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【転生令嬢×書簡体小説】五人目のエレナへ

【机の上の手紙】

五人目のエレナへ

 あなたが前世では日本人だったことを信じて、この手紙を残します。
 あなたは「ドキドキ♡ラブパラダイス」というゲームの世界に転生しています。そして、今のあなたはエレナ・フローラという名前の悪役令嬢です。但し、今は優しく気高い令嬢として誰からも慕われるようになっています。
 エレナという令嬢の魂は、一年のスパンで入れ替わっているようです。あなたは五人目のエレナです。一年間エレナ・フローラとして生き、六人目のエレナにこの役を引き継がなければなりません。
 より詳しいことは私より前のエレナが書き留めています。今日はその場の流れに合わせて過ごし、深夜にこっそり寮を出て、首にかけている鍵を持って、地図に書かれた図書室へ向かってください。

四人目のエレナより

【本に挟まれた手紙】

 前略、この本に差し込んだ手紙を見た貴方は、果たして何人目のエレナ嬢でしょうか。私は三人目の彼女です。手紙を書くなんて、幼稚園の時以来です。文体が幼稚かもしれませんがお許しください。
 恥ずかしながら、私はおじさんだったものですから、乙女ゲームというものを遊んだことがありませんでした。ですから、正直一人目の方の日記や二人目の方が遺してくれた知識があっても、一体どうすればいいのか分からなかったのです。ただ、一人目の方が話の本筋を変えてしまったため、二人目の方はそれを元に戻そうと努力したようです。私はまだどうすべきか悩んでいる段階です。
 一応、私から見た周りの方々について記載しておきます。二人目の方がより詳細な人物紹介をまとめてくれていたのですが、色々あって私が灰にしてしまいました。今では何と馬鹿なことをしたのだろうと猛省しております。

・エレナ・フローラ嬢
 私のこと。ドキラブ学園という名前の貴族学校に通っており、寮に入っています。今は現代日本でいう中学三年生になる年です。原作では悪役令嬢をしておられたとのことで、二人目の方もそれに沿った言動をしていたようです。具体的には攻略対象らしき方々に迫ったり、主人公を虐めたりといった言動ですね。しかし、転生してすぐの頃に周りの使用人の方が「以前のお嬢様に戻って頂ければ……」と話しておられたのを聞き、いたたまれなくなりました。その為不器用ながら、普通の令嬢として過ごしているつもりです。

・アトラス王子
 金髪で透き通るような蜂蜜の目をしている第二王子であり、エレナ嬢の婚約者です。周囲の方々にいつも囲まれており、人望の厚さが伺えます。誰にでも優しい方ですが、二人目の方が舞踏会であえて無理に迫ったとのことで、私のことは警戒しておられます。無理もないことと存じます。また、私のこと以外にも悩み事を抱えているご様子です。二人目の時に話されたとのことなので、もう一度話を聞くとよいかと思います。私の時点では難しそうです。

・リノさん
 乙女ゲームの女主人公だそうです。とても優しく可愛らしい方です。これまでに行った数々の言動のためか、最初の方は私を怖がっておられましたが、丁寧に謝罪をした結果許して頂きました。平民の方でありながら、どんな方にでも明るく朗らかに接し、心を溶かしてくださいます。それから観察するに、彼女はアトラス様のことを好いているようです。優しい御方同士であるのならとも思うのですが、一人目のエレナもアトラス様を好いていたようですので、おじさんとしては複雑な気持ちです。

・ヘクター様
 騎士団の副団長をされておられます。筋骨隆々、口元が引き締まった御方です。何事にも熱量をもって取り組み、昭和脳の私としては好感が持てる人物です。正直、一番気に入っているかもしれません。彼も私のことを警戒されておられますが、何とか誤解が解けそうな雰囲気は感じております。時折、団員の方を通じてクッキーの差し入れを求めてこられます。どうやら乙女ゲームの方に料理を行う要素があったようですね。私は料理下手ですので、未だ差し上げられていないことが気掛かりです。

・テオドールさん
 銀色の長髪で、聖職者の糸目の方です。彼は随分年上であり学園の方でもありませんが、弟君が通っておられるため毎日迎えに来ているのだそうです。少し詐欺師のような口調をされていると感じるのですが気のせいでしょうか。平日の夕方に私の下に現れては、いくつか質問をして帰っていきます。恐らく私について探っておられるので注意されたし。

