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楽天モバイルが苦労する地下鉄のエリア整備🚇📶

楽天モバイルは2020年4月の本格サービス開始から5年半ほど経過した2025年12月、当初目標にしていた1000万回線を突破。直近4ヶ月で100万回線も積み上げる目覚ましい増え方をしています。近頃は法人契約の獲得も好調だそうですが、楽天グループの総力を挙げた営業努力には目を見張るものがあります。

楽天グループ 2025年度決算説明会(2026年 2月12日)資料より引用

競合他社が値上げに動く中で、楽天モバイルは使い放題で月額3,278円という格安料金プランを維持していることも追い風になっていそうです。

楽天グループは通販モール「楽天市場」が本業なので、モバイルをきっかけにして楽天市場への送客を行うことで全体として利益を出してゆくビジネスモデルが定着しつつあるようです。楽天モバイルが使い放題の格安料金を続けていけるのは、「楽天市場」で稼げるおかげでもあるのでしょう。


楽天グループの柱は楽天市場

このように「楽天モバイル」が大きく伸びつつある楽天グループですが、昔も今もその柱は楽天市場であることに変わりありません。そして、楽天モバイルには楽天市場を伸ばす役割を期待されているようです。

競合のNTTドコモは「Amazon.co.jp」と提携しましたが、いくらAmazonで買い物されても他社に流出するだけで自社グループの収益にはなりませんから、楽天に対抗するための苦肉の策という感じです。むしろグループ内の「OCNオンラインショップ」(旧「NTT-X Store」)などを伸ばせばよかったのに…という気がしないでもありませんが、まあNTTは元々通信屋さんであって物販屋さんではありませんから、まずは本業の通信に注力するのが妥当だと思います。

KDDIも自ら「au PAY マーケット」を展開していますが、流通総額3千億円規模だそうで、楽天市場の1/20程度。EC(※)サイトとしての存在感はあまりありません。

※EC=電子商取引

とはいえKDDIも通信屋さんですし、皆が雁首揃えて副業(EC)をする必要もないと思います。KDDI(au)は2024年以降は通信品質国内No.1と評価され、2025年には世界最優秀とも評価されていますから、本業の通信をしっかり高めていると評価できます。

ソフトバンクは、グループ内に国内3位のECモール「Yahoo!ショッピング」を持っています。でもその規模は楽天市場の1/3以下(※)。そしてソフトバンクも都市部に限ると通信品質はKDDIと肩を並べていますから、本業の通信を高めていることが評価できます(地方エリアはもっと頑張ってほしいですが)。

楽天市場の流通総額は6.3兆円で、国内物販系EC市場のシェア4割を握る最大手です。ちなみに2位のAmazon日本事業の2025年売上高は4.6兆円(直販および物販以外を含む)、3位のYahoo!ショッピングは1.7兆円だそうです。

ちなみにソフトバンクはその名の通り、元々は1981年にパソコンソフトの卸売で創業しました。1996年に「Yahoo!JAPAN」を立ち上げ、2001年に「Yahoo!BB」でISPに参入。さらに元JRグループの「日本テレコム」と「Vodafone」(旧J-PHONE)を買収して、以降はモバイル通信が本業になっています。

ソフトバンクの宮川社長はかつて「名古屋めたりっく通信」(後に「Yahoo!BB」に吸収)を創業した技術者ですが、今は「これからクラウドサービスの会社になる」と言っているようで、ソフトバンクらしいと思いました。同社は「情報革命で人々を幸せに」という社是のもと、情報通信にまつわることは何でも手掛けるよろづ屋さんという感じです。でも今は売上の大部分を占めるのが通信なので、今のところは通信屋さんですね。

インフラ事業のクロスセクター効果

モバイル通信に限らず、インフラ事業には「クロスセクター効果」があります。分野横断的な効果、という意味です。

地域交通のクロスセクター効果概念図(国土交通省資料より引用)

国内では不見識なマスコミが地方鉄道の「赤字」を論う傾向がありますが、海外では鉄道事業が単体で「黒字」になる方が稀有(儲けすぎ?)な例です。マスコミが謂う「赤字」とは鉄道単体に矮小化したものですが、鉄道は地域経済に貢献している側面が大きく、それを説明するのが「クロスセクター効果」。公共交通事業で顕著ですが、単なる商売ではなく社会への波及効果が高い、インフラ事業の本懐とも言えるものです。

