アマプラでドキュメンタリー配信
今日は娘の誕生日。35年前の今日、私は初めてママになった。初めてのNYで初めてのお産。心細かったし、無痛分娩なのに痛くて苦しくて大変だったけれども、娘が無事に生まれてきてくれて、最高に幸せな1日となった。
この時期、NYは街中がクリスマスの飾りつけでキラキラしていてとてもきれいだ。年末には寒空の下、生まれたての娘を連れてロックフェラーセンターの大きなツリーを見に行ったこともいい思い出となっている。
NYの街角では、あちこちでモミの木が売られていて生木のいい香りがする。よく映画やドラマでも見かけるが、この時期の風物詩のひとつだ。
当時、そのモミの木を売りさばいているのがどういう人たちかは知らなかったが、今回字幕担当したのは、そんなクリスマスツリー商人たちの物語で、詳しい裏事情をいろいろと知ることができて興味深かった。
それが『喜びの商人たち~NYクリスマスツリー商戦~』(Merchants of Joy)というドキュメンタリーで、今年の9月、出版翻訳の過酷なオーディションを受けている最中に、同時進行でやっていた作品だ。
驚いたのは、まずあれだけたくさんのツリーを売りさばいているのがたった5組のファミリーだということ。
●見た目サンタクロースのような白ヒゲのおじいさん、グレッグ。
●サバサバ・イケイケ系で口は悪いが人情に厚い姉御肌のヘザー。
●穏やかなウォーターマン夫妻と娘のナッシュ。
●昔グレッグの下で働いていたが、独立してグレッグをライバル視するジョージ。4人の子持ちのシングルファザーだ。
●そして、顔出しをしない謎の人物、ケヴィン。
彼らの関係は「フレネミー」frienemy と称される。「友達(friend)」と「敵(enemy)」を掛け合わせた言葉である(造語だが、結構昔からあったらしい)。ライバルのようで、困った時は助け合う仲間同士。この時期だけの人間関係である。
昔は縄張り争いが過酷で、マフィアが絡んでいろいろ事件もあったらしいが、今はNY市の公園局が仕切るクリーンな入札制になっている。
彼らにはそれぞれ得意とする地域があり、暗黙の了解で棲み分けているのだが、実際には割り込みや取り合いがあったりして(もちろん入札上)、なかなかの混戦模様となっている。
生の木は香りがいいし枝ぶりも見事だけれど、毎年カットされた木を買ってきて終わると捨ててしまうのは環境的にどうなの?と思っていたが、木は森から切ってくるのではなく、野菜や花と同じように農場で苗から育てているのだということを初めて知った。
また、捨てられたツリーは回収され、細かいチップにして再利用しているので、さほど無駄にはなっていないとのこと。
それでも、苗から育て、しょっちゅう遠くまで見に行って世話をして伐採して…となると手間も経費もかけているから、毎年50万ドル以上売らないと儲けが出ないという。
安い中国製のフェイクツリーはともかく、本物のモミの木でもそこそこの品は大手量販店で安めに買える。路上で売られるのは2~3万円ほどもするので、そこはやはりマンハッタンだから成り立つ商売だろう。
特にお金持ちが多いアッパーサイドは恰好の売り場となるが、残ったらすべて処分となるから売る方も必死だ。
ウォーターマン夫妻の店のモットーは "Sell the fucking Tree!" だった。公共放送なら「ピー」が入るところだが、配信では堂々と出るだろう。
どう訳そうかと思ったが、せっかくのきれいなツリーに「クソ」なんて合わないので「ツリーを売りまくれ!」とした。下品さは出せなかったが、売ろうという情熱は出せたと思う。
また、口の悪いヘザーは時々訳しにくいことを言ってくる。みんなツリービジネスだけでは食べていけないので、他にも商売をやっているのだが、彼女はエキゾチックミートの店をやっている。
いわゆるゲテモノの肉である。ワニとかラクダ、ニシキヘビなど「え?それ食べるの?」というものを売っている(本人は食べないらしいが)。彼女の夢は「ビーバー肉のホットドッグを売ること」。看板もかわいいビーバーの絵なのに、それを食用にするという。
そして "I am a spicy beaver." と言うのだ。「私自身がホットなビーバーなの」とするしかなかったが、これは隠語である。字幕ではこれ以上説明できないので、分からない人には「?」となるセリフだろう。各自でググってもらうしかない。
まあとにかくクセの強い人たちばかり出てくるが、裏事情は面白いし、モミの木にもいろいろあって、見ているとそれぞれ個性があって一度買い始めたら毎年買ってしまいそうな魅力があるのは伝わってくる。
せっかく工夫したイタリックがすべて正体になっていたり、相変わらず縦字幕の数字や記号がおかしかったりするが、これは配信の宿命であろう。少々気にはなるが、変なところは無視して悲喜こもごものストーリーとNYのホリデーシーズンの様子を楽しんでいただけたら幸いである。
フリーランス翻訳者: 浦田貴美枝
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