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【ショートショート】冷めたコーヒーと後悔は似ている(1005文字)

“冷めたコーヒー”と“後悔”は似ている。もう二度と元に戻ることは無いのに、人はそれを口にしてしまう。

……とまあ、こんな具合に語り始めておいてなんだが、実はこれを言っているのは、他でもないこの俺。そう、「冷めたコーヒー」自身だ。
念のため伝えておくが、「俺」って言ってるけど、ミルクは入っていないぜ。

心の底に熱を失った深い褐色の闇が沈んでいる。口にすれば、苦くて酸っぱい。
思わず眉間にシワが寄り、俺は苦味走った表情をキメる。

「……どうだ、後悔に似てるだろう?」
そう思った瞬間だった。

段取りではフェードアウトするはずだったBGMが、なぜか逆に音量を上げる。
ステージ後方の照明がパッと明るくなり、観客席がざわつく。

「え?」と思って振り返ると、そこには「後悔」が立っていた。

そう、モノマネ番組恒例の「ご本人登場」だ。

「ご本人、“後悔さん”が来てくれました!」

司会者の声に促されて、ダークなスーツに身を包んだ「後悔」が、ゆっくりとステージ中央へ歩み出る。

俺がさっきやった振り向き方をわざと真似して、“後悔が振り向く”なんて超レアなポーズを披露してくるあたり、もう本物の余裕だ。

まさか本人が来るなんて思っていなかったから、俺は一気にドギマギしてしまう。

俺の真横まで来た「後悔」は、「さぁ、サビはご一緒に」みたいな雰囲気を醸し出しながら、俺の肩に手を回す。

しかし……改めて並んだ瞬間、俺は悟った。
似てねぇ。全然似てねぇ。

俺の褐色なんて、後悔の漆黒に比べたら底が知れてる。“ブラック”を名乗るのが恥ずかしい。

それでも観客は拍手喝采。「似てる!」なんて声も聞こえてくる。
だけど俺は、さっきのキメ顔を激しく後悔している。
よりによって、“後悔”本人の前であんな表情をするなんて……。

曲が終わると、「後悔」は余裕の表情で握手を求めて来た。
俺は恐縮した姿勢でそれに応えるしかなかった。

「いやぁ、似てるねぇ…。その…“深い闇”とか“戻れない感”とか“冷めた表情”とかさ」

ご本人さん、茶化さないでくれ。

「あれ、どっちが本物ですか? 鏡ですか?」

司会者さんよ、それはあまりにコクってもんだ。

観客がクスクスと笑い出す。

「後悔」は、先に俺を中央の立ち位置に誘導すると、自分は少し後方に立ち、余裕の笑みを浮かべている。さすが、こんな時でも後悔は先に立たないんだな……。

俺の額からは大量のドリップがしたたり落ちる。

これって完全に、コウカイ処刑だ。

(了)


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