日本の大都市圏では人口が密集しているため、大都市圏に限ると鉄道単体でも「黒字」になる世界でも稀有な例ですが、例えば大手私鉄の東急は不動産開発が本業で、電車やバスはいわば副業。都市開発のために電車や路線バスを走らせています。東急電鉄は単体でも「黒字」ですが、グループ内で融通することを「内部補助」と言ったりもします。電車があることで沿線の住宅が売れる、電車が走っているから駅前商業施設にお客さんが来てくれる。言われれば当たり前のことですよね。

そのすぐ近くを走っている小田急電鉄は、2022年3月よりIC小児運賃を50円均一にしました。例えば小田原~新宿間の小児運賃は460円ですが、小児用PASMO・Suica等で乗るとなんと50円!

小田急小田原駅の運賃表(2026年1月現在)

鉄道単体の「黒字」「赤字」をせっせと論じていた人たちは、さぞびっくりしたことでしょう。

この思い切った施策にも、もちろん理由があります。人口減少時代に、子育て世代に選んでもらうことで地域活性化につながり、長い目で見て小田急にも還元される。インフラ事業ならではの施策です。

でも、いくら運賃が安くても、肝心のサービスが不便だったら逆効果になりかねません。小田急ではそこもぬかりなく、混雑区間の代々木上原~登戸間が2018年に複々線化した際に電車を増発して、登戸駅を発車する上り電車は昼間でも毎時18本(有料特急は含まず)もあります。

小田急の「子育て応援」の一環で走り始めた「もころん号」(向ヶ丘遊園駅)

楽天モバイルを楽天グループの入口にする

このように、インフラ事業では単体の「黒字」「赤字」を論うのはナンセンスという場合があります。

楽天グループでも、楽天モバイルのユーザーになると、楽天市場をはじめとする楽天グループのサービスを使ってくれるようになる「クロスセクター効果」(とは言っていませんが)に着目しているようです。ここ数年の決算報告を見ていると、楽天モバイルユーザーが楽天市場でたくさん買い物をするといった効果がよく謳われています。

そして、楽天モバイルは「使い放題」が売りなので、データ使用量が多い若年層に人気のようです。

楽天グループ 2025年度決算説明会(2026年 2月12日)資料より引用

楽天モバイルのユーザーにはSPUで楽天市場のポイントが還元されていますし、通話料無料の「Rakuten Link」を使うと楽天市場の広告が大量に出てきます(^^;。さらに今月からは楽天銀行の普通預金金利を上乗せする施策も始めるそうです。楽天モバイルをきっかけに、他の楽天グループのサービスを使ってもらうことでグループ内収益を高めてゆく経営方針です。

楽天モバイルの通信品質強化へ

データ通信をたくさん使う若年層を中心に、楽天グループの入口の役割を果たすようになった楽天モバイルですが、見方を変えると、肝心のモバイル通信の使い勝手が悪かったら、逆に楽天グループから離脱する原因になってしまいかねません。

楽天モバイルはKDDIから「パートナー回線」を借りてエリアの穴を埋めつつ、2020年の本格サービス開始以降も順次自社エリアを整備してきました。それでも日本全国津々浦々をエリア化するのは容易ではなく、山間地などでは今でもパートナー回線頼みのエリアが多くありますし、著名な観光地ですら圏外になってしまうこともあります。

そして都市部でも、エリアマップに色が付いていても建物の中などで使いにくいエリアの穴が多く見られます。

楽天もモバイルを始めてそろそろ6年になるとはいえ、競合他社は比較的若いソフトバンクでも旧J-PHONE時代からみると35年の積み重ねがありますので、先行する他社に対して、楽天回線エリアが見劣りしてしまうのは致し方ない部分もあるでしょう(それなのに「最強」などと謳うから他社から苦言を呈されるのでしょうが)。

そして近頃は目覚ましく伸びているユーザーの増加に対し、ネットワーク設備容量が足りなくなってきていることも問題になっています。

楽天グループ 2025年度決算説明会(2026年 2月12日)資料より引用

後者は楽天グループ自身がよく理解しているようで、2026年は「ネットワーク強化の年」にすると意気込みを見せていました。2000億円以上(※)を投資し、都市部の5Gエリア増強や地下鉄の帯域拡張に取り組むそうです。