・ニコ様?
 果ての地に住む魔王様だそうです。とんでもなくイケメンであると二人目の方の資料にありましたが、私は一度も会っておりません。何か分かったら、次の方の為にも追加で書き残して頂けますと幸いです。

 ここまでにしておきます。あまり要領を得た人物紹介が出来ず申し訳ありません。学園の施設や世界情勢についての手紙は焼かずに残しておりますので、そちらを参照して頂ければと思います。二人目の方の手紙は相当熱量が高く、非常に読みごたえがあります。また、この手紙には私目線での印象についても書きましたが、これからの人生を過ごす際には、私の想いなどは気になさらず、自由に過ごして頂きたい限りです。
 末筆ながら、ご自愛のほどお祈り申し上げます。

 追伸
 改めて読み返しますと、ここまで二人目の方のことを悪いように書いていましたね。私は、あの方を否定したい訳ではありません。ただ、エレナ嬢として世界を見た時に、果たしてこのまま誰かを虐めるような人生で良いのだろうか、と思ったのです。然し結局のところ私の人生ですので、好きにやらせて貰おうと考えております。参考までに。

【金庫の手紙】

 ⑩

 二番目のエレナです。前回の手紙は読んだ?
 最初のエレナの書いた分と混ぜこぜにしないでよね。本当、あいつ信じられない。あいつの書いた日記は全部焼き捨ててやるか検討してるんだけど、何処がおかしくなってるか参考にならないこともないし許さなくもないかも。まあいいや、昨日書いた分の続きから行くね。

 今日思ったから改めて書くけど、絶対に原作を守って!!
 何でアトラス様が私と薔薇の庭園に行くことになるのか分かんない。本来リノが行くべきなのに。それで、アトラス様が自分自身について告白するの。本当は誰にも優しくしたくない、って。
 どうして私にそれを言うのよ! 
 相談する相手は、私じゃなくてリノじゃないかしら。アトリノを推してる私には本当に耐えられない。あ、アトリノって言うのはカップリングのことね。アトラス様とリノがくっついて欲しいってこと。テオドールとかヘクターじゃダメ。あんなに純粋で可愛くて最高な主人公、アトラス様以外には勿体ないじゃない。それに、アトラス様の蕩けるような目は、全部リノに向けられるべきだと思うの。
 やっぱり前のヤツがおかしくしたのね。何もかもを全部変えたら、それはもう「ドキ♡ラブ」じゃない。私達は、この世界を守らなくちゃいけないの。だから、何が何でも悪役令嬢を貫いて頂戴ね。前のヤツみたいに勝手に行動して、アトリノを潰すなんてことは絶対やめて。それに、他の攻略対象とくっつくのもやめてね。アトラス様のハッピーエンドの後は、攻略対象達はそれぞれの婚約者と結婚するのよ。全員の裏設定とか全部加味すれば、それが最善なの。いい?
 そういえば、前のヤツが消えた日から考えて、私が消えるとしたらあと三ヶ月くらいなのよね。「舞踏会」に間に合うかどうかってくらい。一応、私が何とか原作通りに立ち回れたら、その後の展開でアトラス様が私を断罪してリノとくっつくはずなんだけど。前のヤツの影響が全部消えてたらね!
 あー、書いてたら腹が立ってきた。明日もこのイライラが治まらなかったら、本当にあいつの日記焼き捨ててやるから。まあ、アトラス様やリノのことを大切に扱っていたことは評価してもいいけど。

