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NETFLIX『キル・トニー』配信

字幕担当したスタンダップ・コメディー番組の2本目が配信された(タイトルと写真はホラーっぽいが、れっきとしたコメディーショー)。

アメリカのスタンダップコメディーを訳すのは本当に大変だ。まず、笑いのツボが違い過ぎる。なぜこれで笑えるのか分からないネタでみんながドッと笑う。

1つには、アメリカの歴史や文化、有名人などを知らないと笑えないということがある。これは結構ウラ取りが大変で、いろいろ調べて「ああ、そういうことね」とわかっても、それで日本人が笑えるかというとかなり厳しい。

それをどう笑わせるかが悩ましいところである。ただ、こちらはあくまで翻訳だし、字幕の場合は字数の関係で説明ができないから、日本人に分からない事柄が出てきても、そのまま訳すか「ある俳優が」とか「ある番組で」などと一般的な名詞にするなどして、判断していくしかない。

もう1つには、ほとんどが人種ネタと下ネタだということ。たまに政治ネタも出てくる。日本人はわりと自虐ネタやコンビの場合は相方をディスることが多いかと思うが、黒人が白人を、白人が黒人を、あるいはLGBTQあたりの差別的発言も多くて、「これ、笑っていいの?」と思ってしまうものも多くある。

もうこれはコメディー文化の違いといえるだろう。スタンダップコメディーとはそういうものだと割り切って訳すしかない。

私が3年前に初めて翻訳したコメディーは、同じくNETFLIX独占配信の『ロニー・チェンのココだけの話』という、中国系マレーシア人のコメディアン、ロニー・チェンの60分番組だった。

この方は、とても頭がいいと思う。最初から最後までよく練ったネタで、勝手なことを書くネット民を批判していく。後半でイギリスをかなりディスってはいるが、彼の笑いのスタイルはウィットに富み、皮肉が混じっていてイギリス的な感じもする。

とにかくアメリカ人のスタンダップコメディーとは一線を画すコメディアンだ。これはさほど下品なジョークが出てこないので(もちろんゼロではないが)、初めての方でも楽しめるかと思う。

この時の翻訳苦労話は、ブログ『アラカンからのチャレンジ』で紹介しているので、ぜひご一読を。

この時は、前半が私で後半のミスター・ビーンのあたりから別の方が担当した。最近は最後のクレジットに2人分の翻訳者名が出ることもあるが、この時は1人しか出せないということで私の名前がクレジットされた。何だか申し訳ない気がしている(逆に自分の名前が出ないことももちろんあるが)。

そして、今回の『キル・トニー:マディソン・スクエア・ガーデンを笑わせろ』はもっと多い人数で分担した。8月の中旬から下旬にかけての超短納期だったので、2時間ちょっとの映像を1人20分ずつくらいで分けたようだ。

前半が別の翻訳会社の3人、後半が私が契約している翻訳会社の4人、全部で7人で担当したとわかった。というのも、今回は全員の名前がクレジットされているからだ(こんなのは初めて見た)。

ポッドキャストから人気に火がついた番組で、トニー・ヒンチクリフというコメディアンが司会進行を務め、応募してきたコメディアンをくじで選び、1分間のネタを披露させる趣向である。

何人ものコメディアンが出てきて、ネタも1分ですぐ終わるので分けやすいこともあり、私が担当したのは3人分だけだった。

1時間34分あたりから出てくるベテランのコメディアンで俳優の(といっても調べて分かったのだが)ハーランド・ウィリアムズという白人の中年男性と、フィオナ・コーリーという白人の車椅子の女性。神経に障害があるようで話し方がとてもゆっくり。きれいな人なのにやはり下ネタだった。

もう1人担当したのだが、11歳の男の子でカットされていた。私も映像を観たとき、こんな小さい子がこういう番組に出て人種差別的な発言や下ネタでウケを狙うのか、とちょっと衝撃だったのでカットされていてホッとした。さすがのネトフリも親たちからのバッシングを避けたのか、どこかからストップがかかったのかもしれない。Who knows?(知らんけど)

登場者はくじで選ばれるので、誰がどのタイミングで出てくるかわからないのでドキドキしながら待つ、というのがこの番組の面白さらしいが、ネトフリ版はさすがに台本があるようで、登場人物たちはちゃんと自分の出番を知っていてスタンバイしていた。

登場するのは、何年か経験があるプロのスタンダップコメディアンが多いのだが、緊張するのか、滑って全然ウケない人もいるし、観客にブーイングされる人もいて、結構リアルで残酷だ。

でも、人種も性別も問わず(さすがに女性は少ないが)、障害者の人たちもウェルカムな雰囲気だし、またネタもタブーなしということで、とにかく自由。それをさばくトニーの話術も人気の要因のようである。

この他に『キル・トニー:ウケなきゃアウト!』という1本目の番組がネトフリにある。参考のために前もって観たが、この回の会場はテキサスで、ゲストにイーロン・マスクドナルド・トランプの物まね芸人が出ていて、この2人の掛け合いはなかなか笑えた。

下ネタ満載なので、アメリカのスタンダップコメディーを見慣れていない方にはあまりおススメできないが、興味がある方はまあ観てみてください。

アメリカのスタンダップコメディーがどんなものか、あまり不快にならずに楽しみたいという方には、先ほどのロニー・チェンか、Amazon Primeで配信中の『ジミー・O・ヤン 人生はお買い得』あたりがおススメ。同じアジア人のせいか、笑いのツボが近いし、さほど下品さはない。

うまくURLをつけられなかったので、またブログで恐縮ですが、こちらの記事の中から飛んでみてください⤵



映像字幕・実務翻訳者: 浦田貴美枝
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著書:『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
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『夢を叶える字幕翻訳者の翻訳ノート』
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Blog: 『アラカンからのチャレンジ』