※2025年の設備投資計画1500億円に対し、工事会社の手配が追いつかない等で630億円しか施工できなかったので、2025年予算の未消化分870億円を繰り越して2026年に施工するそうです。2026年計画の2000億円には、前年計画からの繰越分が含まれています。

楽天グループ 2025年度決算説明会(2026年 2月12日)資料より引用

具体的には、どこが弱くて、どのように強化するのでしょうか。その筆頭に挙がっているのが地下鉄です。

地下鉄エリアの整備

そんなわけで前説が長くなりましたが(^^;、ようやく本題に入ります。ただし本稿では、筆者の生活圏である首都圏の地下鉄を扱います。他の地域でも時間差こそあれ概ね同様だと思いますので、参考にしていただければと思います。

筆者は2020年4月の楽天モバイル(MNO)本格開始時より使ってきて、また普段から地下鉄によく乗りますので、同社がどのようにエリア整備してきたのかをつぶさに観察してきました:)。

楽天を突き動かした「ローミング費用が高すぎる」

まず、当初よりKDDIの「パートナー回線」を借りて地下鉄でも使えるようになってはいましたが、当時の楽天モバイルでは「パートナー回線」の利用は月々5GBまでに制限されていました(5GB以上使うと1Mbps以下に制限される)。通勤通学時に動画配信を見ているなどで「使い放題」に期待する楽天モバイルユーザーは、地下鉄でも楽天回線を整備してほしいと思ったことでしょう。

そして当時は楽天モバイルがKDDIに支払うパートナー回線使用料がけっこう高額だったようで(詳細は非公表ですが、1GBあたり500円に近い水準と言われていました)、楽天グループの財務を圧迫。三木谷会長は(自分で契約締結したはずの)「ローミング費用が高すぎる」と愚痴っていましたが、これこそが楽天モバイルに自社エリアを整備させる原動力になったようです:)。

東京の地下鉄では2021年より順次エリア化が進められ、筆者が見た範囲では日比谷線の秋葉原駅が2021年2月に楽天回線エリア化されていたのが最初でした。順次エリア整備されましたが、2021年10月時点で東京メトロで9割、都営地下鉄で6割の整備状況だったそうです。

2021年2月に楽天回線エリア化された日比谷線秋葉原駅

当初の楽天回線エリアは(首都圏では)東京メトロと都営地下鉄から整備されましたが、首都圏には他にも地下鉄やそれに類する区間があります。例えば東京8号線=東京メトロ有楽町線と一体整備されて西武が営業している西武有楽町線、10号線=都営新宿線と一体で計画されて京王が営業している京王新線、11号線=東京メトロ半蔵門線と一体整備されて東急が営業している田園都市線(新玉川線)、都営浅草線と直通運転している京成押上線の一部、東京メトロ南北線と直通運転するために地下化された東急目黒線の一部、東京メトロ副都心線と直通運転するために地下化された東急東横線の一部(渋谷~代官山)、東京臨海高速鉄道(大崎~国際展示場)、つくばエクスプレス(秋葉原~南千住)、横浜市営地下鉄、横浜高速鉄道みなとみらい線など。(相鉄・東急新横浜線は2023年開業なので省きますが、開業時より20MHz幅で整備済みでした。)

そうした区間はまだほとんどエリア化されていませんでした。例えば東急田園都市線と目黒線が楽天回線エリア化されたのは2022年7月頃でしたが、その頃にはすでに楽天ユーザーがそれなりにいたものの、ケチケチ仕様の5MHz幅で整備されたものですから、阿鼻叫喚です。パートナー回線を切られた途端、楽天モバイルはほぼ使い物にならなくなりました。

また、一部地下区間がある横須賀線(東海道本線)・総武本線の品川~東京~錦糸町、京葉線の東京~潮見、京成本線(京成上野~日暮里)、京王線(国領~調布)、小田急小田原線(上北沢~世田谷代田と成城学園前)などでも概ね2022年内に楽天回線が整備されたようですが、やはり5MHz幅しかなく、推して知るべしでしょう。

そして、地下鉄に限りませんが、楽天回線が整備されるとパートナー回線は切られてゆきます。2022年は4月と10月にパートナー回線が大胆に切られ、突然圏外になったユーザーの阿鼻叫喚も見られました…

