電波の見本市にもなったコミックマーケット
今年も暑い夏がやってきました…なんて言うと、もうすでに2ヶ月以上も暑いよ!とっくに残暑だよ!と言われそうですが💦、今日・明日(2025年8月16~17日)には特別熱い夏が訪れるという人もいるでしょう。
晴海の頃から参加していた筆者はもう引退して今は見送り組ですが、毎年この時期に東京ビッグサイトで開催される「コミックマーケット」(コミケ)は、連日10万人もの参加者が押し寄せる巨大イベントです。すでにサークルチェックを済ませ、万全の態勢で早朝の電車に乗って会場へ向かった人も多いことでしょう。
今朝は曇り空でした。登山などであれば「あいにくの曇り空」かもしれませんが、酷暑の夏コミに参加する人にとっては直射日光や雨を回避できる絶好のコミケ日和だったかもしれません。

大規模イベントの輸送需要に応える鉄軌道
この一大イベントに合わせて、会場最寄り駅のある「りんかい線」と「ゆりかもめ」は臨時ダイヤを組んで、早朝から増発対応して来場者の移動需要に応えています。
今のように鉄軌道が充実していなかった頃は、都営バスが大増発して対応していました。柔軟に増発できる路線バスも重要な交通手段ではありますが、運転手不足が叫ばれる今でも電車が無かったら機能不全に陥っていたかもしれませんね。つくづく鉄軌道は都市機能の要だと思います。
今は大半の来場者が「りんかい線」と「ゆりかもめ」に移行したので本数は減りましたが、今でもコミケに合わせて東京駅から臨時バスが出るので、新幹線で参加される方を中心に利用されている方も多いことでしょう。
スマートフォンの普及と電波増強
そしてスマートフォンの普及に合わせて(つまりこの15年ほどですね)、モバイル通信も臨時増強されるようになりました。こちらも今は無くてはならないものだと思います。
かつての携帯電話(ガラケー)の頃は、コミケ会場では輻輳してつながらず、マイクロセルで輻輳に強いPHSがつながりやすかった時代がありました。その頃は確実に連絡を取れるようトランシーバーを持ち込む人もいたくらいですが、今は昔。
後にスマートフォンが普及し、音声通話からデータ通信に移行。今では友達との連絡にもLINEなどを使っていることでしょう。カタログも分厚い紙の冊子ではなく、電子カタログが使われています。さらにはキャッシュレス決済を導入するサークルもあるようです。
入場待ちの時間も、昔は紙の本(カタログを含む)を読んで過ごす人が多かったですが、近年は動画配信を見る人が多いので、データ通信量が増えて、それに合わせて各キャリアも電波増強を頑張っているようです。
そしてコミケは毎回数十万人が参加する大規模イベントだけに、各キャリアとも絶好のアピールの場と見ているようで、単に電波増強するだけでなく、電波改善のアピールの場としても積極的に活用されているようです。
実際、通信キャリア各社は以前より移動基地局車両に特別なラッピングをするなどして来場者を楽しませる(と同時に自社の存在感を示す)工夫もされていますし、かつて電波対策に苦しんでいた頃のソフトバンクは会場内に「Wi-Fi忍者」を放つなどして話題になったこともありました。
「忍者」のような奇をてらった対策ばかりでなく、最新技術も次々と投入されています。電波という見えないものの効用を一般ユーザーに体感させ、新技術の効果を実証するには、多くの人が集まるイベント会場は格好の場なのでしょう。
だからと言って同じように大規模イベントを陰で支えている鉄道事業者が安定輸送をアピールすることはあまりありませんが、通信キャリアはしたたかですね(褒め言葉)。
ソフトバンクの対策
ソフトバンクは、昨冬は既存基地局で対応可能として追加の対応をしていなかったのですが、今夏は12日に追加の対策が発表されました。
ひとつは既存の基地局に 5G Sub-6(3.9GHz帯)アンテナを追加するというもの。普段は人影まばらな駐車場に、コミケでは入場待機列ができるので、そこを増強するようです。
もうひとつは移動基地局車両の配備ですが、こちらには「Starlink Business」をバックホールにする公衆Wi-Fiを新たに設置し、負荷分散を図るそうです。

ソフトバンクといえば、かつては割り当てられた周波数帯が少なくて苦慮していた時期がありました。その頃は盛んに公衆Wi-Fiを活用していたものの、2012年秋にイー・モバイルを傘下に入れ、さらに5Gの周波数帯も追加割当され、多くの周波数帯を使えるようになって以降はWi-Fi活用が下火になっていましたが、ここにきて蘇った格好。

近頃は動画配信などの普及で1ユーザーあたりのデータ使用量が増えているので、それに対応するためにも久々に公衆Wi-Fiに着目されたのでしょうか。
衛星通信を使う仮設のエリア対策ではKDDIに一日の長がありますが、ソフトバンクもその経験を積んでおきたい、といった狙いもあるのかもしれません。
また、モバイル通信は端末部では電波(無線)が使われますが、基地局から先は光ファイバー(有線)などが支えています。しかし臨時に架設する基地局ではバックホールとなる光回線の確保も課題になるので、公衆Wi-Fiを衛星通信に迂回させることに一定の意義がありそうです。
そしてもちろん、「Starlink Business」をアピールする狙いもあることでしょう。
KDDIの対策
続いてKDDI(au)も14日に対策を発表。待機列ができる場所に車載型基地局3台と可搬型基地局6台を設置することで通信容量を普段の2倍にするそうです。

