家と家をつくるとき、キッチンの話はまったく違う入口から始まります。
キッチンは「家の中心」である
建築家がキッチンの設計で最初に考えるのは、キッチンの機能ではありません。キッチンが家の中でどういう場所であるか、です。
料理をしながら子どもの様子を見たいのか。来客と話しながら調理したいのか。キッチンは「作業場」として独立していてほしいのか、リビングとつながっていてほしいのか。朝の光の中で立ちたいのか、落ち着いた奥まった場所がいいのか。
これらの問いに答えることで、キッチンの位置、向き、高さ、まわりの空間との関係が決まります。機能より先に、暮らし方があります。
「造作」とは何か
造作キッチンとは、既製品のシステムキッチンを使わず、その家のために一から設計・製作するキッチンのことです。
大工が木を組み、左官がモルタルを塗り、鉄工所が天板を仕上げる。複数の職人の手が入ることで、世界にひとつのキッチンができあがります。
造作の最大の利点は、寸法と素材を自由に決められることです。使う人の身長に合わせた高さ、動線に合わせたコンロとシンクの配置、収納の奥行きと高さ。既製品では「ほぼ合っている」にしかならないものが、造作では「完全に合っている」になります。
小さな建築として考える
造作キッチンを「家具」ではなく「小さな建築」と呼ぶのには理由があります。
壁や床、天井との関係を設計しながらつくるため、キッチン単体で完結するのではなく、空間全体と一体化します。タイルの目地、天板の素材、背面の壁の仕上げ——それぞれが家全体の素材の流れと呼応するように設計されます。
システムキッチンをどれだけ高価なものにしても、「箱の中に収まったキッチン」の域を出ません。造作キッチンは、空間の中に溶け込みます。家の一部として、最初からそこにあったように見える。
経年変化するキッチン
造作キッチンに多く使われる素材——モルタル、木、タイル、ステンレス、真鍮——は、いずれも経年変化します。
使い込むほどに色が深くなり、傷がつき、独特の艶が出てきます。料理のたびに触れ、毎日手入れをしながら、少しずつ育っていく。10年後のキッチンは、新築時より豊かな表情になっていることが多い。
キッチンは家の中で最も長く、最も頻繁に触れる場所のひとつです。その場所が、使うほどに好きになっていく素材でできているということは、暮らしの満足度に直接つながります。
「設備」ではなく「場所」として選ぶ
損しない家づくりをしている人は、キッチンを「設備」として選びません。「どんな場所にしたいか」という問いから始めます。
そこで何を感じながら立ちたいか。どんな光の中で料理をしたいか。家族とどういう距離感でいたいか。その答えが、キッチンの設計を決めます。
造作キッチンは、そういう問いに丁寧に向き合った先にできるものです。設備ではなく、暮らしの中心としての場所。小さいけれど、家の中で最も設計の密度が高い建築が、キッチンだと思います。