楽天回線エリアの整備が進んだ2023年になると、状況が変わります。2023年6月にKDDIとのローミング協定が更新され、具体的には非公開ですが、きっと料金もだいぶ下がったのでしょう。これを受けて楽天モバイルはパートナー回線の利用制限を撤廃し、地下鉄の一部区間でパートナー回線が復活。今に続く「Rakuten最強プラン」が2023年6月より始まって、「パートナー回線」も使い放題になりました。

混雑する地下鉄をわずか5MHz幅で整備

ここで問題になるのが、「ローミング費用が高すぎる」時代に突貫整備された地下鉄エリアです。楽天モバイルの4G基地局は通常20MHz幅でサービス提供しているのですが(※)、前述したように地下鉄エリアではわずか5MHz幅しかありません(☆)。つまり地下鉄では街中の基地局と比べて1/4かそれ以下(◇)のトラフィックしか捌けないことになります。

※山間地など人口が少ない場所では5MHz幅で提供されている場合もあります。

☆一部、20MHz幅で提供されていた区間もありました。

◇街中の基地局は20MHz幅×3セクター(アンテナが3組)を多く見かけますが、地下鉄エリアは1セクター(LCX方式なので指向性はありません)ですから、実際には街中のわずか1/12といったところでしょうか…

首都圏の電車は20m級の車両が6~15両編成で走っています。1両あたり定員が120~140人くらいなので、8両編成で定員1,000人ほどになります。電車の定員というのは座席はもちろん吊革・手すりを全て使った時の乗車人数で、朝の通勤ラッシュでは定員超えの電車もありますが、逆に座席が全て埋まった状態だと8両編成で400人ちょっと。席が埋まる程度だと「空いている」と感じるでしょうが、それでも4~500人が乗っているんです。

地下鉄エリアが整備された2022年頃はまだ今ほどユーザーが多くなかったとはいえ、2022年12月末時点の楽天モバイル(MNO)のシェアは2.2%でしたから、10両編成の「空いている」電車1編成に単純計算で11人、「満員」の1編成には33人もの楽天モバイルユーザーがいたと考えられます。首都圏の電車は本数が多いですから、1区間に複数編成が居ることも多い。すでにこの時点で容量不足は明らかで、2022年に5MHz幅で整備してしまったのは理解に苦しみます。

その後さらにユーザーが増え、2025年6月末時点で楽天モバイルのシェアは4.1%(楽天回線を使うMVNOを含む)になったので、今は10両編成の電車が座席が埋まる程度の「空いている」状態であっても、単純計算で20人の楽天ユーザーがいることになります。

「空いている」電車であっても20人いるユーザーが一斉に5MHz幅に接続しに行くわけですから、足りるはずがありません。

そして、吊革や手すりが全て埋まった「満員」の状態であれば、10両編成1本あたり楽天ユーザーが50人以上…電車に乗っていると、動画を見ている人が多いですよね。しかも楽天は「使い放題」をめあてに契約している人も多い。混雑時間帯は20MHz幅だって足りません。「大幅強化」という言葉が虚しく響きます。

楽天モバイルが当初5MHzで整備したのは、きっと設備容量が足りなかった等の事情もあったのだろうとは思いますが、地下鉄をナメていた面もあったように思います。そして昔の失敗から学んでいないのではと思えてしまいます。

地下鉄エリアは移動通信基盤整備協会が一括してエリア整備しています。今でいうインフラシェアリングの先駆け的存在です。そして地下鉄は年中無休で早朝から深夜まで電車が走っていますから、工事できる時間がごく僅かしかなく、またほとんどの地下鉄はモバイル通信サービスが始まる前に建設されています(※)から、建設時点ではモバイル通信設備が考慮されていません(☆)。

※東京の地下鉄で最も新しい副都心線は2008年に開業しています。地下鉄のトンネル内が今の方式で最初にエリア化されたのは2011年12月の東急田園都市線・渋谷~二子玉川間。東京メトロ全線がエリア化されたのは2013年3月でした。

☆建設時よりモバイル通信設備が考慮されていた相鉄・東急新横浜線では、2023年の開業当初より楽天回線も20MHz幅で提供されていました。現在整備中の東京8号線の延伸区間(東京メトロ有楽町線・豊洲~住吉)や横浜3号線の延伸区間(横浜市営地下鉄・あざみ野~新百合ヶ丘)などは最初からエリア整備済みで開業することと思われます。