そして、可搬型基地局のうち3台には、DB-MMU (Dual Band Massive MIMO Unit) という新しい技術を投入してきました。
これは現在開催中の大阪万博会場に初導入されたばかりのもので、前者の「Dual Band」というのは、3.7GHz帯と4.0GHz帯(いずれもn77)の2つの周波数を同時に利用できるようにしたことを指しています。
KDDIには5G用に3.7GHz帯と4.0GHz帯が100MHz幅ずつ割り当てられていて、既存衛星通信との干渉問題も2024年に概ねクリアし、広帯域なSub-6帯を使えるようになりました。
KDDIは2024年以降、ソフトバンクを抜き去って通信品質の高さが評価されるようになりましたが、3.7GHz帯と4.0GHz帯の2つの周波数を使って、他社よりも多くの基地局を建ててエリアを構築したことが奏功しているのでしょう。
そしてKDDIでは 5G n77 という国際バンドを使っていて、対応機種が多いのも重要なポイントです(※)。
※5G n78 対応機種も同時に使えるようになっています。
後者の「Massive MIMO」は従来から使われていますが、ひとつのアンテナユニットに多くの素子が埋め込まれていて、各素子が指向性のある電波を発射することで、ひとつのアンテナユニットで多くのユーザーに別個の電波を届けられるようにする技術です。
ドコモなどが採用している従来型の(Massive MIMOでない)アンテナでは同じ電波を多くの人で共用しているので、混雑による速度低下が著しい傾向がありました。そこで他社は「Massive MIMO」という技術を導入し、電波を分けることで混雑を回避する仕組みが使われています(最近はドコモも「Massive MIMO」を導入しつつあります)。
ただしMassive MIMOは基地局から端末への「下り」通信が対象で、端末から基地局への「上り」通信では通常の(指向性のない)電波になりますので、上下非対称になる(上り通信は混雑しやすい)傾向がありますが、動画視聴などの用途では「下り」通信が多いのに対し「上り」通信は少ないので、動画視聴が多い今の個人ユーザーの使われ方に向いています。
なお、ソフトバンクもKDDIも大規模展示場(展示ホール内)では2021年までに5G整備済みになっているので、屋内での臨時増強はありません。

NTTドコモと楽天モバイルの対策は?
NTTドコモは具体的な発表はしていませんが、この夏も電波対策を実施するそうなので、屋外待機列に臨時基地局が設置されたりすると思われます。
ドコモも以前より対策はしていたものの、どこかズレていたようで、ドコモは2023年まで酷いと言われていました。2024年には何度目かの正直でようやく対策ができてきたようですが、今年はどうなるでしょうか。
もし今年のコミケでドコモが快適に使えるようになっていたら、ようやく重い腰を上げて 5G n78 が整備されたのかもしれません。
ちなみに2024年までの対策はここに載っています。
楽天モバイルは昨年の夏と冬には臨時増強をしていましたが、今年は特に発表されていないようです。アナウンスしていないだけで増強している可能性もありますが、はてさて。
展示ホール内は5G整備済み
会場の「東京ビッグサイト」屋内(展示ホール内)は各社とも5G整備済みになっているので(KDDIとソフトバンクは2021年までに5G整備済み、遅れたドコモも2023年までに整備済み)、昔のように忍者が現れたりはしなくなりました:)。

ただしドコモの5Gは特殊な n79 というローカルバンドに頼りきりで、国際バンドで対応端末の多い 5G n78 の整備をサボってきたので、ドコモの特殊な 5G n79 に対応していない機種が4Gに接続して混雑する傾向にあります。このため、ドコモの 5G n79 対応機種に 5G SA 契約のSIMを入れている人は快適に通信できますが、それ以外の人は混雑して使い勝手が悪くなりがち。特にn79非対応の機種を使っている人は、デュアルSIM機能を使って povo 2.0(330円で24時間使い放題)などを入れて行くことをお勧めします。

人が集まる大規模イベントは、各キャリアの通信品質の見本市
多くの人が集まるイベントでは鉄道などの交通インフラが威力を発揮するように、限られた無線帯域を使うモバイルネットワークの質も試されることになります。
コミケは1日に10万人以上もの人が1箇所に押し寄せる上、早朝から来場者が集まってきて(※)開場前から待機列ができるので、普段は人が疎らな屋外待機場所に人が集中し、しかも比較的若い人が多く、手持ち無沙汰になる待機中は動画を見るなどして通信を使うことも、大規模な増強がされる理由のひとつでしょう。
※初電より前に出かけて並ぶ(徹夜)行為は禁止されています。
そして、混雑する待機列の中で快適に通信できるか否かが実地で試されるわけです。友達などグループで出かけていれば、ドコモのオレはつながりにくいのに、povoを使っているアイツは快適につながる…などと比較されることにもなります。おのずと、各キャリアが通信品質を競う場にもなっているのでしょう。
同様に、野外音楽フェスや花火大会など、普段は人が少ないがイベント時だけ混雑する場所には臨時の対策が入ります。特にフェスではオンラインチケットやキャッシュレス決済が多用されるようになったので、スムースな通信は主催者側にとっても重要事項になっていて、主催者も積極的に協力しているようです。
通信キャリア各社には大きな鉄道駅や混雑する電車内でも通信を利用できるようにエリアを作ってきた経験があります(ドコモは5G展開で躓き、楽天モバイルは地下鉄などで使い物にならず整備途上ですが)。地道にエリアを作ってきたノウハウが、イベント会場での使いやすさにも活かされているのでしょう。
電車やバスに乗ってコミケ会場(または花火大会や野外音楽フェスなど)へ行ったら、現地で仮設基地局などを見かける機会もあることでしょう。
多くの人がイベントを楽しめる裏側で、このようにインフラ事業者である通信キャリアが頑張ってエリアを作っていることと、鉄道・バスや通信事業者が陰で支えていることも併せて、思い出してみていただけたらと思います。
(冒頭画像はNTTドコモの広報資料より引用)
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