 十一枚目の手紙、探してね。
 二番目のエレナより

【宝箱の紙切れ】

 365日目

 昨日から出ている高熱はまだ続きそう。
 アトラス王子が見舞いに来てくれたみたいなんだけど、帰って貰っちゃった。惜しいことしたかな。折角決意が固まって、私の話を聞いてもらおうと思っていたのに。こんな私のことも見舞いにきてくださるなんて、すごく優しくて本当にいい人。どうしてこんなに完璧な人がいるんだろう。
 私、エレナ・フローラとしてうまくできてない。生まれ変わって一年も経ったのに、全然完璧じゃなくて恥ずかしい。貴族の令嬢の作法とかもよく分からないし、テオドールさんにも、ヘクター様にも、迷惑をかけてばっかりで。それなのに「エレナ様は変わった」って、すごく褒めてくれる。嬉しいけど、本当に嫌になっちゃう。もし私じゃなかったら、記憶喪失前のこの人らしくできていたのかな。どういう人だったのか、あんまりよく分からないけど。
 ううん、落ち込むようなことを考えるのはやめよう。ちゃんと明日のことを考えなくっちゃ。
 もし熱が下がったら、久しぶりにヘクター様に差し入れを持っていこう。それから、テオドールさんに会って、聖水の性質についてもっと教えてもらおう。それで、夜になったらアトラス王子に会って、その時はきちんと私のことを話すんだ。本当は私はこの人じゃなくて、別の世界から来たんだって。ごめんなさいって言わなくちゃ。そうしたら、アトラス王子とちゃんと仲良くなれるかな。なれるといいな。
 前世でもダメダメだったけど、今世では変われるように、ちゃんと頑張りたい。そのためにもちゃんと寝ないとダメだね。前世では、お母さんに「早く寝なくて大丈夫なの?」ってずっと怒られてたし。だから、今日の日記は終わりにするね。おやすみなさい。

【置物の中の手紙】

五人目のエレナへ

 この手紙を見つけたなら、あなたは相当賢い人ですね。よくここまで辿り着きました。
 私の筆跡が分かりますか。四人目のエレナです。本当は、最初に机に置いておいた手紙だけで終わらせようと思ったのですが、流石に不親切かと思いましたので手紙に遺しました。
 何故私からの手紙が二枚しかないのか、そして殆ど私からの情報がないのか、気になっていると思います。それは、前任の方までの手紙を読んで、最早余計な情報は与えるべきではないと考えたからです。勿論その判断をするのはあなたなので、図書館の位置だけは記しておきましたが。読み返していると、ニコ魔王についてだけでも引き継いでおけば良かったと思いました。二人目の方の書かれていたストーリー展開から加味するに、もう出会いましたでしょうか。凄く冷徹で、台詞がかっこいい御方だそうですね。私にも謁見の機会はありませんでしたが、少しだけ気にかかっております。

 さて、この手紙の本筋に入ろうと思います。それは、次回のエレナにこれまでの情報を伝えるべきかということです。
 エレナという少女は、乙女ゲームの悪役令嬢でした。二人目の言うように、そのポジションを守るべきでしょうか。一人目のように、展開を変えるべきでしょうか。或いは三人目のように、のびのびと自由にするべきでしょうか。
 もう知っているかと思いますが、私はこの一年、殆ど社交界に出ず図書室に引き篭っていました。それは、私にその判断が出来なかったからです。勝手に価値観を押し付けて申し訳ないのですが、私は、エレナという少女の人生を、下手な判断で振り回すべきではないと思いました。彼女が生きている世界は「乙女ゲーム」ですが、彼女はひとりの少女です。それなのに、私達がそれぞれの価値観をまとめて押し付けて、その周囲を混乱させ、人生を台無しにしてしまって良いのでしょうか。
 この手紙を読ませることにすら日和ってしまい、探すには時間がかかるような場所に隠してしまいました。もしかしたら見つける頃には手遅れかもしれません。しかし、まだ高熱が出ていないなら時間は残されていることと思います。図書室の資料をすべて捨てるか、或いは逆にすべてを残すか、それだけの判断をすることはできるでしょう。また、テオドール様が全てを突き止めておられますが、あなたが結論を出せば、彼自身も聖水を飲んで記憶から消してくださるそうです。裏切る可能性はないと断言しておきます。真摯に出した結論であれば、乗ってくださる御方ですから。
 ですから、テオドール様の為にも、アトラス王子の為にも、ニコ魔王やヘクター様やリノさんの為にも。そして一番に、エレナ・フローラの為に。お願いです。私が判断できなかったことを、あなたが判断してください。六人目のエレナが、最後のシーンに入るでしょう。その前に、どうするか決めてください。つまり、あなたを含めた五人の価値観を六人目に託すか、何も遺さず六人目に新たなエレナを創り出して貰うのか。勿論、何も残さなかったとしても、六人目やその次がまた滅茶苦茶にしてしまうかもしれません。それでも、私達が押しつけてしまいかねない重荷を減らすことはできるのではないでしょうか。
 こんな重荷を背負わせてしまい、申し訳ありません。私が意気地なしでごめんなさい。それでも、繰り返しお願いいたします。私ではない誰かであれば、この判断ができると信じて。

 一人の令嬢の人生について、あるいはあなたの人生について、真剣に考えてください。

 四人目のエレナより

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