しかも、設備を追加しようにも設置場所が限られてしまいます。2000年までに全線開業した都営大江戸線は建設費を削減するために小さいトンネルにして小型車両を導入したことが知られていますが、今は混雑に悩まされています。

かつて新規参入したEMOBILEの千本会長が、「新規参入者が話を持って行くと、いろいろと対応を遅らせてくる」と零していたことが逸話として残っていますが、これも地下鉄の特殊事情をあまり理解していない発言だったのかなと思います。

楽天モバイルも当初はあまり変わらない認識だったのかもしれません。地下鉄の特殊事情を当時の楽天モバイルが理解していたならば、時間をかけてでも最初から20MHz幅で整備したことでしょう。

地下鉄エリアの再整備

そんなわけで当初ケチって5MHz幅で整備してしまった楽天回線ですが、日々多くの人が行き交う地下鉄内のトラフィックを捌けるはずがなく、整備されてすぐに詰まるようになります。当然、地下鉄に乗る機会の多い楽天ユーザーからは批判が高まっていました。

しばらくはパートナー回線の復活などでしのいでいましたが、早晩パートナー回線も詰まるようになります(※)。

※KDDIは地下鉄エリアで 4G Band 1, 3, 41 も整備済みなので、au・UQ・povoおよびau系MVNOは地下鉄で使えます。

そこで、5MHz幅の突貫整備からわずか2年後(※)の2024年下期より、20MHz幅への拡張工事が始まります。

※通信機器の法定耐用年数(減価償却期間)は10年ほど(5Gは特別措置あり)ですが、他社の地下鉄構内基地局は10年以上使われていると思います。今回は拡幅だけなので通信機器は使い回せたかもしれませんが、わずか2年で更新せねばならないような整備をしてしまったのは無計画だったと思います。

1年と3ヶ月前の2024年11月13日に発表された、楽天グループの2024年度第3四半期決算。ここでは同社が17四半期ぶりに単期黒字になったことがマスコミで騒がれていました。

この時から、地下鉄エリアの帯域拡張が掲げられていたんです。

対策の内容は今と同じで、5MHz幅で整備してしまった地下鉄エリアを20MHz幅に拡張するというもの。ただしスケジュールは、2024年度中(2025年3月末まで)に20MHz化は40%完了し、2025年度中(2026年3月末まで)には100%完了するとしていました。

つまり今回の話は、2026年3月末までに完了するはずだった地下鉄の工事が3ヶ月かそれ以上遅れるよ、という話です。先述した未施工の870億円にもこれが含まれているのかもしれません。

筆者が見た範囲では、今回の帯域拡張が比較的早かったのは東急でした。楽天本社が二子玉川駅付近にあることが関係したのかもしれませんし、地下鉄でLCX方式のエリア整備が最初に行われたのも東急なので、偶然、東急電鉄がエリア整備に協力的だったのかもしれませんが、正直よくわかりません。

筆者が見た範囲では、2024年5月頃から再整備が始まりました。

まずは、地下駅構内にも基地局を設置または拡張し、各駅構内を20MHz幅で整備します。すると、駅に停車中の電車の乗客は駅の基地局を使いますから、トンネル内基地局の負担が軽くなります。

当時エリア整備をした駅に楽天モバイルが出していた広告ポスター(2025年4月)

その後、かつて突貫整備したトンネル内の5MHz幅を20MHz幅に拡幅します。

この2段階の整備により、だいぶ混雑が緩和され、電車が空いている時間帯であれば楽天回線もそこそこ使えるようになりました。

ただし、東急田園都市線で言うと地下に入ってすぐの用賀駅や桜新町駅あたりでは快適に使えるのですが、乗客が増えるに従い楽天回線も混雑して遅くなります。

【楽天回線20MHz幅】東急田園都市線・池尻大橋駅付近で、
2026年2月の平日昼の比較的空いている時間帯に計測した例

そして、直通運転している東京メトロ半蔵門線に入ると、5MHz幅に落ちてしまい、ほとんど通信できなくなってしまいます。東京メトロの整備は2026年夏頃までかかるようです。

【楽天回線5MHz幅→20MHz幅】東京メトロ半蔵門線・表参道駅付近で、
2026年2月の平日昼の比較的空いている時間帯に計測した例
楽天グループ 2025年度決算説明会(2026年 2月12日)資料より引用

競合他社は5Gを整備

ここまで楽天モバイルだけを見てきましたが、他社も手をこまぬいているわけではありません。楽天では5MHz幅→20MHz幅への拡張を「大幅強化」と呼んでいますが、他社はどうでしょうか。

楽天本社のある二子玉川駅から、楽天回線が20MHzで再整備された東急田園都市線の地下区間に乗って行くと、KDDI(au)は5Gになります。ただしトンネル内は n28(700MHz帯 10MHz幅)による「なんちゃって5G」ですが、NSA で 4G Band 3 と Band 41 も同時に使うので、そこそこ使えます。

そして、駅構内に入ると 5G n77 を掴み、すこぶる快適。楽天モバイルが駅構内を 4G 20MHz幅で「大幅強化」している傍ら、KDDIは5Gエリア化を着々と進めているんです。

【KDDI】東急田園都市線・池尻大橋駅付近で、2026年2月の平日夜の混雑時間帯に計測した例

ソフトバンクは、トンネル内は4Gのままですが、駅構内ではやはり5Gの整備を進めていて、夜の通勤(退勤)ラッシュ時間帯であっても、駅に着くと通信がすこぶる快適。

「さっきの楽天と同じ650じゃん」と思うなかれ。楽天はKbps、ソフトバンクはMbpsですから1000倍違います。

【ソフトバンク】東急田園都市線・桜新町駅付近で、2026年2月の平日夜の混雑時間帯に計測した例

楽天モバイルは次は2000万回線を目指すと息巻いていますが、ならば今の 4G 20MHz幅では早晩足りなくなってしまうでしょう。せっかく地下駅構内を「大幅強化」するのなら、なんで5Gを整備しなかったのかと残念に思ってしまいます。

地下鉄エリアの整備に長けるKDDIとソフトバンク

KDDIとソフトバンクが地下鉄のエリア整備で先行しているのは、経験の差もあるのかもしれません。

先述したように、地下鉄エリアは移動通信基盤整備協会によるインフラシェアリングで、トンネル内に漏洩同軸ケーブル(LCX)を這わせてエリア整備されています。

移動通信基盤整備協会Webサイトより引用

でもこの漏洩同軸ケーブルを這わす今のLCX方式でエリア化されるようになる2011年よりも前から、地下鉄のエリア整備に取り組んでいたモバイル通信事業者がありました。それがPHS各社と UQ WiMAX です。

元々データ通信を得意としていたPHS大手のWILLCOM(旧DDIポケット)と、データ通信(BWA)専業の UQ WiMAX は、地下鉄の駅構内にアンテナを設置し、そこからトンネル内に電波を飛ばす方式でエリア化を試みていました。でも地下鉄は線路が曲がりくねっているのでトンネルの奥までは電波が届かないのですが、駅付近ではデータ通信できたんです。当時は筆者もノートPCを持ち歩いていたモバイラー(笑)だったので、駅に着くタイミングを見計らってデータ通信していました。

地下鉄の駅ホームに立つと、端部にこんなアンテナが付いているのを見かけます。これが UQ WiMAX (4G Band 41) のアンテナ。拡大するとラベルが貼ってあって、写真の例ではH28年(2016年)となっています。見るからに古めかしいですが、10年前の資産が今も活きているんです。

地下鉄の駅ホーム天井部に設置してある UQ WiMAX のアンテナ

そして、UQ WiMAX のエリアを活用しているKDDIと、旧WILLCOMを買収したソフトバンクは、地下駅構内の基地局をそのまま使える立場ゆえに元々地下鉄に強かったのですが、それだけではありません。近頃はさらに率先して5Gを整備し始めており、文字通り地下駅構内エリアが「大幅強化」されているんです。

それに対して楽天モバイルは経験の差というか、2021年頃に5MHz幅で安普請してしまった失敗の教訓が活きていないというか…今でも地下鉄をナメているんでは?と思えてしまいます。

たしかに整備費用はかかりますが、いま5Gを整備しておけば10年は使えるでしょう。そして後からちびちび追加するくらいなら、まとめて整備する方が安く済みます。一ユーザーとして、せっかく地下駅構内を整備するなら5Gも整備してほしかった…と悔やまれてなりません。

(この記事は「きまぐれ手記」に掲載した記事を要約・加筆したものです)


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